326 一夜明けて
翌日、ポフポフとシンの顔をお狐さんの尻尾が叩く。
よく寝たな。お狐さんの尻尾がくすぐったい。あれ今日はジェナが胸の上だ。ドラちゃんとドラニちゃんはお腹の上。気分爽快。起きよう。
ドラちゃんとドラニちゃんが伸びをする。ジェナが頭を擦り付ける。ヨシヨシする。頭の上で尻尾をプフポフやっているお狐さんもつかまえてヨシヨシする。みんな良い子だ。
あれ、今日はアカが人化している。どうりで柔らかいと思った。アカはやれやれという顔をしている。何故だ。
アカに頭をポンとされる。思い出した。
「ごめんねみんな」
「無理もないわ。でもできることはしたから良いんじゃない」
「うん」
「しばらく私たちの国で休みましょう。お狐さんの話も聞いてやってね」
「うん」
みんなシン様はアカ様に頭が上がらない、ブランコと同じだと思った。ブランコが嬉しそうだ。
一夜明けたキジール。
歓楽街から騒ぎが広がった。
ガーリー屋敷が潰れていて誰もいない。
ガーリー屋敷から場末に向かって少し行ったところの家が二軒潰れていて、大きな潰れ跡のほうに、5人が裸で透明な箱に入れられ寸分も動かない。ただ立っている。
立て看板に「この男ども悪逆非道の極悪人につき、ここに生き木乃伊の刑に処す 樹乃神 アカ」とあった。
ブラックスパイダーの幹部ではないか、ガーリーも繋がっていたのではないか、樹乃神、アカとは何者なのかと大騒ぎである。
もう一つは何年も行方不明になっていた娘が何人も家に戻ってきたのである。行方不明になった時の年恰好で帰って来たので、誰もブラックスパイダーに結びつけるものはいなかった。当人達の記憶も行方不明になった当時のままで、神隠しにあったという結論になった。
おじさんになっていた弟が若い姉に怒られてなんとも情けない顔をしているという、微笑ましい騒動があちこちで起こっている。こちらは喜びに満ちている。
トールキー族長の屋敷。奥さんが夜、隊商の旅をしている夫に長い手紙を書いた。噂で色々聞いて心配するといけないので認めた。囚われていた女性たちのことには一切触れなかった。
早朝、族長屋敷の内外、娘にやらせている宿、ガーリー屋敷、ブラックスパイダーアジトの崩壊した様子、ブラックスパイダーの頭目と幹部5人の生き木乃伊の刑を確認し、手紙に追加して、従業員に持たせて隊商を追わせた。
奥さんはガーリーとその家族をすぐ裁判にかけた。
裁判の前に生き木乃伊の刑を見せられたガーリーとその家族。大勢の傍聴者がいる前で、ブラックスパイダーに依頼し、トールキー族長一族を皆殺しにして自分がその地位につこうとした事を認めた。
求刑通り死刑の判決となり、直ちに執行された。
判決は当然と受け入れられ誰も異議を唱えるものはいなかった。
ガーリーの息子ドラードについては、事が起きる前にガーリーと縁を切って他家に養子に出ていたので、不問とされた。取り巻き2名についても同様にガーリーと縁が切れて農家の奉公人になっていたので不問とされた。
街の人がわからないのは、生き木乃伊の刑とそれを執行した樹乃神とアカである。
どうやったら生き木乃伊に出来るのか。樹乃神とアカが何者なのか誰も知らない。
ガーリー屋敷と家二軒が潰れているが一晩で潰せるものなのか。
昨夜狐面の薄墨色の服を着た男たちと鴇色の服を来た女たちを見た者もいる。狐面をしているし誰だかわからない。
狼の遠吠えのような声が聞こえた。急激に気温が下がり、すぐ戻ったのは誰でも知っているが何故そうなったのかわからない。
キジールの住民にとってわからないことだらけだ。
顔役に族長屋敷に聞きに行ってもらうと、可愛い娘さんたちが増えていたと鼻の下を伸ばして帰ってくる。役立たずの顔役爺さんである。
わからないものはわからないから、誰いうとなく狐面の者たちは破壊神の使徒だろうとなった。使徒が屋敷と家を破壊した、破壊神が生き木乃伊の刑を執行したということになり、日常生活に戻っていった。
「ジェナちゃん、あそぼ」
プリメーロとプリメーラが遊びに来た。ジェナが嬉しそうだ。
「遊んできな」
「あそぼ」
ジェナとお付きの観察ちゃんが遊びに行った。
ブランコとドラちゃん、ドラニちゃんも見回りーと言って遊びに、いや仕事に行った。
マリアさんは仕事を休んで一緒にいてくれる。僕が心配なのだろう。ありがたい。アカとマリアさんに腕を取られて3人で散歩に出かける。
畑仕事をしている二百人衆がニコニコと挨拶してくれる。メーメーとモーモーとコッコのヒヨコに癒される。
バトルホースが2頭駆けて来た。乗せたいらしい。
僕が乗り後ろにアカが乗る。アカは昨日から人化したままだ。もう一頭にマリアさんが乗る。ゆっくり走る。風が気持ちいい。アカの体温が心地よい。バトルホースが集まってくる。速度を上げる。宙を駆ける。環状の森の上を駆ける。
ベーベーマンとベーベーが大量の荷物を背負って二百人衆とリュディア王国に向かって行く。荷物運びが嬉しそうだ。二百人衆にベーベー話しかけながら足取りも軽く歩いている。
ベーベーがこちらに気づいた。二百人衆はバトルホースが宙を駆けているのでびっくりしている。手を振った。ベーベー達がベーベーと鳴き、二百人衆が手を振り返してくれる。
ドラちゃんとドラニちゃんが飛んでくる。ブランコも駆け上がってくる。天狼だからね。天馬に天狼だ。
ドラちゃんとドラニちゃんのスピードには敵わないけど、みんな空を飛べるようになった。バトルホースとブランコは、地上と同じで宙を駆けているのだけど。
環状の森の上を一周して泉の広場に帰った。ジェナとプリメーロ、プリメーラが気づいた。
「おとたん、ずるい。ジェナも」
ブランコに3人乗せる。観察ちゃんも乗ってくれる。ブランコのバリアではいささか心許ないと思ったらしい。
「じゃ、行っておいで」
ブランコの両脇はドラちゃんとドラニちゃんだ。こっちもブランコのバリアにいささか不安なんだろう。
ブランコが宙に駆け上って行く。バトルホースもついて行く。ブランコの背中で、3人組がキャーキャー言っている。二百人衆もびっくりしているね。ブランコが、バトルホースが宙を駆ける。騒ぎに気付いて建物の窓からみなさん顔を出す。ジェナとプリメーロ、プリメーラが手を振る。
ブランコは湖を一周して戻って来た。新3人組は大満足だ。ブランコから降りてブランコに抱きついている。ブランコも嬉しそうだ。
夕方になるとお狐さんがやってくる。抱っこしてお狐さんが頭を擦り付けてきて僕はヨシヨシしてやる。今日あったことを話してくれる。子供と遊んだ、子供の傷を舐めてやったとかだ。
お狐さんが夜来ない時は、悲しいことが起こった子供に付き添っていることが多い。分身に任せられないのだ。そういう時はその次の日にやって来て抱きついて泣いて、僕の胸の上で泣きながら寝てしまう。お狐さんは子供のような優しい神様だ。
みんなもお狐さんを優しく見守ってくれる。お狐さんを傷つける悪人は排除すると観察ちゃんが意気込んでいる。お狐さんが悪人に気づく前にみなチョンパされて滅びの草原行きだろう。




