313 金ピカ我儘青年に因縁をつけられる
「ただいま戻りました」
金ピカ我儘青年が僕の後ろにいたステファニーさんを見つけました。
叫びます。
「こいつだ」
「こいつだとは穏やかではありませんね。事と次第によっては許しませんよ」
「こいつが俺の拳を砕いた」
「へえ、そうですか。みていたところあなたが殴りかかって勝手に痛がっていたようでしたが」
「そんな事で俺の拳が砕けるものか」
「それでしたら、どうです。左の拳で殴ってみたら。構いませんよ」
僕が親切に勧めてやる。
「どうぞ、どうぞ。今度はこちらの頬がいいかしら」
ステファニーさんが自分の頬をピタピタとたたきます。
「いや、俺はいい」
「どうしてです。これだけ人がいるんだから殴ってみたらいいじゃありませんか。ごまかしはきかないでしょう。もっともさっきも見ていた人は殴って自分で痛がっているだけだと言っていましたが」
「落とし前を」
チンピラが言っています。
「落とし前?何それ。あなたが代わりに殴ってもいいわよ。どうぞ」
ステファニーさんが笑顔のまま睨む。チンピラ君は冷や汗がタラーっと流れています。
「いや。俺はついてきてくれと頼まれただけで、殴り賃はもらっていない」
「金ピカ我儘青年さん、払いが悪かったみたいよ。殴られ賃というのはあるかもしれないけど、殴り賃というのは初めて聞いたわね」
「それでどうしますか。宿の皆さんにも迷惑をかけて。落とし前とさっきおっしゃっていましたね。それはこちらのセリフです。この落とし前はどうするんですか。迷惑料を支払うべきだね。今ここで払いますか?それともキリトリに伺いましょうか」
「い、いや今金で払う」
いつぞやの金の延べ棒を出してきました。
手刀で二つに割ります。中身は金ではない。
「僕を騙そうというのですか。これはただの金メッキの屑鉄じゃないですか」
因縁をつけにきた人たちはみなさん青くなっています。手刀で鉄をスパッと切れる人はいないからね。
「こういうのは詐欺というのですよ。どうしてくれるんですか」
「家に帰って砂金を持ってきてくれ」
取り巻きが一人急いで出て行きました。
取り巻きが戻るまでお茶にしていましょう。僕は親切ですから声をかけてやります。
「邪魔にならないところに立っていたら」
金ピカ我儘青年と取り巻きとチンピラが中庭に出て立っています。
ベーベーマンとベーベーが忘れられては困ると、男たちの前後に陣取って座り込みました。睨みました。迫力あるねえ。ベーベーマンに睨まれて、後ろを振り返ってもベーベーに睨まれる。逃げ道はない。みなさんちびったみたいだ。
さてお茶にしましょう。
事務室の皆さんに声をかけます。
「どうもお騒がせしました。お詫びにお茶でもいかがですか」
エスポーサが、急須にお湯を注いでお茶を淹れて配りました。僕らも飲みます。
「美味しい」
娘さんの感想です。
「それは良かった」
「こんな上等のお茶は飲んだことがない」
「そうですか。国の特産です」
神国で栽培のお茶だからね。特級品のさらにずっと上だ。神級だな。
「国はどちらなんでしょうか」
「ここからだいぶ遠くです」
「そうなんですか。さっきの手刀もあんなことできる人はいません」
「鍛錬でしょうかね」
「鍛錬してできることではありません」
なんて答えようか。
ちょうど息急き切って取り巻き君が帰ってきました。
中庭に出ましょう。
砂金を小袋一つ持ってきたようです。
「これでなんとか」
金ピカ我儘青年が差し出します。
小袋を受け取ってポンポンします。
「まあいいでしょう」
ペコペコして引き上げて行きました。
事務室にとって返し、迷惑料だそうですよと娘さんに渡しました。
「そんな。受け取れません」
「受け取っておいたら。もう少しゴタゴタするかもしれないから」
ステファニーさんです。
「それに泊り客にも迷惑がかかったかもしれませんね。そこから一杯皆さんに振舞ってください」
娘さんはしばらく考えていましたが受け取ってくれました。
「そうですか。それじゃありがたくいただきます。泊り客にはシン様からだと言って一杯つけます」
「はい。そうしてください。それとしばらく食事はいりません」
「わかりました」
ちょうど、オリメさんとアヤメさんが購入した生地を商人が荷車で運んできました。オリメさんとアヤメさんがざっとみて、砂金で代金を支払っています。今度は騙すような商人ではなかったようだ。少し多めに支払ったみたい。深くお辞儀をして帰っていった。
さて僕らは部屋に引き上げます。
部屋はなかなか良いですね。調度も上品だし、ちゃんと窓もあるしね。この間のあの宿は改修を始めたかな。
さて、観察ちゃんが任せてというから十分ヨシヨシして自宅に転移。お風呂に入ってみんなで寝ます。お狐さんも来ました。もちろんなでなでして話を聞いてやります。お狐さんは嬉しそうだ。
いつものポジションで寝ます。
今日はステファニーさんとオリメさん、アヤメさんは仕事だそうです。
朝食をすませて、部屋に転移。
観察ちゃんが昨日は面白かったと映像を見せてくれました。
金ピカ我儘青年と取り巻きが家にこそこそ帰ると親父さんに見つかりました。
「因縁つけたら、因縁つけられて、砂金を巻き上げられただと、馬鹿野郎」
「だって怖かった」
取り巻きも口々に怖かったと言っています。
失礼な。僕は紳士的に接してやったのに。
「まあいい。大事の前の小事だ。後できっちりとカタをつけよう」
へへ。そうなのかい。待ってるよ。その前に潰れなければいいが。




