359 フロランスちゃんの夜働き 誘拐犯篇 (上)
花街は夜が賑わう。
お母さんは女将さんだ。夜は大忙しだ。わたしはお母さんの寝間で寝ている。お母さんは夜の仕事だからお母さんが働いていても一人で寝ている。わたしいい子。
でも時々目が覚めてお母さんを探してしまう。今日も目が覚めた。お母さんはいない。わかっているから、目が覚めたらそっと窓から外を見る。通りの両脇の家々から灯りが漏れている。通りには人はいない。夜は出歩かないのだ。
あれ、布袋を抱えて、闇を探しながら暗がりから暗がりへと歩いていく男がいる。両脇に男がついている。なんだか怪しい。ついて行ってみよう。
小さい動物さんからもらった狐面をつけて、そっと窓を開け、ポンと暗がりに飛び降りた。時々やっていることなのね。足は後で汚れ飛んでけというと綺麗になると小さな動物さんから教わった。服も綺麗になる。足は裸足でも痛くもなんともない。帰りはポンと飛び上がって窓から入ればいい。だからこっそりの外出がバレない。
わたしも暗がりから暗がりを伝って怪しい男たちを追いかけよう。花街を出ると男がやってきて一緒に歩いていく。この男の人も布袋を担いでいる。怪しいね。
家が切れたところに馬車が隠してあった。馬車に布袋を積んで男たちも乗り込んだ。どこに行くんだろう。ポンと馬車の屋根に飛び乗った。音がしないようにうまく飛び乗れた。時々遊びに来る小さい動物さんも飛び乗ってきた。どこに住んでいるのだろう。わかんないけど仲良しだ。
馬車が月の光の中をゆっくり進んでいく。夜は悪い人か花街で遊んでいる人、衛兵さんなどしか起きていない。馬車は誰にも会わず、一軒の大きな商家の裏口に入った。
馬車の上から小さな動物さんと一緒に暗がりに飛び降りる。馬車から人が降りてきて袋を下ろした。3つある。ということは最初に一つ袋があったんだね。袋が少し動いた。袋を家の中に運び込んだ。
小動物さんがこっちこっちというから行ってみると鍵がかかってないドアがあった。そっと小動物さんと一緒に入る。階段を降りる物音がする。さっきの男の人だろう。廊下には誰もいない。そっと物音がした階段の方へ行ってみる。階段を降りた突き当たりの部屋に入って行ったようだ。一階には人はいない。二階にいるようだ。
小動物さんと階段を降り、部屋の前の廊下が物置になっていたから物陰の暗がりに二人でじっと潜んだ。階段下には他に部屋はない。地下には一室だけだ。ドアが開いて男の人が出てきて階段を登って行った。
わたしはドアのところに行った。ふんふん、鍵がかかっている。ドアには格子窓があるのね。中を覗くのだろう。ピョンと飛び上がって、格子をつかんで中をみると女の人が7人いた。三人が泣いている。今の袋の三人だね。誘拐されたと言っている。わたしも昔誘拐されたらしいけど、赤ちゃんの時だったから覚えていない。
とりあえず出してあげよう。ポンと飛び降りながらドアノブをつかんで引っ張ったらドアノブが取れた。ドアが開かないね。ドアノブが取れたところ目掛けて飛び上がってキックした。ドカンと音がしてドアがぶらぶら開いた。
「お姉さん。誘拐されたんでしょ。逃げましょ」
お姉さんたちはびっくりして声も出ないようだ。
階段の上から男たちがどうしたとか言って降りてくる。小さい動物さんが階段を駆け上がった。足首を切られた男が階段を転げ落ちてきた。邪魔だ。ポイしよう。さっき隠れていた廊下の隅に放り投げた。すぐおとなしくなった。
「お姉さん、こっちこっち」
やっとお姉さんたちが動き出した。ついて来てくれる。階段の上では小さい動物さんが陣取っている。誰も降りて来られないようだ。
階段を上がると足を切られた男がうめいている。男たちを階段の下に放り投げた。
応接室があったからお姉さんたちにはそこに入っていてもらう。御者の人が馬車を片付けたのだろう。家の中に入ってきたから、小さい動物さんに預けた。
わたしは家の中の人を大掃除。一階に降りてきた人を殴り飛ばし、キックして階段下へ投げ落とす。二階から続いて降りてこようとした男たちは慌てて部屋に立てこもった。もちろんドアを蹴破って男たちをカーテンを破って数珠つなぎに縛って、引き摺って階段もガタガタ、ゴンゴン降りて、一階の地下へ続く階段下へ放り投げた。
それから、わたしは大金庫を二階から一階に運んだ。途中ドアにつっかえたから、大金庫を振り回して柱と壁を壊して通れるようにして、曲がり角でつっかえたらまた大金庫を振り回して壁や柱を壊しながら一階に降りて、地下に降りる階段に大金庫を放おり投げた。くるくる回って階段の両脇の柱を折り、壁を壊して階段に突き刺さった。二階の床が下がった。隙間がないから誰も上がってこられない。生きていればだけど。
御者さんについて行って、馬車を玄関に回させた。小さい動物さんが誘拐された女の人を連れて来てくれたので馬車に乗ってもらう。
「衛兵詰所まで行って」
御者さんはすっかり反抗する気が失せたようだ。おとなしく出発した。程なくして衛兵詰所に着いた。
「わたしは帰るからちゃんと衛兵さんに話をしてね。もし逃げたりしたらこの小さいお友達があんたの足を切って首チョンパだよ」
「じゃあお姉さんたち、バイバイ」
わたしは家の屋根に飛び移って、ポンポン飛んで花街に戻ってお母さんの部屋に戻った。汚れ飛んでけした。服はお母さんがシン様からもらったと言っていた丈夫な服だ。今日も綻びはない。狐面は線指輪にしまう。それじゃ寝よう。今日もいい夢が見られそうだ。




