354 ゴードンさんの砂漠体験事前調査 (3)
アカに起こされた。慌ててシナーンさんの館に戻る。すぐゴードンさんも観察ちゃんが連れて来た。
女中さんがお湯を持って来た。ゴードンさんは顔を洗っている。僕らの分はドラちゃんとドラニちゃんが小さくなって盥で遊んでいる。拭き布で拭いてやって、客間を出るともう皆さん起きていた。見送りしてくれるらしい。
ベーベーとバトルホースに分乗して、シナーンさん夫婦と使用人さんたちに最敬礼されて館を出た。川を渡って砂漠に入る。今日は砂漠でのテント泊を経験してもらおう。
ゴードンさんは日が昇って暑くなりだしてからベーベーを降りて歩きだした。砂漠をいくつも越えてお昼。
お昼が済んで歩きだしたら、行く手から大いなる白っぽく黄色っぽい壁がこちらに向かって猛スピードで押し寄せてくる。高さは1500から2000メートルはあるぞ。左右は見える限り壁だ。砂嵐だ。ええと、バリアを張れない人はゴードンさんだけか。進呈しよう。狐面。目、鼻、口も守ってくれる。
「ゴードンさん。砂嵐です。目と鼻をやられてしまいます。この狐面をつけてください。目、鼻、口に砂が入りません。普通に呼吸ができます」
「おお、すまないな」
お狐さんは全身にバリアを張った。
ドラちゃんが、バトルホースにバリアを頭に張るように言っている。すぐ張れたね。優秀だ。僕のバトルホース。褒めたら頭を擦り付けてきた。可愛いね。
風が出てきた。砂が舞う。すっかり砂嵐の中に入ってしまった。風が強い。風速10、20メートルくらいか。砂が遠慮なく当たってくる。
「これは面白い。進もう」
ゴードンさんは喜んでいる。目鼻口が無事で、面白くなったらしい。
エスポーサはジェナを抱っこしてすっかりバリアで包み込んでいる。相変わらずエスポーサは過保護だ。
ベーベーマンとベーベーも頭にバリアを張れるようになったらしい。この砂嵐ではバリアがなくてはいくらベーベーでも先に進むのは無理だろう。
ベーベーマンとベーベーを先頭に歩き出す。
二時間ほどしたらいつの間にか、風が弱まり、飛散する砂が少なくなっていき、気がついたら砂嵐を抜けていた。身体中砂だらけだ。ゴードンさんは頭を振って耳の中に入った砂を出している。
耳ぐらいいいか。丈夫なんだし。
みんなも砂を落としている。
エスポーサ、3人組は汚れ飛んでけだ。ゴードンさんには汚れ飛んでけしてやる。
ベーベーとバトルホースには、ドラちゃんとドラニちゃんが汚れ飛んでけを教えている。何回かやってみて出来るようになった。
ブランコ?ブランコは体を振って砂粒をビュンビュン飛ばしている。エスポーサに叱られた。ジェナの方に砂が飛んだかららしい。ジェナの手前で砂は落ちたけどね。ブランコは叱られてシュンとした。よしよししてやる。
「ゴードンさん、その狐面は使用者権限が付いています。持っていてください。それから、ロシータさん、リリアナちゃん、リオンちゃんの分です。あとで渡してください」
「すまない。これは欲しがると思った」
鴇影忍者、シン影忍者志願者になりそうだね。まあいいか。
昼時になったので砂丘の影に入って休憩にしましょうかね。砂丘を越えて降りていくとベーベーの隣に砂に埋もれかかっているテントがいくつかある。砂嵐で埋まってしまったのだろう。かろうじて潰れていない。砂嵐中何回も周りの砂を掻いたんだろうね。運悪く吹き溜まりだったんだろうな。穴掘りが好きなブランコが砂を掻き出し始める。ドラちゃんとドラニちゃんも手伝ってあっという間にテントを掘り出した。
「みなさん、大丈夫ですか。砂嵐は止みましたよ」
呼びかけるとテントの中から何人も出てきた。
「どなたか知りませんが、ありがとうございます。いつテントが飛ばされるか、つぶれるかと生きた心地がしませんでした。こんなひどい砂嵐にはでくわしたことはありません」
「そうですか。どちらに行かれますか」
「この先のソーロクオアシスに孫娘の顔を見にいきます」
「それは楽しみですね」
「お名前を教えていただけませんか」
「いや、旅の途中ですから。それにただ掘り出しただけですから。では失礼します」
もう一つ砂丘を越えよう。掘り出した人たちは、食料も水も持っていて、ベーベーも元気なようだったからいいだろう。あれワインを皮袋に入れているんじゃなかったっけ。
アカが、雪解け水は皮袋に入れておいても腐りにくいと言っています。強い魔物の皮の水袋ならさらに腐りにくいそうだ。皮袋にワインを入れて持ち歩くのは、もともと水質が悪く生水は飲めない地方の習慣と申しております。さいですか。それでさっきの爺さんは皮袋に水を入れていたのか。
砂丘を一つ越えて砂丘の影に入った。今度は誰もいない。いつもの日除を張って昼食、休憩。ジェナはブランコに寄りかかっていつものように昼寝だ。




