291 助けた大君の姫を送る イヅル国の神様のお狐様と知り合いになる
街を出てしばらくするとまた集落がパラパラとあるようになります。
今日も社の森に泊まろう。森を目指す。
あった、あった。森だ。社の森だ。
いつものように社にお参りして広場の使用をお願いする。
テントを張ってテーブルを出し食事だ。忘れないよ。社の近くに葉っぱに乗せて果物を置いた。来ましたね。狐に似た動物。今日はさらに近くに来た。
「お前、後をついてきているの?」
聞いてみました。
ギクッとしています。図星だね。
おいでというと近づいて来ました。世界樹の香りというか、なんというか。縁を感じる。向こうも分かったらしく安心しているので抱っこした。頭を擦り付けてくる。よほど嬉しいのだろう。尻尾もパタパタやっている。何か昔に世界樹さんとあったのだろうね。聞いてみよう。
『世界樹さん。この子を知っている?』
『ずいぶん昔ね。私が生え替わる前よ。人を助けようとして魔物にやられてしまって、なくなる寸前まで人のことを気にしていたから可哀想になってね。助けてやったのよ』
『へえ』
『それで魔物避けの力を授けて比較的魔物が少なかった地に送ったのだわ。その子のおかげでその地は魔物がいなくなって平和に暮らしているの』
『そうなんだ』
『その子は人が好きでね。子供と遊ぶのが好きなのよ。今でも遊んでいるわ。だから社が途絶えないの』
『そこにいる間は遊んでやってね。社に来た子と仲良くなっても死んでしまったりして寂しいのよ。そうだ。シンたちのいるところに転移する力を授けましょう。そしたら寂しくないわね』
狐のような動物が喜んでいる。やや尻尾が増えた。今まで何本だったのだろう。今は6本だ。人助け、長命、頑健、魔物避け、転移(限定)だろうか。あとはなんだろう。見かけ元の4本に見えるようにできるそうだ。そうか。変化か。まあなんでもいいや。僕らの縁者だ。
名前をつけてやろう。この国の人たちが信仰しているなら変な名前はつけられないね。お狐さんなんてどうだろう。そのまんまだけど。体が光った。しまった。あれあれ尻尾がまた増えた。七本だ。水を飲ませてみよう。飲んだ、光った。八本になった。竹水筒入りアンクレットをつけてやろう。光った。9本になってしまった。困った。
アカが自業自得というものですとおっしゃっています。その割には木の実、果物、野菜、塩をせっせとアンクレットに入れている。山菜は無かったね。今度世界樹さんに果樹のところに生やしてもらおうと仰っています。お狐さんは子供みたいで可愛いからね。アカも気に入ったみたいだ。
アンクレットは見えなくしておこうね。尻尾も前の通り4本に見えるようにしておいた方がいいだろう。人との付き合い方は今まで通りが良いと思うと言っておいた。力はセーブしておこう。今まで通りがいい。長続きしている関係だからね。過度に助けず、過度に頼らずだ。
『今までどうしていたの?』
『転んで擦りむいたら傷口から泥をとりのぞいたり、病気になれば人の生きる力に力をかしたり、あたしの力が足りなくて亡くなってしまったら、残された人が落ち着くまで近くにいたりした。社に来て泣いている子がいたら寄り添っていた。住処は社を作ってくれたからそこを宿として、村人の荷車に乗せてもらったり、自分で歩いたりして国内を移動していた。行く先々で子供と仲良くなってもみんなあたしより先に亡くなってしまうのであたしは寂しくって寂しくって』
お狐さんは泣いてしまった。
「アウ、アウ、アウ、アウ」
身近な優しい神様なんだね。もう寂しくないよ。いい子だ、いい子だと撫でてやる。
今まで通りがいいよ。みんなから慕われる神様。みんなの身近な神様。寄り添う神様。恐れがない神様。僕らにはないな。
世界樹さんに報告した。可愛い神様よねと言っていた。
みんなのところに連れていくと、みんなもお狐さんも新しい仲間とすぐ分かったみたいだ。三人組とジェナと遊び出した。ジェナの安心して遊べる遊び相手が増えた。
姫さんと大店のお嬢さんとそのお付きの娘さんはびっくりしている。
「お狐様」
拝んでいる。
なるほど有名なんだな。
姫さんに聞いてみる。
「知っているの?」
「この国の守護神でお狐様と言われて祀られています。お見かけするのは初めてですが、数々の伝説や今でも遊んだ、救われたという話が数多くあります。この国の人は信仰というか、皆慕って、好いています。シン様は位が上の神様なんですね」
そうか。お狐さんはこの国の神様か。今回助けたこの国の人と僕らにあったこの国の人から僕たちの今までの記憶は消しておこう。誘拐された人は隊商に助けられて僕らがたまたま通りかかって隊商から預かってこの国に届けに来たということにしておこう。
それではベーベーとバトルホースには帰ってもらおう。彼らにもこの国の神様のありようがわかったみたいだ。それがいいと思っているみたいだ。転移で帰ってもらった。
リュックを出さなきゃね。テントも分解して運べるタイプの小さいものに張り直した。
夕食も調理したことにして出しておく。テーブルは出せないな。
大店のお嬢さんとお付きの人たちの記憶も変えておいた。姫様はしょうがないね。小太刀などもあげたし。黙っていてもらうことにした。
「みんなの僕らに関する記憶は変えた。隊商に助けてもらって、たまたま旅人の僕らが連れて届けたということにしておいたからよろしく」
「わかりました。この国の人達の神様はお狐様です。優しい身近な家族のような神様とこれからも生きて行くのが幸せと思います」
お狐さんが喜んでいる。
優しい神様でいてね。
さて夕食にしよう。勿論お狐さんが上座だ。照れている。可愛い神様だ。
夕食が終わった。食器は下を流れる川に女中さんが洗いに行ってくれた。
テントはコマチさんと大店のお嬢さんと女中さん。僕とアカとジェナとマリアさん、ステファニーさん。それにオリメさん、アヤメさん、エスポーサ。三人組は外ということにしておいた。
コマチさん達におやすみを言ってテントに入る。
それで我々のテントは実は繋がっている。こっそりオリメさん、アヤメさん、エスポーサが入ってくる。三人組も入ってくる。お狐さんも入って来た。お狐さんは僕の頭の上、人化を解いたエスポーサの脇だ。お狐さんもみんなと一緒に寝られるので嬉しそうだ。
僕の眷属はいつも一緒にいるからいいけど長い年月寂しかったろうな。あれ僕らと同じ超長命になってしまった。いいか。
『いつでも遊びにおいで』
うんと言っている。
お狐さんが加わりましたがいつも通り寝ました。
今回のお話に出てくるお狐さんは、「お狐さん」の物語として別途投稿してあります。ほぼ童話です。もしよろしかったらどうぞ。
https://ncode.syosetu.com/n1464in/




