294 助けた大君の姫を無事大君に送り届けた
朝になった。日が高くなって戻っては流石にまずいだろう。身支度したらすぐに転移。女中さんが朝食を持ってくる前だった。間に合った。
朝食は、ご飯、味噌汁、菜葉のお浸し、漬物。
美味しいけど。
待て、イヅル国には味噌と醤油があるのか。神国には無いぞ。
朝食後、コマチさんが迎えに来た。
今日は馬車。馬車で一日でトウケイに着くらしい。
馬車2台だ。僕らで一台、コマチさんらが一台だ。コマチさんの馬車には町年寄が乗っていくらしい。ご苦労さんです。
僕らの馬車には、僕、マリアさん、ステファニーさん、オリメさん、アヤメさん、エスポーサ。ジェナはエスポーサが抱っこしている。ジェナはみんなが揃っていると、ブランコかエスポーサがいいらしい。甘やかしてくれるのか。ブランコは外を歩いていて、ドラちゃんとドラニちゃんが背中の上だ。
途中休憩を挟んで昼食は少し大きな街の食堂を借り切った。馬で先行している人がいるみたいだ。食堂を出発して、午前と同じように休憩を挟んで、夕方にトウケイに着いた。城壁はない。どこからがトウケイだかわからない。だんだん家が増えてきたと思ったら家が混んできて、トウケイになった。
街の中心の塀で囲まれた大きな屋敷に入った。ここにも屋根付きの門があった。馬車が大きな建物の玄関らしいところについて、馬車を降りた。リュディアの王宮のようなものだろう。
地位のありそうな中年の男性と女性、女中さん5、6人が迎えてくれた。
挨拶の後、玄関で靴を脱ぐ。すぐ女中さんがタライを持ってきて足を洗ってくれた。ブランコたちもそうだ。コマチさんの手紙にはもてなし方も書いてあったのだろう。
広い部屋に案内された。コマチさんの両親らしい人とコマチさんに似た男の子が待っていた。コマチさんがお母さんと言って走っていく。母娘で抱き合って涙している。無理もないね。父は大君だったね。流石に涙は流さなかったが目は潤んでいた。僕らはすぐ上座に案内されてしまった。コマチさんは何を手紙に書いたのだろう。
母娘も落ち着いたようだ。
「私はこの国を治める大君のタローと申します。この度は娘と我が国の民を連れて帰ってきていただき感謝の念に耐えません」
さすが大君、娘ばかりでなく他の人のことも忘れていないね。
「時間の許す限り当家に滞在願いたい」
「はい」
「固苦しいことはここまでにして、まずは風呂で旅の汗を流していただきましょう。一緒に入ろうではないか。わははは」
「あなた」
「忘れていた。これは奥でこちらがコマチの弟だ」
大君さん、途端に砕けてきた。地がそうなのだろうね。堅苦しいことは数分も持たないらしい。
「さあ行こう」
奥さんとコマチさんの弟さんが挨拶する間も無く、自分で案内を始めた。付いていく。大君一家もゾロゾロと付いていく。途中で大君の奥方とコマチさんの弟さんに挨拶された。
「すみませんね。うちのがアレで」
弟さんがうんうん頷いている。弟さんはコジローというのだそうだ。
「あれで心配で心配で少し痩せてしまったくらいです。でももう少し痩せた方がいいのですが」
なるほど少し太り気味だ。
建物を出て渡り廊下で次の建物に入る。さらにいくつかすぎてやっと風呂場に到着した。独立した、まさに湯殿棟だな。
脱衣所は男女別。まさか中で一緒にはなっていないだろうな。別だった。よかった。
男湯は、大君とコジローちゃんと僕と三人組。女湯はそれ以外。
三人組を洗ってやって、自分も洗っていつものように遊び出すとコジローちゃんと大君も参加して来た。大君もだよ。
窓の外に気配がする。窓を開ける。
「入っておいで」
観察ちゃんとお狐さんが入って来た。
すぐ二人を洗ってやる。
「じゃ遊ぼう」
大君とコジローちゃんが目を見張っている。まあいいか。
「こっちが僕の観察ちゃん、こちらはご存知、皆さんのお狐様だよ。遊んでやって」
大君とコジローちゃんが平伏した。裸だから締まりがないんですが。
「お狐様にはご機嫌麗しく恐悦至極に存じます」
三人組が早く早くと言うのでお狐さんと観察ちゃんは挨拶の途中で三人組と遊び出した。楽しそうだ。
「ここに平伏しててもしょうがないですよ。遊びましょう」
コジローちゃんはすぐ遊び出した。大君はややあって、そうだなと呟いた。
「よーし。お湯をかけるぞー」
桶にお湯を一杯にして、バシャーとかける。みんな喜んで避けたり潜ったり楽しいね。大君が先頭に立ってバシャバシャと遊ぶ。
「あなた出てらっしゃい」
脱衣所の方から奥方の声がする。
「いけねえ。怒られる。おい、みんな出よう」
いつものように暖かい温風空気玉で乾かす。ブランコもできるようになった。大君とコジローちゃんは布で拭いている。着替えが出ていたよ。出していただいたものに着替えました。見計らったように女中さんが入って来て、着ていた服を持って行きました。洗ってくれるのだろう。いいけど汚れていないよ。
脱衣所を出ると大君とコジローちゃんがキョロキョロしている。観察ちゃんとお狐さんがいないからね。僕らは勿論知らんふり。
「あのう、お狐様と小さな動物がいたような」
「いい夢を見た」
さすが大君。意外と優秀なのかも。
「そうかあ」
「腹減った。夕食だあ。行くぞ」
「すみません。子供みたいで」
「いえ、お風呂でみんなと遊んでくれました。楽しかったです」
湯殿の隣が厨房と食堂らしい。




