370 ラシード隊商 イヅル国の漆器を扱うことにする
何か忘れていることはないかな。何か引っ掛かるとラシード。
そうだ、塩の置き場所を作る時、乾燥という言葉が出た。
思い出した。漆器だ。今まで砂漠の乾燥にやられてしまうから漆器はこの国から出なかった。おれの収納なら乾燥は関係ない。これは儲かるぞ。
「タローのところに行ってくる。副長はついてこい」
タローの屋敷に急いだ。
「タロー、タロー。いるか」
「なんだうるさいな」
「儲け話を持って来た」
「ほどほどに生きていられればいいが」
「まあそう言わずに。漆器があるだろう。素晴らしい品質だ」
「そうだ。世界一と思っているが、砂漠の乾燥で木が割れてしまうことが多くて外に出せなかった」
「俺の収納があれば砂漠の乾燥は関係ない。砂漠を通って持ち出せる。純情女王の国まで持っていって市場で売ればこの国の漆器に敵う品質の漆器はないから売れるぞ。エチゼンヤに持ち込んでもいい。そうすればさらに販路が広がる」
「国で使う分しか作っていないからどうするかな」
「漆の木はあるんだろう」
「ああ。国の奥の方にたくさんある。昔は魔物がいたから漆掻きにいけなかったが、今はお狐様が魔物を追い払ってくれたので行ける」
「この国は奥が深かったな」
「国全体としたらこの辺は森の入り口から入ってすぐのところだ」
「奥の人たちは生活が苦しいだろう」
「よく知っているな。いい土がないから焼き物も出来ない」
「そうだろう。その人たちに漆を掻いてもらえればその人たちも生活が楽になる。漆器はとりあえず今までの工房で作ってもらえればいい。技術を覚えてもらって奥にも工房を作ったらいいだろう」
「そうか。そうだな。すまないな。奥の人たちにも仕事ができるか」
「この国の人は森の管理が上手だ。漆器に使う木を切り出しても大丈夫だろう」
「すぐ植えるからな。それに漆器に使う木はそれほど大量ではないだろう」
「漆器はおれが買い上げる。他の隊商では砂漠の乾燥にやられてしまうから誰も手が出せないだろう。先祖代々の付き合いだし、お狐様の国だ。俺が暴利を貪ることはない。タローに損をさせることはない」
「わかった。やろう。見本程度なら今でもあるから持っていってくれ。出発までに集めて渡す」
「承知した」
「よかった。奥の人の暮らしをどうにかしようと思っていたがどうにもならなかった。こちらから陶器で得た利益を回してやっとだった。助かる」
「ほどほどに作れ。決して大量に作るな。品質の落ちたものを作るな。良い品質のものを作って、それを俺に売れ。品質がよく品数が限られていれば高く売れる。値崩れは起きない。その儲けで、奥の人の生活がこの辺の人と同じくらいになればいいだろう。それ以上儲ける必要はない。そのくらいなら木も大量に切らずにすみ、切って、植えて、育って、使ってのサイクルがうまく回るだろう」
小動物がうん、うんと頷いている。これでいいのだろう。
タローの屋敷を出て宿舎に戻りながら副長が言った。
「隊長、儲け話と言っていましたが、儲かりませんね。手間賃ぐらいですね」
「そうだな。まったく。まあいいか。運ぶ手間もないし、国の奥の方の人たちの生活は苦しいのだろう。その人たちが普通に暮らせるようになればいいさ」
お人よしだと思う副長。だがそれだから線指輪が貰えたのかもしれないと思い返した。俺も隊長についていく甲斐があると思う副長であった。
翌日の市場も大盛況だった。一泊してタローから漆器の見本をもらって出発した。漆器は乾燥地帯ではなく、エチゼンヤに持ち込んで捌いてもらうつもりだ。
ディースは近いので偽装荷物ではなく普通に荷を積んだ。
お狐様の社の入り口でベーベーと隊員を待たせて一人でお狐様の社に寄る。神職に挨拶して社にお参りした。
社の扉が開いてお狐様と小動物が降りて来た。
お礼を言われたような気がする。多分、漆器のことだろう。
「どういたしまして。漆器はうまく売り捌きます。いくらかでもこの国の方々のためになればと思います」
そう言ったら頷いて尻尾を振って消えた。
神職が社の扉を閉めに来た。
「シン様が観察ちゃんをつけてくれましたので、この頃はお狐様はよくこちらに来てくれるようになりました」
「観察ちゃんはさっきも見かけました」
「どこにでもいるんです。この頃あちこちで見かけるようになりました。転移ができるからお狐様も随分楽になったと思います。といっても歩けるところはお狐様は歩いているようです。また行商人の荷車に乗せてもらったりしているようです。先祖代々お乗せしているという行商人の方もいらっしゃいます。お狐様はみんなと触れ合うのが楽しいみたいですよ。国民もお狐様が通るとお茶に呼んだりしています」
「そうですか。いつもはどこにいらっしゃるのですか」
「子供と遊んでいます。今は誘拐された子を連れ帰ってその子とその子の村の子供達と遊んでいるようですよ。観察ちゃんのおかげで夜はよくこちらに泊まりに来てくれるようになりました。お世話のしがいがあります」
「そうですか。それはなによりです」
「ところでラシード様はシン様の関係者でしょうか」
「なぜそう思うのでしょうか」
「お狐様はこの国の人は会ったことがなくてもお分かりになるようです。外の人には近づきません。外の人でお狐様が気を許すのはシン様関係者だけです。お狐様があなた様に気を許しているように見えました」
「そうですか。関係者といえば関係者です」
「やはり。お狐様の御加護がありますように」
「ありがとうございます。また来ましたら寄らせていただきます」




