348 ラシード隊 ソーロクオアシスにつきシナーンに塩を売る
翌朝、ベーベーに荷物をそれらしく積んで宿を出た。
城門を出てしばらくして人気のないのを見計らい、積んである荷物を収納し、まぐさ入りのダミーの荷物に差し替えた。
背中が軽くなったベーベーは順調に山道を登り下りした。山道を降りたところで、一泊した。翌日森の中を移動して、森を出たところの砂漠で一泊。
砂の上を歩き回りその感触、砂ばかりの風景にベーベーも隊員もほっとする。俺たちは砂漠の民だと再認識した。
翌日は夜明け前に出た。暑くなる前に距離を稼ぐ。昼ごろに砂丘の影で休憩。数時間休憩後出発した。ソーロクオアシスが近くなったので、日が落ちる前にベーベーに積んであるダミーの荷物を収納し、塩に積み替える。シン様からいただいた若いベーベーには2枚、そのほかは4枚をベーベーの両脇に振り分けにしてくくりつける。
「おいこれは大変な重労働だな。半分ぐらいのベーベーにくくりつけるだけにしよう」
「そうしましょう。やってられません」
早くも手抜きをするラシード隊長と隊員であった。
「これを砂漠で運ぶのは大変ですね。値段が上がるのも当然ですね」
「そうだな。仕入れもだいたいあの山を越えることが難儀だろう。こんなに重くてはベーベーが山道を下るのを嫌がるだろうな」
「エチゼンヤさんはどうやって運んだんでしょう」
「あっちは怪物の馬がいるからな。荷車を引かせても楽に山道を登るだろうさ。大半は線指輪に収納して俺たちと同じ様にダミーの荷物を運んだんだろう」
「いましたね。ゴードンさんが乗っていた馬。あれは馬なんでしょうか」
「馬ではなかろうよ。それにエチゼンヤの爺さんだって食わせものだ。純情女王の軍人より強いぞ」
「そうですか」
「ああ、お前らは何もわからんだろうが、とてつもなく強い。奥さんのエリザベスさんもとてつもなく強い。あそこは化け物だらけだから、楽に運んでくるだろう。今日いた店員の何人かはさらに強い」
「何者なんでしょうか」
「わからんが、シン様関係には違いない。仕入れに来るときは気をつけることだ。よし、積んだな。ソーロクオアシスはすぐだ。出発」
砂丘を二つ越えるとソーロクオアシスが見えて来た。
オアシスに入ってすぐシナーンの部下が見つけてやって来た。
「おい、塩商人がやって来たとシナーンに言ってくれ。俺たちは隊商宿に行っている」
シナーンの部下は承知しましたと返事をしてすぐ引き返した。
隊商宿について、ベーベーの荷を下ろした頃合いを見計らってシナーンがやって来た。
「おう、どうだ。オアシスの経営は順調か?」
「一から組織を作り直すようで手がかかっています」
「そうか。大変だな。何かあれば言ってこい」
「ありがとうございます」
「今日は塩を売っていただけるんでしょうか」
「おお、売ってやるぞ」
エチゼンヤさんのおまけを取り出して、削ってやる。
「これは、これはすごい。これでは、塩の重さの2倍、いや3倍の砂金でもお金持ちは買うでしょう」
「そうだろうな。今までにない品質だ。売ってやるぞ。こっちに来い」
部屋の中に案内して塩板を見せる。
「一枚35キロだ。何枚必要か?」
「2枚、いや1枚か」
「お前のところは仕入れ先に一番近いし、俺とお前の間柄だ、砂金は塩の重量でいい。だから2枚にしておけ」
「いいんでしょうか。そんなに安くても。転売すれば大儲けですが」
「これはいわく付きの塩でな。お前は、カーファの野郎がどうなったか知っているだろう。それと16木乃伊の泉の話を聞いているだろう」
「ええ。有名な話です」
「それとこの間砂漠が冷えたのを覚えているか?」
「砂漠が冷えたのは天変地異と思いました」
「それらをやったのがシン様という神様だ」
「この間このオアシスの独裁者を倒していただいた方もシン様とおっしゃっていましたがその方でしょうか」
「小さい犬を抱っこしていなかったか」
「そういえば小さい犬がいました」
「それじゃ、シン様だ。この塩の出どころは、そのシン様が発見した岩塩平原だ。取り扱っているのはリュディア王国という国のシン様の息がかかったエチゼンヤ商会さんだ」
「怖いですね」
「そうだ。シン様からエチゼンヤさんが言われたのは、実費に事業継続のための儲けを入れて売るようにということだ。多少は儲けてもいいと思うが、ボロ儲けをすれば神罰が下るという、曰く付きの塩だ。ボロ儲けさえしなければ、素晴らしい塩だ。買うか?」
「是非。自分たちで使う分には問題なさそうですから買わせていただきます。この品質の塩が今までの塩の値段で手に入るというのは信じられません。ぜひお願いします」
「そうか。それじゃ2枚な。毎度あり」
隊長は舌の根も乾かぬうちに儲けたと思う隊員たち。だが儲けがなければベーベーも維持できないし、商品の仕入れもできない。さらには自分たちに回ってこないのも事実だから黙っている。




