321 族長の留守を取り仕切る奥方にガーリーの悪企みと対応について説明する
屋敷に着いた。道中は特に不審なことはなかった。いつもの従業員が迎えてくれる。
「ちょっとこの間騒ぎがあって報告に来たのよ。お母さんはいる?」
「はい、奥様は執務室です」
執務室か。どうやって奥に連れて行こうか。執務室には従業員が何人か働いている。
「お母さん、お腹すいた。何かちょうだい」
「しょうがないわね。ちょっと奥に行ってくるね」
上手くいった。お母さんは私に甘いのだ。
奥に入って誰もいなくなるとお母さんが小声で言った。もっとも奥は昔からの従業員しかいないので安心ではあるけど。あれ一人欠員を補充したわね。
「何かあったの?」
「あの部屋で話す」
「わかったわ」
寝室に入って、ドアが巧妙に隠された奥の小部屋に入り鍵をかける。
「何?」
「今、説明してくれる人が来る」
「どこから」
「通路」
「教えたの?」
「知ってた」
「どういうこと」
通路のドアが開いた。体格の良い背が高い美男美女が入ってきた。うっすらと光を放っている。
思わず平伏した。母もだ。
「どうぞお座りください。大事な話があって来ました。座っていただかないと話ができません」
「神様に初めてお目にかかり、どうして良いかわかりません。どうかこのままでお許しください」
「私はアカと申します。一族の命運を左右する話です。ぜひ座ってお聞きください。このような姿できましたのは、容易に信じていただけない話だからです。どうぞお座りください」
テーブルと椅子4脚を出したので驚きながらも座ってくれた。
「私はシンと申します。いつもは子供の姿で、アカは柴犬の姿をしています。この会談が終わりましたらまたもとの姿に戻りますのでご承知おき願います」
「まずはお茶にしましょうか。侍女を呼びます」
隠しドアを通って二百人衆の女性が入って来てお茶を淹れてくれて控えている。侍女だね。元王妃様の教育を受けているから王宮侍女並みだ。それに美人だからそれ以上だ。神国侍女だ。
「どうぞ」
「いただきます」
やけになったようでもあるがなかなか度胸がある。
「美味しい」
「自慢のお茶です。ここにいる二百人衆が丹精して作ってくれています」
「美味しいです。初めて飲みました」
ターラさんも飲んでくれた。
「おかわりはいかがですか」
喉が渇いているだろうからね。二百人衆がすぐお茶を淹れてくれる。
「じゃ、話をしましょうかね。ガーリーが悪事を企んでいます。トールキーさんが隊商で出ている今を狙い、トールキー一族を襲撃、抹殺。この街を掌握して、トールキーさんが帰ってくるところを待ち伏せし、抹殺しようとしています。襲撃はブラックスパイダーに依頼しました。襲撃は今日の夜です。この屋敷とターラさんの宿に押し込んで来ます。ターラさんの宿にいる私のベーベーも狙われています。今は主だった方はトールキーさんと隊商に出ていて手が足りないと思います。もし良かったら私どもで対応させていただきますがいかがでしょうか」
「それは」
「実は娘さんにもお話したのですが、トールキーさんとはこの間知り合いました。その時これをもらいました」
族長のナイフを奥方に手渡す。
「これは確かにトールキーの族長ナイフです。砂漠の民にとって族長ナイフを渡すということは、同胞、兄弟と同じかそれ以上の付き合いとなります。そうですか。夫が信頼した方です。わかりました。お願いいたします」
「ありがとうございます。こちら側の対応を説明します。まずこの屋敷に現在二人ガーリーへの内通者がいます。これの排除は日が傾きかけた頃行います。それまでは平常通り、従業員にも何も話さないでください」
「内通者がいるのでしょうか」
「はい。男性1名、女性1名です。男性は表向きの仕事、女性は、奥で働いています。監視していますので普通に接してください」
「わかりました」
「夜にこの屋敷と宿に襲撃がありますが、この屋敷は、マリア、ブランコという私の眷属と私の僕20人で対応させていただきます。内通者を排除したら一室お貸し願います。その部屋には私とアカとジェナという私達の子供が詰めます。ターラさんの宿は私の眷属、オリメ、アヤメ、ベーベーマン、ベーベーと私の僕15人で対応します。ガーリーの屋敷は、眷属のステファニー、ドラちゃん、僕15人で襲撃します。ガーリーは生け捕るつもりでいます。それからブラックスパイダーのアジトは眷属のエスポーサ、ドラニちゃん、僕10人で襲撃します」
「わ、私どもは何をしたらよろしいのでしょうか?」
「日が落ちたら室内に退避してください。決して外に出ないでください。それだけで結構です」
「わかりました。よろしくお願いいたします」
「ではあまり時間がかかっても不審に思われるでしょうからこの辺で解散しましょう。日が傾きかけた頃来ます」
神様が立ち上がった。ターラと母親も立ち上がる。テーブルと椅子が消えた。神様とお茶を淹れてくれた侍女が揺らぎの中に消えて行った。思わず平伏したターラと母親。
「神様だわ。言われた通りにしましょう。すぐ宿に戻りなさい。神様ではないけど、時間がかかると怪しまれる」
「おかしいと思った。泊まっている筈なのに気配はないし、ベーベーに睨まれただけでドラードがちびるし」
小部屋から出て寝室に戻り、居間に戻った。
「何かちょうだい」
「しょうがないわね。ディースで買ったお菓子をあげるわ。麦こがしのクッキーよ」
「ありがとう」
娘が麦こがしのクッキーを食べながら帰っていく。
「数個やるつもりだったけど、袋ごと持って行ったわ。しょうがない娘だわね」




