269 ラシード族長の元に娘さんたちを届ける
エスポーサがシナーンさんの遠縁の娘とベーベーを連れて転移していった。
みなさんポカンとしている。見たことのない転移に反応が出来ないのだろう。
その間に手紙を書こう。
ラシード様
こんにちは。
娘さんを砂漠で保護しました。ドラゴンのドラちゃんに送らせます。ベーベーは娘さんのものです。
それからお願いがあります。娘さんと一緒に、ヘラール族長の遠縁の娘さんもベーベー付きで保護しました。お手数ですがヘラール族長の手元にお届け願えませんでしょうか。
なお、シナーンさんの遠縁の娘さんたち二人もベーベーと一緒に保護し、シナーンさんの元へ送りました。
あと一名保護しましたが、砂漠の民ではないので私が届けます。
以上、砂漠の民はすべてカーファが誘拐しました。
ではまたいつか。
◯年◯月◯日
樹乃神
「あのう」
大君の姫が我に返った。
「私の国は砂漠ではありません。ベーベーと長くいると情が移って別れるのがつらくなります。ラシードさんに引き取ってもらえませんでしょうか」
「いいの。このベーベーは若く大変な価値があるのよ」
「ええ。別れる方がつらいです」
「わかりました。私が引き取ります」
エスポーサが帰ってきた。ちょうどいい。
「エスポーサ、ラシードさんに二人とベーベー三頭、ドラちゃんに乗せて届けてきてくれる。それとラシードさんへの手紙だ」
「行って参ります。それとシナーンさんからは丁重なお礼がありました」
「わかった」
ドラちゃんが大きくなった。今度は皆さん腰を抜かした。僕のベーベーは落ち着けと呼びかけているけど。
「ドラちゃんです。乗って下さい。落ちませんし、風も来ません。安心して下さい。すぐラシードさんに追いつきます」
二人とベーベー、エスポーサに観察ちゃん、え、観察ちゃんが乗っている。
ふわりとドラちゃんが浮き上がって高度を取って飛んで行った。すぐラシードさんを見つけたようだ。月も出ているし夜の砂漠もなんのそのだね。見えるんだろう。視程もはるか彼方まであるし。
こちらラシード隊商
「ドラゴンだ」
だんだん慌てなくなってきた。
ふわっとドラゴンが着陸する。
「お父さーーん」
「隊長、娘さんのようですよ」
「なんだ。なんでシン様のドラゴンに乗ってきた?」
「お父さん。砂漠で水と食料が無くなって餓死するところをシン様に助けていただいた」
「シン様か。ありがたい。で、なぜお前が砂漠で餓死するところだったのか?」
「カーファ族長に攫われた」
「何?」
「だからカーファ族長に攫われて囚われていた。でも大混乱に乗じて逃げられた。こちらはヘラール族長の遠縁の人」
脇にいた娘さんを紹介する。
「ヘラールのところの娘さんか」
「お話中失礼します。私はシン様の眷属でエスポーサと申します。シン様からラシード様への手紙を預かってきています」
ラシードが手紙を受け取り一読する。
「シナーンの遠縁の娘さんも、ヘラールのところもそうか。カーファの野郎、俺たちを牛耳ろうとしたな。シン様は樹乃神様とおっしゃるのか、やはり神様か。カーファは神の怒りに触れたということか」
「エスポーサ様。シン様にお伝えしてくれ。娘を助けていただき誠にありがとうございました。ラシード一族はこの御恩、決して忘れることはありません。またシナーン、ヘラールの関係者を救っていただき、ありがとうございました。ヘラールの遠縁の娘さんはこのラシードが責任を持ってヘラールの元に届けます。以上お伝えてしてください」
「承知しました。シン様はこれから、砂漠の先の国へ救出した娘さんを届けますので、またいつかお会いすることもあるでしょう。では失礼します」
エスポーサがドラちゃんに乗り、浮き上がって、戻っていく。皆跪いてお見送りした。
「隊長、良かったですね」
「ああ、全く知らなかった」
「お父さんが出かけてからよ。誘拐されたのは。ちょっと近くまで出かけたのだけどね、周りを囲まれて誘拐されてしまった」
「だから一人で出るなと言ってあったろう」
「だって近くだから」
「お前の軽率な行いがラシード一族の危機を招くところだったんだぞ」
「そんな」
「三族長と言われてきたが、一人が他の二人の身内を捕らえれば、そいつが全権力を握ることが可能だ。その手段としてお前たちは誘拐されたのだ。よく考えろ。ラシード一族がカーファの野郎の言いなりになるところだったんだぞ」
「ごめんなさい」
「ごめんですまないこともあるから気をつけることだ。今回はシン様がカーファを潰してくれた。お前も無事送ってきてくれた。シン様には感謝しきれない。よく覚えておくのだ。終生忘れてはならない。この御恩は一族の記憶として永遠に引き継いで行かなければならない」
隊員も頷いている。




