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目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に  作者: SUGISHITA Shinya
第四部

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345/499

345 ラシード隊 塩の仕入れにアレシアス王国に向かう

 こちらラシードのヨーセキオアシス。

 ラシードが隊員に説明している。

 「シン様からいただいたベーベーを組み込んでベーベー100頭の隊商とベーベー50頭の塩隊商の二隊に分けた。塩隊商は塩の仕入れに行く。まずはアレシアス王国まで行って塩を仕入れて、帰り道のオアシスに塩を売って戻ってくる。そしたら隊商は塩隊商と一緒になって一ヶ月か二ヶ月後に出発だ。それまでは準備と溜まっているだろう家のことをやってくれ。今回は初めての仕入れだから俺と副長と隊員30で行く。残った隊員は、新旧ベーベーが一緒に動けるための訓練と次の隊商の旅の準備と市場の仕事を手伝ってくれ。30人は副長が人選する。明日夕方出発だ。副長に呼ばれたものは旅の準備をしてくれ。じゃあとは副長、頼む」


 食事はすでに行き帰り十分な量を収納してある。水もある。忘れた。岩塩の塩板とベーベーの間に入れる緩衝材を作らなくてはならない。重いから背中の保護もしなくてはならない。うまく重量を背中全体に分散するようにしなければならないな。


 「忘れていた。塩は板状だ。縦100センチ、横60センチ、厚さ5センチ、35キロ程度だ。それをベーベーの両脇に2枚ずつぶら下げる。塩の板とベーベーが擦れてしまっては塩を擦り傷に擦り込むようなものだ。ベーベーが痛がるだろう。間に緩衝材を入れる。枯れ草で作るかどうかしてとりあえず仕入れに行く50頭分、100個作ってくれ。あとはゆっくり100頭分作ってくれ。それと塩の重量をうまく分散させてベーベーの背中を保護する必要がある。その方策も考えてくれ」

 「隊長、せっかく出発までのんびり過ごそうと思ったのに」

 「すまん。すまん。板状の岩塩の輸送は初めてだからな。そのかわり旅の途中でも食事はうちで食べている食事で、水も新鮮だから勘弁してくれ」

 「しょうがない。わかりました」


 翌夕方。出発だ。緩衝材なども全て収納、ベーベーは飼い葉を荷物らしく詰めた袋を積んだ。事実上空荷だ。

 「じゃあ行ってくる」

 「行ってらっしゃい」


 隊員の家族が見送る。下手をすると生きては帰れない。今生の別れかも知れない。何時もながら出発は見送る側、見送られる側、それぞれの感情が交錯する。はずであった。


 「あなた、もしリュディア王国に行くならまたあの土産をおねがい」

 娘も頷いている。あの時一緒に行った隊員の奥方、娘さんも頷いている。なんだ、あれはそんなに良いものだったのか。わからぬ。せっかくの出発の雰囲気が台無しだ。


 「いくぞ」

 数珠繋ぎになったベーベーの両脇に隊員がばらけてつきそう。新旧のベーベーの呼吸を合わせなければならない。その調整もある。

 ベーベーも何時もの仲間と離れるので、ベーベー鳴いている。

 先頭のベーベーが催促するように鳴いてベーベーが動き出した。


 ヨーセキアオシスを抜けて砂漠に入る。

 4日ほどかけてヘラールのショーエンオアシスについた。もちろん手前でダミーの袋を収納にしまって、少し重さのある荷を出してそれらしく積んだ。


 うるさいからヘラールのところには顔を出さないことにした。

 宿をとってベーベーの世話などしていたらヘラールから迎えが来た。面倒だ。帰りに寄ると返事をしておいた。


 「おい、水臭い野郎だ」

 ヘラールが来てしまった。しょうがない。

 「なんだ。帰りに寄ると言ったろう」


 「ちょっと来い」

 ヘラールの屋敷に拉致された。


 「何か用か」

 「あのな。俺のオアシスに泊まったなら顔を出すのが普通だろう」

 「明日すぐ出るので忙しくてな」

 「それでもだ。まあいい。それでシン様にどうやってお礼をしたらいいのだ。俺は神様にお礼の方法はわからんぞ」

 「シン様は細かいことは気にしないので今度会った時でいいのじゃないか」


 「神罰が当たったらどうするんだ」

 「よほどのことがない限り、生き木乃伊の刑とか老衰刑にはならんだろう」

 「生き木乃伊の話は砂漠では有名だ。恐ろしい刑だ。老衰刑とはなんだ」

 「老衰刑の前にだ、生き木乃伊の刑は16木乃伊の他にもう一つあるぞ。何でも6人透明な箱に真っ裸で入れられて、微動だにできず、本人は意識があって元の寿命の4、50年で木乃伊化していくらしいぞ」

 「本当か?」


 「ああ。それで老衰刑はだな、なんでも岩に押しつぶされて、岩が消えると老衰老人が現れるらしい。数日で死ぬらしいぞ」

 「生き木乃伊にも老衰老人にもなりたくないぞ」


 「気にするなって。大丈夫だ。でもなあ」

 「なんだ、でもなあ、とは」

 「周りが怖くてな。おれも肝を冷やした。50メートルはあろうかというドラゴンが神威を振り撒いて2頭やって来て、神威だけで押しつぶされそうで、俺も隊員もベーベーも、もうダメかと思った」


 「なんでそうなった」

 「俺が出ている時、うちの女房がシン様に俺のところまで何人か送れと頼んだらしい」

 「それはまずかろう」

 「ああ、まずかった。シン様は気にされなかったらしいが、周りが気分を害したらしく、恐ろしくておれは平伏してしまったぞ。もう終わりかと思った」

 「どうするよ」


 「まだあるぞ。この間、冷気が押し寄せて来たろう」

 「ああ、なんだったんだ、あれは。いままでなかったぞ」

 「お前はもう耳が遠いだろうから、聞こえなかったろうが、その前に狼の遠吠えがあった」

 「おれは若い。確かに狼の遠吠えが聞こえた」

 「あれは神罰の合図らしい。白い狼がいたろう。あの狼が神罰の合図をするらしいぞ。そのあと冷気が砂漠の向こうから押し寄せて来た。とてつもなく広い砂漠を丸々冷やしてしまうのだぞ。よほどシン様を怒らせたに違いない。恐ろしいな。近くでは凍りつくようだったろう。その結果の一つが透明箱に入った生き木乃伊だ」


 「どうしたらいいんだ」

 「まあ、俺の女房のようなことをしなければ大丈夫だろう。間違っても白い狼とか厩に案内するなよ。それじゃあな」

 「ああ、弱った」


 よしよし。弱って下を向いて考えている間に逃げてしまおう。

 明日は早く出てしまおう。

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