295 イヅル国大君屋敷にて
食堂ではまた僕たちが上座だ。遠慮したいのだけど「夢のお告げです」と大君に言われてしまった。
夕食は、ご飯と味噌汁。おかずは川魚の焼いたものだ。それと漬物。
決して豪華ではないが一つ一つが丁寧に料理されていて美味しい。
「ほう、異国の人が箸を上手に使うのを初めて見た」
「そうですか。異国の人も来ますか」
「砂漠の隊商がやってくる」
「隊商はヨーセキオアシスのラシード族長さんなら知っていますが」
「おおラシードを知っているか。やつは子供の頃から先代に連れられて来てな、よく遊んだものだ。今も一年に一度寄ってくれるが、今年はまだ来ないな」
「こちらの交易品は何でしょう」
「陶器だ。なかなか良い品と自分では思っている。ただ木を減らさないようにやっているから量は少ない。磁器のほうは高温で焼く必要があるから燃料も余計かかる。だから滅多に焼かない。やつは塩を運んでくるんだ。塩と交換だ。なかなかいい塩が無くてな。量も少ない」
「砂漠を越えいくつか国を越えたところで岩塩を発見しました。埋蔵量は豊富です。そのうち出回りますよ」
「そうかい。それは良かった。よく知っているな」
「まあ。それはそうと、これが市場に出ていたのですが、ご存知ないですか。どうもこの国からの盗品のようです」
袋から取り出したようにして、アレシアス王国の王都の市場の露天商からコマチさんの簪などと一緒に押し付けられた品を出す。
華やかな花模様の湯呑みと同じ模様の茶碗と漆器のお椀だ。
「確かにこれはわが国の窯で焼いたものだ。それもこれもかなりの高級品だ。湯呑みは磁器だ」
「あなた、それは亡くなったあなたの母親の遺品よ。祭殿に納めた筈よ」
「そうだったか。見覚えがあるような気がした」
「本当かしら。祭殿から盗まれたのね。明日確認します。シン様これは譲っていただけるのでしょうか」
「勿論。露天商が私に無償で押し付けて来たものですから、どうぞ。お返しします」
「ありがとうございます。今度は宝物庫に入れておきます」
家宰が一式預かった。
「娘といい、母の遺品と言い、お礼のしようがないな。困ったな」
「それでは味噌と醤油をいただけませんか」
「そんなものでいいのか?」
「ええ、私の国にはありません。貴重な品です」
「そうかい。どこにでもあると思った。知らなかった。樽でいくらでも持って行ってくれ」
「醤油と味噌はうまくすれば特産品になると思いますが、料理の基本が違うから少し広めるのに時間がかかるかもしれませんね」
「そうか。それで隊商の隊員は、味噌汁を初めて飲むと難しい顔をするのか。なれると美味しそうに飲むが。醤油もそうだ。焼き魚にかけてやると最初はあれだがなれると自分でかけ始める。シン様は美味しそうに味噌汁を飲むからおかしいとは思った。やっぱり知ってたのかい?」
「はい。どうしたわけか知っていました」
「へえ、そうか。まあいいや。持ってってくれ」
「それからこれは盗賊が持っていた物でこの国からの盗品のようです」
袋ごと渡した。うまく処理してくれるだろう。
夕食は和気藹々と終わった。
寝室は砂漠の隊商が来た時のために宿泊棟を別に作ってあるとのことで案内された。
良い建物だった。隊商が歓迎されているのがわかる。
今日はこっちに泊まろう。観察ちゃんに二百人衆に連絡しに行ってもらった。
一番広い部屋で観察ちゃんもお狐さんも来て一緒に寝た。
朝になると女中さんがやって来て洗濯物を持って来てくれた。
汚れていなかったとびっくりしていた。
姫さんがお客さんが来ていると呼びにきた。
行ってみると誘拐された大店のお嬢さんが両親と使用人を連れて来ていた。気が急いて朝早く頑張って出て来たのだろう。
両親にお礼を言われた。ついでだからお気になさらずと言ったけど、お礼にと食器のセットを20組出して来た。
アカがもらっておきなさいと言っています。そうですか。ありがたくいただきましょう。
両親とお嬢さんは何回もお礼を言って帰って行った。
さて、今日は帰ろう。ここはお狐さんが神様の地だから僕らが長居をするのは良くないね。
朝食の後、大君に申し出た。奥さんには引き止められた。
「そうか。またいつでも来てくれ。歓迎する。次はコマチの結婚式だな。ワハハ」
やっぱり大君は優秀なんだろうね。なんとなく察するものがあるのだろう。
味噌と醤油は樽でもらいました。麹菌ももらった。味噌と醤油の作り方を書いた紙ももらった。二百人衆に味噌と醤油を作ってもらおう。
玄関先で皆さんが送ってくれる。コジローちゃんがまた来てねーと言っている。
手を振って門を出る。来た道を帰る。それらしいからね。




