273 助けた大君の姫を送る 砂漠の旅 小太刀を作った
「シン様、薙刀、ありがとうございました。振りやすくて振るのが楽しいです」
「そうかい。それは良かった」
エスポーサの薙刀は出来がいいよね。自画自賛だけど。
三人が僕にも、あたしにもという顔をしている。
「収納を見てご覧。ブランコ、ドラちゃんとドラニちゃんのも作って入れておいた」
ブランコがグレイヴを取り出した。柄に天狼が巻き付いている。キラキラして綺麗だ。
エスポーサが薙刀を出す。同じように天狼が柄に巻き付いている。
ブランコがお揃いなので照れている。
ドラちゃんとドラニちゃんも短槍を取り出した。
『柄におそろいのドラゴンが巻き付いていて嬉しい』
ドラちゃんとドラニちゃんも満足してくれたようだ。
「みんな、人化したら使うといいよ。みんなには要らないだろうけどね」
武器で遊んでいるうちに砂丘をいくつか越えた。
「じゃこの辺からドラちゃんに乗っていこうか」
みんな大切そうに武器をしまって、大きくなったドラちゃんに乗った。
あれ、コマチさんは何も武器は持っていないな。どうするか。
「コマチさんはなにか得意な武器がありますか?」
「得意というほどではありませんが、小太刀を習っていました」
作ってもいいけど、持ち歩くのが大変だろう。
アカが収納袋がいいと言っています。ああ、そうか。しばらく使わなかったから忘れていた。収納サイズはどのくらいにしようか。馬車一台分くらいでいいんじゃない、眷属ではないからとアカ。なかなか厳しい。でもそうだろうな。そのくらいの容量なら、たいそう珍しいがあっても不思議ではないか。
では作ろう。小太刀を二百人衆の刀と同じ金属で作った。銘は入れないよ。巨木のマークのみ。収納袋は魔物の柔らかい革で作った。首から下げる紐も魔物の皮だ。壊れないようにしておこう。
小太刀と収納袋には使用者限定をつけておく。竹水筒を入れておこう。この間の泉で汲んだ水が入っている。アカがそれで良いと言っています。
「コマチさん、小太刀です。使って下さい」
「いいんでしょうか。こんなに良くしてもらって」
「もらっておいたらいかがでしょうか」
エスポーサが言ってくれる。
小太刀を差し出すと受け取ってくれた。
「抜いてみて下さい」
鯉口を切ってスッと抜いた。なかなかの手練とみた。
「素晴らしいです。こんなに美しく力強い小太刀は見たことはありません。とてもいただくわけには参りません」
「皆何かしら武器を持っています。なにかあると大変です。ぜひお持ち下さい」
「でも」
「その小太刀は使用者限定が付いています。コマチさんしか使えません。無駄になってしまうのでもらって下さい」
「そうですか。それではお預かりします」
「それと、普段持ち歩くには邪魔かもしれません。これをお使い下さい」
「これは何でしょうか?」
「収納袋です。小太刀を入れてみて下さい」
「入るのでしょうか。大きさが、あ、吸い込まれた」
「その収納袋にも使用者限定が付いています。馬車一台分くらいしか入りません。首から下げておくといいと思います」
「こんな小さな収納は見たことはありません。家にあったのは長持を小さくしたようなものでした。それでその長持の倍くらいしか入りませんでした。子供二人分くらいの収納です。馬車一台分なんて国宝になってしまいます」
「そうでしたか。まあ小さいので言わなければわからないでしょう。それと収納袋の中に竹水筒が入っています。この間の泉の水です。冷たいままでいつまでも腐りませんからお持ち下さい」
「ありがとうございます。なんとお礼を言っていいのかわかりません」
お礼を言われ続けていたのでは敵わないから、ドラちゃんに大きくなってもらう。
「ではここから空の旅です。ドラちゃんに乗って下さい」
ドラちゃんに乗って大空へ。雲もなく気持ちいいね。
右手には雪を頂いた聳え立つ山脈というか、幅の広い山脈と言った方がいいか、とにかくずっと高い山が広がっている。あの先はどうなっているのだろう。とりあえず今は、山脈と砂漠の間を飛んでいく。オアシスは山脈の水を利用しているのだろうね。オアシスが点々とある。
ラシードさんの隊商が歩いている。下からは見えないようにしておこう。
『シン様、ブランコ様の遠吠えはここまで聞こえたと言っているよ』
『へえ、観察ちゃん。どうして知っているの?』
観察ちゃんがきょときょとしている。やっぱりな。どうりで怪しかったわけだ。まあいいや。
『転移で帰ってこられるの』
『そのために最初から合体してきたの』
『そうかい。危なかったらすぐ帰って来るんだよ。寂しくなったら帰って来るんだよ』
『分かったー。シン様大好き』
これだからな。だんだん計画的犯行になってきた。甘いんだろうか。そうです。甘いのですとアカが申しております。
ええと今どこかな。
『シン様、ラシード隊商の人たちが、今度のオアシスがヘラール族長のショーエンオアシスって言っているよ。ラシードさんのオアシスは更に先だって言っているよ』
『そうかい。ありがとう』
「ドラちゃん、今度のオアシスがヘラール族長のショーエンオアシスだっていうから、それは飛び越して先のオアシスを目指そう」
「分かったー」
しばらく飛ぶと大きなオアシスがある。これがヘラール族長のオアシスだろう。飛び越してその先の小さなオアシスの手前に着陸。少し歩かないとね。少し休憩。シャワー棟を出す。いちいち言わないけどね。コマチさんは人だからね。
ベーベーマンにアカと乗る。ベーベーにはコマチさんが乗った。ブランコは大きくなってジェナを抱っこしたエスポーサを乗せている。ドラちゃんとドラニちゃんはとりあえず僕にくっついている。
さて日が高くなってだんだん気温と砂の温度が上がって来た。パラソルの出番だ。おお、涼しくなった。コマチさんがびっくりしている。
砂丘を幾つか越えると小さなオアシスが見えて来た。家も30軒くらいはある。泉に行って見ると、水質は思いの外良かった。
隊商宿も塀で囲まれていた。僕達は泊まらないから中へは入らなかったけど、観察ちゃんによれば中庭があるとのことだった。
最初のオアシスとは随分違うね。あれはなんだったんだろうね。森はそんなに遠くないし、泊まる人もほとんどいなかったんだろうな。
泉のそばにいたら誰かきた。
「宿に泊まるんか?」
「いや、オアシスが見えたから、寄って見ただけだよ。ここは泉の水もいいね」
「普通だろう」
「向こうの方の砂漠が切れるところにあったオアシスの水は不味かったよ」
「よく知っているな。あれはほとんど溜まり水のようなものだ。そのままでは飲めないぞ」
「やっぱりそうか」
「坊主たちはあそこから旅をして来たのか。そのいでたちでは無理だろう」
「他にいるんだけど、今は別行動している」
「そうか。これから何処へ行く?」
「この先だよ。ラシードさんのオアシスがあるんでしょう」
「小僧、気安く呼ぶな」
「ラシードさんはラシードさんでしょう。他に呼び方があるの?」
「三族長の一人だぞ」
「今は二族長だよ」
「なんだと」
「カーファは滅ぼした」
「何を言っている」
「そのままだよ」
「言っていることがわからん」
「ラシードさんがそのうちここを通るだろうから聞いてみたら。じゃ僕は行くね」
からんでくるからもう少しでプチするところだったよ。暑いのにオアシスを出ることになっちゃったよ。
あのおじさん、なんで絡んできたのかね。
ドラちゃんに乗って先に進もう。
だいぶ先に進んだ。
大きなオアシスが見える。きっとラシードさんのオアシスだね。手前の砂丘の陰に着陸した。直接見えないほうがいいからね。
今日は帰って明日朝から行ってみよう。神国の泉の広場に転移した。ベーベーは自分で砂場に帰って行った。
まだみんなは帰って来ていなかった。いいんですけど。
コマチさんは部屋に行った。まだ日は高いので、三人組はブランコがジェナを乗せて見回りーっと出て行った。エスポーサは管理棟へ。




