315 キジールの近くの農村で金ピカ我儘青年と出会う
さてキジールの街の周辺の農村に行こう。
川の砂漠側から川を渡って対岸へ。キジールの街を通り過ぎて街道から農村地帯に入る。道幅は荷車が通れるくらいだな。すれ違いは時々道が枝分かれしているからそこですれ違うのだろう。見通しがいいからすれ違いも起こりにくいか。
畑地帯だ。畑仕事をしている人がぱらぱらといる。農村風景だ。道は集落へ続く。集落といっても家が固まっているわけではない。離れ離れの家がなんとなく集まっているというところか。魔物がいなければ家の周りに畑があったほうがいいからこうなるか。
家の前に桃の木が何本も植えてある農家があった。道端で見ていたら桃の木の下で休んでいた農家のおじさんが、お茶を飲んでいかんかと声をかけてくれた。いってみよう。少し傷のある桃を食べていた。僕たちももらった。大風が吹いて傷になってしまったらしい。桃は傷みが早いから、大きく傷ついたものは出荷できないのだろう。
「明日は街まで持って行って売るんだ」
とおじさんがいっています。
「どこの街へ?」
「ほれ目の前のキジールだ。お前さんたちはどこから来たのかね」
「今、キジールに泊まっています。時間が余ったので周辺を歩いてみようと思って」
「そうかい。この辺は魔物が滅多に出てこないから、囲まずにこうやって果樹を作ったり野菜や穀物をつくったりしていられる。いいところさ」
「そうですね。魔物がいるとどうしても囲った中で生活や農作物を作ったりしなければなりませんね」
「ただなあ。どこでもそうかもしれないけど、盗賊がたまに出る。俺たちのところは農作物以外何もないから、それこそ飢饉にでもならなければ襲われないが、街は襲われる」
「キジールも襲われるのですか」
「ああ、時々襲われる。もっとも備えはしっかりしているから大抵は不発だな」
「それとな、キジールの歓楽街の顔役のバカ息子がいて時々果樹などを持って行ってしまう。困っているんだ」
へえ。金ピカ我儘青年のことかな。
「その人は全部の指に指輪をしているような人ですか?」
「ああそうだ。そんなのは他にいないだろうからそいつだ。知っているのかね」
「ええ、この間右の拳を痛めたようで包帯を巻いていましたが」
「それはいい」
みんな笑っています。
あれ誰か来たようだ。
「おい、桃をもらって行くぞ」
噂の金ピカ我儘青年だね。
「代金は払って行ったほうがいいですよ。だいぶツケが溜まっているようじゃないですか。この際全部払ったら」
「またお前らか」
「どうも。こんにちは」
だんだん後ろに下がる。残念、三人組が待ち構えている。
「後ろに下がれないみたいですよ。今日は砂金はお持ちですか」
マリアさんがロングソードを振る。金ピカ我儘青年の頭頂の毛がフワッと落ちる。頭頂ハゲだな。手を頭にやって愕然としている。
「何するんだ」
逃げ腰の取り巻きが頑張って発言する。
「貸しの分の利子の一部だわね。もう少し利子を払ってもらおうかしら」
取り巻きの頭頂も禿げた。
「おい砂金」
今日は砂金を持っていたらしい。見せ金の偽の金塊が使えなくなったからね。金をチラチラする必要があって持っているのだろう。いい心がけだ。
取り巻きが砂金の袋を出す。睨むともうひとつ自主的に出した。
砂金二袋を受け取った。
「とりあえずこれでいいか。この辺りの被害にあった農家で分けてくれ。間に合うか」
農家の人がうんうんと頷いている。
「ご苦労さん。間違えてはいけないので言っておくが、農家の貸しは僕が今買い取った。相手は僕だ。農家じゃないぞ。農家に手を出してみろ。わかっているな。左手が使えるからまだいいけどな。両手が使えなくなったら大変だ。左手は無事でいたいものだな」
「坊ちゃん、こんなやつに砂金を取られることはありませんや」
この間いなかった取り巻きだな。ナイフで僕に突きかかってくる。
「よせ」
金ピカ我儘青年が叫ぶも間に合わなかった。
エスポーサに拳を握られナイフの柄ごと拳を握りつぶされた。悲鳴と拳であったものとナイフの柄であったものが飛び散る。
「主に刃を向けたな」
エスポーサの周りの空気が一瞬で冷たく変わる。抱っこされているジェナの周りの空気もパリパリ音を立てている。
マリアさんの手には片手棍。剣より痛いかも。
ゴゴゴゴゴゴと男たちの周りから音が押し寄せるようだ。
男たちが後ずさる。後ろは馬ほどの白狼とこれまた馬ほどのサイズになったドラゴンだ。
後ろにも下がれない。
「待ってくれ。悪かった。許してくれ。頼む」
金ピカ我儘青年は指輪、じゃらじゃらした飾りを全て外し、服も脱いで下着一枚だ。
取り巻きも下着一枚になった。
「これで許してくれ」
エスポーサが飾り、服などすぐ消した。ドラちゃんがスッとよけてやる。取り巻きが我先にと逃げて行く。金ピカ我儘青年は置いて行かれた。残った取り巻きの二人が両脇から金ピカ我儘青年を抱えるようにして逃げて行った。
「迷惑をかけた。桃の傷を直してやろう」
桃の木に手を翳した。桃の傷が塞がっていく。
「あいつらはもう来ない。安心するがいい」
農家のおじさんは平伏している。
僕らは転移。再びお昼を食べた砂漠です。ちょっとみんなをクールダウンしなければね。
撫で撫でしてやります。だんだん落ち着いたようだ。
一度神国に戻ろう。転移した。
神国に戻りみんなの気持ちの昂りが引いて行く。
自宅に戻り、おやつだ。
おやつを食べ終わったら一応元に戻った。
三人組はブランコがジェナを乗せて、見回りーと言って出かけて行った。良かった。




