343 フロランスちゃんの夜働き 強盗篇 (上)
わたしフロランス。
今は夜。お母さんは夜の仕事だから忙しい。だからわたしは一人で寝ている。寝る子は育つというからね。でもこの頃育ってない。時々遊びに来るドラゴンさんと小さい動物さんがそれでいいと言っているんだけど。お母さんも周りの人も何とも思わないみたい。まあいいか。そういうもんなのだろう。
一人で寝ていると飽きてしまう。だから時々窓から外を見る。あれ、向かいの屋根の上に人が三人いる。箱を持っている。怪しいね。友達を呼ぼう。
『怪しい奴が屋根の上にいるよ』
心の中で呼んだ。
すぐ友達が来てくれた。
狐面を足にはまった輪から取り出してわたしにくれた。つけたほうがいいと言っている。狐面をつける。紐はないけど落ちない。目は見えるし、息もできる。外したいと思えば簡単に外れる。誰だかバレないほうがいいもんね。足も丈夫だから裸足で構わないそうだ。あとで汚れ飛んでけというと綺麗になるって教えてくれた。
では、狐面をつけて窓から出かけよう。ポンと道に降りてすぐ飛び上がった。様子を見たいから私の家の屋根の上だ。
三人は向かいの屋根の上を急足で逃げていく。屋根から屋根へ飛び移っている。なかなか身軽だ。でもぴったりくっついて家が建っているからそう難しいことはない。同じ高さの家が途切れたから隣に移るのに苦労している。道に降りた。
どこに行くんだろう。あれ明け方になってしまう。まあこの辺でいいか。泥棒さんに石をぶつけてやろう。三人に次々に投げつけた。膝の裏に当たって音がした。膝が砕けたみたいだ。三人とも前のめりに倒れた。
「泥棒さんですね」
「だれだ」
「夜が明けてしまうから忙しいんです。お金の入った箱は返してもらいましょう」
「俺たちが盗んだ物だ。盗むな」
「やっぱり泥棒さんだったんだ。それじゃ箱は持っていくね。バイバイ」
小さい友達が三人の怪我をしていない膝をポンポンポンと踏みつけた。音がした。膝が壊れたみたい。歩けないだろう。
少し明るくなって来た。急いで帰る。小さい友達がお金の箱は盗まれた家に返してくれるというので預けた。
わたしは屋根を伝って自分のうちの窓から部屋に入った。すぐ汚れ飛んでけした。足裏も服も手も窓から入ったところについた足跡もみんな綺麗になった。それじゃ寝ましょう。おっと狐面は外して、生まれた時からしている細い指輪に入れた。
朝になった。向かいの家が騒がしい。泥棒とか聞こえる。そのうちあったあったと声が聞こえた。あったところに返したのでは盗まれたかどうかわからないからね。
衛兵詰所に道に両膝を砕かれた男が3人いて腕をつかって這って逃げようとしているみたいだと連絡があった。
衛兵が急いで現場に行ってみると確かに両足が動かないのだろう、3人の男が必死で腕を使って逃げていく。
「おい、こいつら手配中の強盗だ」
「本当だ。逃げないと捕まると思ったんだろう」
「観念しろ。その足じゃどこにも逃げられないだろう」
荷車を引いた衛兵が追いついて来た。
「あ、こいつら手配中の凶悪強盗だ。盗みに入って気づかれると皆殺しにしてしまうやつらだ」
「凶悪犯の足を砕くとはかなりの人だな」
「詰所に連れて行って全部吐かせよう」
衛兵は、二人で強盗の手足を持って荷車に乗せた。強盗の悲鳴が上がる。
「人殺しのくせにうるさい奴だ」
持っていた足を捻る。
「ギャー」
「賑やかな奴だ」
悲鳴お構いなしに荷車に積んで詰所に連れて帰った。
詰所で取調だ。
「椅子に座れ」
無理やり椅子に座らせようとする。
強盗の悲鳴が響き渡る。
「うるさいやつだ。人殺しのくせに」
「しょうがない。寝かせよう」
親切に手と足を持って寝かせてやります。
また悲鳴が響き渡ります。
「さて今夜は何をしていたんだ?」
「盗みに入って金箱を盗んだが、狐面の盗人に盗られた」
「へえ。盗人が盗人に盗られたのか」
「そうだ。狐面の裸足の幼女だ。小さい動物もいた」
「なんだと。裸足の幼女だ?なんだそれは。いい加減なことを言うな」
少し足を捻りました。
またまた悲鳴です。
「本当だ。本当に狐面の裸足の幼女だ。それに石をぶつけられ片膝を壊された」
「両膝が壊れているようだが」
「もう片方は小さな動物に踏まれた」
「幼女に石をぶつけられて小さな動物に足を踏まれて両膝が壊れた?」
また足を捻られました。悲鳴が上がる。
「それは一旦置いておこう。まずはどこから盗んだのだ」
「花街だ。有名な女将がいる置き屋の向かいだ」
「花街へ誰か行ってこい」
花街へ出かけようとしたら花街から人が来た。
「昨夜、置き屋の向かいの家に盗人が入り、金箱が盗まれたが、今朝になって、金箱が主人の部屋でみつかった。花街は自治だが、訳がわからないから、一応衛兵詰所に知らせておく」
盗人が盗んだことは間違いないと言うことになった。また、盗人は狐面裸足幼女に盗まれたと言ったが、幼女は盗人から取り返したと言うこともわかった。
わかったが幼女が石を投げただけで膝を砕けるものなのか、砕けまい。また小さな動物が膝を踏んだら膝が砕けたと言っているが、小動物ではそもそも軽いだろう。両方とも信じられない。こういう面妖な話は、そういう方々とお友達と噂がある宰相に押し付けるに限ると一決した。
取調調書は粉々に破棄して宰相の元に衛兵隊長と衛兵が荷車に盗賊を三人積んで出かけた。




