328 トールキー族長とラシード族長、シン様について四方山話をする
「ところで塩だったな。今塩の仕入れの隊商を作っている。仕入れたら寄るよ」
「ベーベーがそんなにいたのでしょうか。隊商を二つに分けたら小さくなって商売にならないのでは」
「シン様から若いベーベーを55頭もらったのでね。今訓練中だ。もう少ししたら古手のベーベーと組み合わせて塩を仕入れに行って、帰って来たら合流して隊商に出る予定だ」
「それはまた。ところで話は飛びますが神様にお礼はどうしたのでしょうか」
「お礼か。俺はもう返し切れない。一族で記憶を引き継いで返せる時に返せるだけ返すほかはない」
「そうですか。私も返しきれない。参考にさせてもらいます」
顎髭に手をやりニヤッと笑ったラシード。
「ところでだ。娘さんがいたっけな」
「はい、宿をやらせています」
「そうか」
「なんですか、ニヤニヤして気持ちが悪い」
「いやな、シン様だが、天然の女誑しでな。女が勝手に誑されてしまう。娘さんはどうかなと思ってな」
「いや私は何も聞いていないですが」
「砂漠の先にアレシアス王国というのがあって、そこの女王様がだ、シン様に惚れてしまって、毎日シン様の銅像に捧刀をしていると評判でな。俺の娘も、シン様ーっと言っている。お前の娘も大丈夫かなと思ってな」
「娘がーー」
「女が勝手に惚れるのだ。シン様は決して自分から女を誘うことはない。女誑しの神技だ。神様だけに」
揶揄われているのだと思うが、不安になるトールキーである。
「岩塩の話ですが、どこで発見されたのでしょうか」
「純情女王の国の先に、亡国があって、その先がアングレア王国、その次の国で発見された。リュディア王国という。それでここからが大切な話になるが、岩塩の発見者はシン様だ。シン様が少し権利を譲って、シン様8、リュディア王国1、岩塩の問屋エチゼンヤ0.5、商業組合0.5だ。ということはシン様の意向を無視すれば生き木乃伊の刑だろう。実費に事業継続のための儲けを乗せることは許されている。ボロ儲けは許されていない。気をつけることだ」
「わかりました。私はシン様がからんだ話で儲ける気はありません」
「この間もディースの小さな宿屋から塩を買いたいとやって来たが、シン様から聞いて来たそうだ。エチゼンヤさんから見本でもらったものを少し分けてやった。シン様から聞いた人は多かれ少なかれシン様に恩を感じているから話せばすぐ了解してくれるが、最高品質の岩塩発見の話だけが広がって行くと不届きものが出てくるだろう。お互い気をつけよう。塩はどうする?純情女王の国までエチゼンヤが運んでくれる。俺もそこで買い付ける。行くか?」
「いや、今の話をお聞きましたからわざわざ行く必要を感じません。自分で買いに行ったらかえって高いものについてしまうでしょう」
「そうか。シン様からナイフをもらったか?」
「私の族長ナイフを渡したら代わりにくれました」
「それを持っていれば純情女王の国はナイフを見せるだけで入国できる。軍隊行進、捧刀は見事だ。暇だったら見に行くといい。純情女王は軍事オタクの二つ名もある。恐ろしいぞ、片手で剣をビュッと振ってピタッと止められる。姫様芸ではない。人外の域に達している。軍人も恐ろしい。一矢乱れぬ行進、捧刀の時の抜刀の速さ、美しさ。こちらも人外だ。剣はシン様からもらったそうだ。それが600人はいるらしい。何を切っても切れる、切れ味が変わらぬ剣を装備した人外600人に敵う軍はないだろう。一騎当千だ。言葉の通りの単純計算だと600人掛ける千人で60万の軍を用意しても全滅となる。もはや神軍予備軍だな」
「怖いですね」
「リュディア王国にもシン様の神父の人外集団がいてそちらはさらに大変強いらしい。神父だぞ。それが強い。戦う神父らしい」
「狐面の墨色と鴇色の服を着た男女が来てあっという間に侵入者を切り刻んだと手紙に書いてありました。切り刻まれた死体を見て皆吐いたそうですが、その人たちでしょうか」
「いやそちらはシン様膝下の神軍だろう。カーファのオアシスをやったのも膝下の直轄神軍だろう。人外は人の心を持って人を超えた者だ。直轄神軍の軍人には人の心はない。カーファのオアシスで人の三枚おろしを見たぞ」
「三枚おろし?」
「前、中、後ろの3枚だ」
「恐ろしい。そうか、だからエスポーサ様が美人でもどこか怖いのでしょうか」
「千人隊など、ただの肉塊だ。もはや頭も手足も見当たらない。あれを見たらシン様は本当に神で人ではないということがわかる。帰りに寄ってみるがいいさ」
「今度あったらどう対応したらいいんでしょうか」
「普通だな。普通に対応することだ。悪いことをしなければ優しいシン様だ。だが恐ろしいシン様もシン様だ」
「だから神ですか」
「そうだ。何かあれば神の怒りに触れる」
「シン様はどこに住んでいるのでしょうか?」
「滅びの草原全体が神国で、その中に住んでいるらしい。知っているだろうけど滅びの草原は魔物が特別に強くて誰も足を踏み入れられないから俺もどうなっているか知らない」
「そうですか。じゃ塩はお願いします」
「わかった。これからどうするんだ」
「ヘラール族長のところに顔を出して、後学のためにカーファのオアシスを見て川沿いに帰ります。私の街も心配ですから」
「そうか。また来いよ」
「はい。また寄らせていただきます」




