333 訳あり集団を保護する
駆け足で進むとすぐ5、6人の人が見えた。正確には6人だ。こちらを振り向く。女性が多く子供もいるので追っ手ではないと思ったんだろう。再び前を向いた。
「もし、前の方々。15人ほどの人たちがあなた方を探していましたよ。反対方向に行きましたがすぐ気がついて戻ってくると思います」
追っ手がとか聞こえる。
「お知らせいただきありがとうございます」
若い男が答えた。
「どちらへ行かれるんですか?」
「砂漠の向こう側です。ご迷惑になってはいけません。どうぞ先にお進みください」
「お疲れのようだ。しばらく休みましょうか。ベーベーに乗ってください」
僕らはベーベーから降りる。
「そういうわけには」
「グズグズしていると追っ手が来てしまいます。乗ってください」
ステファニーさんに言われた。
「それではお言葉に甘えさせていただきます」
ベーベーマンとベーベーに3人づつ乗せた。
「少し先に行ってから足跡をつけず川を渡って砂漠だよ」
ベーベー達が張り切って駆け足。30分ほど走ってから道から河原に飛び降りて川の上を走って対岸の崖を飛び上がって砂漠へ。勿論乗っている人が揺ないようにだ。
砂漠を進んで砂丘を越えたところにテントを張った。
「こちらで休んでください。寝ていないんでしょう」
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません。私たちは」
「話は後にしましょう。とりあえず休んでください。中は涼しいです」
中に押し込んで食事も差し入れた。
食事をする音が聞こえたがすぐ静かになった。寝てしまったんだろう。
さて僕らはどうするかな。
僕ら用のテントを張った。観察ちゃんとベーベーに残ってもらって、彼らが降りて来ただろう山からの道と緑の回廊がぶつかる地点に転移。山道を登る。
追っ手がいないか確認しながら少しづつ転移。峠に着いた。誰にも会わなかった。峠の先も山が重なっている。峠から少し下ったところに集落がある。集落の周りは石垣で囲ってあるが低い。行ってみよう。
石垣に入り口はあるけど誰もいないね。いた。おじいさんが干物をしている。
「こんにちは」
「なんだ。どっから来た」
「山の向こうの緑の回廊だよ。こっちには何があるのかと思って登って来た」
「そうかい。この先は山だ。幾つか超えると草原がある」
「国はあるんですか?」
「あることはあるが」
もらった桃をいくつかおじいさんに進呈した。
「国はな、ゴタゴタしているらしい。このあいだな、国王の後継の兄妹が逃げて来た。国王の親戚が謀反を起こして国王夫妻を殺害したらしい。ただし、民衆の支持はほとんどなく兄妹が戻ると軍も民衆も兄妹についてしまうのを心配して始末する私兵を派遣したらしいよ。そいつらは15、6人くらいだった。最初の兄弟たちは幾らか心付けを置いて行った。私兵は村から食料を略奪して行きおった」
おじいさんは桃のおかげで口が滑らかだ。
「それじゃ大変じゃないですか」
「なに、この村は略奪に慣れている。見えるところに置いてあるのは古い食料だ。それを持って行った。腹を下さなければいいがな」
「そうですか。よくわかりました。ありがとうございました。これを隠しておいてください」
小麦一袋を渡した。
「これは、これはすまんのう。いい小麦だな。少し種にしてあとは挽いてパンにするか。名前を聞かせてくれるか」
「シンと申します」
「そうかい、そうかい。ありがとうよ」
「じゃ行きます」
僕らが山道を戻ると、家の中に隠れていたのだろう。女子供が出て来て小麦の袋をしまっている。集落から両方の峠を監視しているらしいよ。さすが略奪され慣れしている。大丈夫だろう。
峠を越えて集落から見えなくなってからテントまで転移した。
観察ちゃんが何もなかったけど6人がそろそろ起きそうだと申しております。
日除を設置した。例の四本柱の熱転換シート付き日除だ。
シャワー棟も出してやろう。シャワー棟には洗濯機も増設した。
起きて来たね。いくらか疲れが取れたようだ。
「ご厚意に甘えてしまって」
「いいからいいから。気にしないでください。シャワー棟をお使いください」
起きたらあったシャワー棟にびっくりしている。
オリメさんが女性を案内していく。三人いた。姫さんとお付きだろうな。残った男の人は砂漠に行って見たりしていた。
「追っ手が来ると迷惑になります。ここで私どもは先に行かせてもらいます」
「あてはあるのですか」
答えはないね。
「追っ手はこちらには来ませんよ。砂丘一つ砂漠に入っていますので緑の回廊からは見えませんし、足跡もつけていませんから、当分追ってこられません。今頃回廊をウロウロしているでしょう」
シャワー棟から女性たちが出て来た。さっぱりしたね。服も綺麗になった。侍女さんが男を案内してくれるみたいだ。それなら任せよう。
日除の下で休んでいる僕たちの元に姫さんがやって来た。
「この度はありがとうございました。シャワー棟にはびっくりさせられました。見たことはありません。さっぱりしました。ここで私たちは先に行かせてもらいます」
同じことを言っているね。
「行く宛はないのでしょう。しばらくご一緒させてもらいます」
「ご迷惑を」
「そんなことはありません。僕たちは諸国漫遊の旅をしているだけですから。迷惑ではありません。今日はしっかり休んでください。シャワー棟から男の人が出てくるまで砂漠でも見ませんか」
ベーベーに三人乗せて僕はベーベーマンに乗り少し散歩する。どこまでも続く砂漠に驚いている。見るのは初めてなのだろう。
「この砂漠を越えると山脈があって、その手前の麓にオアシスが点々とあります」
「そうですか。とても向こうまで行けるとは思えません」
「砂漠を移動するにはこのベーベーが必要です。それと十分な準備が必要です。それがなければ砂漠で倒れてしまいます」
「そうでしたか。私たちは山を越えればなんとかなると思ったのですが」
「僕らも砂漠を渡る方法はこの頃知ったんですよ。ベーベーも仲間になってくれました」
「でも二頭しか」
「男の人が出て来たようです。戻りましょうか」




