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目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に  作者: SUGISHITA Shinya
第四部

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368/499

368 タロー大君の屋敷にて

 家族同様のラシードは食事はタロー大君の家族と一緒だ。

 夕食は味噌汁が出た。宿舎も同じ食事だ。大君の偉いところは自分の使用人にも隊商の隊員にも同じ食事を出すところだ。


 「味噌汁も慣れると美味いな」

 「シン様は知っていたぞ。味噌と醤油、麹を持っていった。今頃自分で作っているかもしれん。箸も上手に使っていた。どこかで味噌を見かけたか」

 「いや。見たことはない。味噌も醤油も箸もここだけだ」


 「そうだ。お前収納があるんだろう」

 「ああ、時間停止の収納だ」

 「味噌と醤油の樽を入れておいてくれ。シン様が美味しいといってくれたのだ。もしかすると売れるかもしれん」

 「わかった。どうせ重くないから数樽づつ入れておこう」


 「シン様はどこの方なんでしょう。そういえばコマチが小太刀をもらったわよ。この間から中断していた小太刀の稽古に励んで今は免許皆伝よ」

 奥方の発言だ。


 「なんだと、おれは聞いていない。見せろ」

 「見せてもいいけど誰も持てない」

 「どういうことだ」

 「私しか持てない」

 「とにかく見せろ」


 コマチが小太刀を取り出した。

 「おい、どこから出した」

 「あ、いけねぇ」

 「そんな口の利き方をするものではありません」

 奥方が嗜める。それもそうだが問題はそこではない、そう思う大君であるが怖いから黙っている。


 「これがシン様にもらった小太刀」

 差し出すがタローにはさわれない。

 「どうなっている」

 「だから私しかさわれない」


 「抜いてみろ」

 鯉口を切ってスッと抜く。

 「うむ、上達した」

 「でしょう」

 得意げだ。

 近づいて刃を仔細に見る。

 「これは素晴らしい。刃文をみよ、沸と匂の美しさをみよ。この上ない。これは国の宝だ。もういい。わかった。大事にしろ。ところでどこから出した」

 「これ」


 首から下げた皮袋だ。スッと小太刀が吸い込まれる。

 「収納か。それもシン様にもらったのか」

 「そう」

 「どのくらい入る」

 「さあ。馬車一台ぐらい?」

 「それも国の宝だ」

 「でも私しか使えない。持てない」


 「なんてことだ。国宝二つをコマチが持っているのか。何でもらったんだ」

 「みんな武器を持っているから持っていたほうがいいって」

 そんな国宝級の武器を持っているのは誰もいない。いるとすればシン様の関係者だけだろう。そう思うタローとラシード。


 「おまえシン様に何かされたか?」

 「なにそれ、下種」

 娘に下種呼ばわりされて、出て行かれてしまったタロー。

 家宰と女中頭が余計なことをという顔をした。


 「タロー。そういえば、シン様と会った娘さんは誑されるようだぞ。決してシン様からはなにもしない。娘が勝手に誑され、惚れて蕩けてしまうそうだぞ。そしてシン様は手は出さない

 仲間を作ってやろうと力説するラシード。不安になるタロー。奥方様は、ボーッとシン様とか言っている。


 「危ないな。大いに危ない」

 煽るラシード。焦るタロー。なにをやっているんだかとコジロー。夕食が終わって意気揚々と引き上げかけるラシード。


 「そういえば古手の女中をよこしてくれ。シン様デザインの巨木印、オリメ商会の女性の下着を渡すからサイズをみて買ってくれ。お代は一晩着て見てそちらで値付けしてくれて結構だ」

 女性用下着と聞いて、急に目が輝きだした奥方。

 「すぐ宿舎に向かわせるわ」

 「待ってるよ」


 ラシードが宿舎に戻るとすぐに女中がやって来て、女性下着にびっくりして、目の色を変えて選んで持っていった。


 翌朝、朝食のために屋敷に行くと、すぐ奥方が砂金の大袋を押し付けてくる。

 「これは今回の代金と今度来る時、大量に持って来てもらう約束代。これがサイズの表よ」

 誰のものとは書いてないがサイズと希望枚数が書いてある。

 「毎度あり」

 ニンマリするラシード。


 「俺たちの下着は?」

 タローが男を代表して聞く。

 「ああ、忘れたわ。自分たちで申し込んでね。どうせサイズは、大、中、小、子供用でしょう」


 「忘れていたが、ベビー服、おむつ、幼児服もあるぞ。部屋を貸してくれ。販売会をする。ベビー服、おむつなどはシン様のデザイン、幼児服は眷属のエスポーサ様のデザイン、全てオリメ商会製、巨木マークの品だ」

 「わかったわ。会議室を使って。朝食の片付けが終わったら女子衆を向かわせるわ。私も買うわ」

 「おまえ赤ん坊はいないだろう」

 「贈答品よ」

 「そうか。安心した」

 「ほんとに馬鹿ねえ」


 宿舎から隊員を5人ほど呼んで会議室を借りて品物を並べた。ベビー服、おむつ、幼児服などを並べる。忘れずに男物の下着も並べる。


 朝食の片付けが終わったのだろう。ポツポツと女子衆が来始めた。昨日の下着のタグをみて巨木マークの品質が気に入ったらしい。タグをみて巨木マークがついているのを確認して買っていく。旦那の下着だろうか、男物の下着もお買い上げだ。やがて混み出した。奥方もやってくる。幼児服が取り合いになっているぞ。


 「品物の数、サイズはたくさん用意してありますのでなかったら言ってください」

 隊員が叫んでいる。

 部屋の隅を衝立で囲っておいた。品物の補充はそこに入って収納からとりだせばいいだろう。

 どうするんだそんなにというくらいお買い上げだ。衝立のかげで収納から品物を出すのが忙しい。


 2時間ほどで販売会は終了。思わずニンマリだ。代金はまとめて奥方が砂金で支払った。あとはお給金から引くなりするのだろう。

 会議室をかたづけているとタローが入って来た。


 「儲けたみたいだな」

 「毎度ありだ。品物は真正の巨木マークの品だ。紛い物と違って間違いはない」

 「そうみたいだな。俺の下着も具合がいい」

 「大商いさせてもらったから、サービスでコジローちゃんの分とお前の分、あと一組ずつやろう」

 「すまないな」

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