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目覚めた世界で生きてゆく 僕と愛犬と仲間たちと共に  作者: SUGISHITA Shinya
第三部

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265 エチゼンヤ奮闘記 岩塩編(5)

 宰相執務室

 「宰相、御ローコー様とヨシツナ様が、大事な用件とかで面会を希望されていますが」

 「面妖な組み合わせだな。化かしにかかっているんじゃあるまいな」

 「まだ日が沈んでいませんが」

 「まあいい。通せ」


 「これは宰相殿、ご機嫌はいかがでしょうか」

 「お前の顔を見ると、元気がなくなる」

 「それはいけませんね。今日は国の命運を左右する話を持ってきたのですが」

 「聞き捨てならないな。つまらない話なら覚えていろよ」

 「詰まった話ならどうすんだ。それを聞かなかったら、お前はクビだ。ざまあみろ」

 親父殿とゴードンさんと宰相殿は三馬鹿で鳴らしたようだが、確かにこれは馬鹿な子供のケンカだ。


 「親父殿、そろそろ本題に」

 「おお、そうだった。聞いて驚くなよ。岩塩が発見された」

 「なんだと。驚いた。何処だ」

 「ここからアングレアに行く東西街道の途中の左側だ」

 「あそこは山ばかりだぞ。山向こうは滅びの草原だ」

 「そこが先入観だ。盲点だ。山を越えた向こうに滅びの草原までの間に土地があって、そこが岩塩平原になっている。地下にも伸びているだろうが、地上に数百メートル出ている」

 「もしそれが本当なら長年の懸案が一気に解決だ」

 「行って見てきた。これが採取した見本だ。舐めてみろ」

 「美味い。神塩には遠く及ばないが、神塩を知る前なら、品評会に出せばぶっちぎりの一番だ。塩を産出しない国に売れば儲かるぞ」

 「そうだろう。これで塩の産出国のご機嫌を取る必要がなくなるし、国家財政が潤う」


 「すぐ陛下に」

 「待て、土地取得届だ。出しておく」

 「なんだ。スパエチゼンヤの隣に何か作るのか?」

 「塩の平原がある土地と塩の搬出路の土地取得届だ」

 「馬鹿、国家戦略物資だぞ。国の物だろうが」

 「馬鹿はどっちだ。恥をかく前に法務官を呼んだ方がいいぞ」

 「法務官を呼べ」


 法務官がやって来た。

 「またお前か。エチゼンヤの土地の取得以来だな」

 「法務官に用などない方が平和で結構な事です。泰平の夢が破られましたか」

 「エチゼンヤが土地の取得届を出して来た。ふざけた書類だ。却下だろう」

 「拝見。なるほど。なるほど。これは泰平の夢が破れるわけですね」

 「それでどうなんだ」

 「書類に不備はありません」


 「だから形は整っているかもしれないが、却下だろう」

 「今日付で受理しました」

 「何だと。どうしてだ」

 「本件は届出案件で、書類に不備はないので直ちに受理です」


 「馬鹿な。国有地だぞ」

 「国有地だからこそです。先の国王陛下の治世の時、塩がなく困り果てて、岩塩を発見した者に、その土地と、塩の搬出路の土地を与えるという法律を公布しました。その法律によって届けられており、受理しなければなりません。地図は略図が添付されていますが、スピードを要する案件なので、一ヶ月以内に詳細な地図を提出すれば良いと施行規則にあります」


 「スパエチゼンヤに続きまたか。お前の他に法務官はいないのか」

 「いますが。宰相様と御ローコー様の組み合わせと聞いて皆逃げました」

 「そうか」

 多少自覚があるので追求できない宰相殿であった。


 「御ローコー様、ただ一点お聞かせ願いたいのですが」

 「不備か、却下か」

 思わず期待する宰相。


 「発見者はシン様と御ローコー様とありますが」

 シン様と聞いて先が暗くなって来た宰相殿である。

 「そうだ。土地の権利はそこに書いた通り、シン様8、エチゼンヤが2だ」

 「わかりました。私からは何も申し上げることはございません」

 「下がって良い。ご苦労であった」


 書類にいつの間にか法務官の署名がしてあり、受付番号、日付まで書いてある。

 受付番号は、岩塩土第1号と書いてある。岩塩の土地の意味だろう。


 「それでだ、宰相殿。ワシも色々考えたのじゃが」

 悪巧みだろうと宰相。

 「岩塩の諸権利だが、シン様8、国1、エチゼンヤと商業組合が0.5ずつでどうだ」

 「入れてくれるのか」

 「もちろん。これは国家戦略物資だ。その採掘、搬出、監視所、倉庫、宿舎、盗賊対策等は国がやるべきだ」

 「そうか、そうだよな。国がやるべきだ。陛下には報告しておく」


 「商業組合に権利の登録にエリザベスが行っている。携帯で連絡しておこう」

 「もしもし。エリザベス。諸権利の割合、国が1で決着した。申請を頼むよ」

 「そうだ。これが岩塩の見本だ。みんなで分けてくれ」

 「ああ、わかった。これはいい塩だな。塩がわが国で産出されるなんて、思いもしなかった」

 「ああ、じゃあとは頼んだよ」

 「わかった。任せておけ」

 エチゼンヤが引き上げていく。


 「宰相、いいんですか」

 「何がだ」

 「エチゼンヤさんはこう申しておりました。『国家戦略物資だ。その採掘、搬出、監視所、倉庫、宿舎、盗賊対策等は国がやるべきだ』」

 「それがどうした」

 「採掘、搬出、監視所、倉庫、宿舎、盗賊対策等は国がするということです」

 「エチゼンヤではないのか」

 「ええ。国です」


 「待て。やつは帰ったか」

 「もうとっくに。逃げ足は早いと思います。それに、シン様の権利が8割ですが、シン様に採掘をしろとは申せませんので、シン様を除けば一番権利を持っているのは国なのでやむを得ないかと。それに国家戦略物資と言われてしまえばそれまでです」

 「エチゼンヤと商業組合は、国が搬出路を整備し、採掘して、搬出した塩で、何もせず0.5ずつ入って来るのか。ボロ儲けだ」


 「最初の搬出路、監視所と倉庫、宿舎は国の投資が必要ですが、それ以降は監視の兵を常駐させ平原から切り出せばいいだけですのでさほど経費はかからないかと思います。それに戦略物質と考えれば良いのではないでしょうか。色々と使い道はあるでしょう」


 「流通、販売は誰がするのか」

 「国にそんな人材はありません。実質的に我が国で販売網を持っているのはエチゼンヤさんくらいです」

 「エチゼンヤに頼んで売ってもらうのか」

 「エチゼンヤさん以外ですと、小さな街単位の商店しかありません。大きくてせいぜい隣街に支店があるかどうかです。魔物、盗賊をはねのけて国内外にまとまった量の商品を輸送できるのはエチゼンヤさんしかありません。一応規則ですから公募しますが、盗賊、魔物が怖くて誰も手をあげないでしょう。多分エチゼンヤさんはそれを見越して応募しないでしょう。結局こちらからエチゼンヤさんに頭を下げて依頼することになります」


 「くそ。権利は控えめに0.5といい出したので殊勝なやつと思ったが、腹黒め」

 「それに権利の8割がシン様ですので、だれもボロ儲けは出来ません。噂では老衰刑という神罰があって、一晩で老衰するそうです。エチゼンヤさん以外だれも怖くて手が出せません」

 「わかった。やむを得まい。陛下に報告に行く」

 「陛下がお待ちです」

 こいつらやけに準備がいい。どうかしたのか。気が利くのはいいことだからいいか。


 国王陛下の執務室

 宰相が岩塩の報告にやってきた。王妃様も同席していた。

 「陛下、我が国で岩塩が発見されました」

 「そうか」

 驚かないぞ。どうしたことか。

 「さっきローコー様が寄って話していった。シン様が発見してくれて、宰相が搬出路を作るんだそうだな。すぐかかれ」

 俺ではない、国だと思う。ローコーめ。

 「はは。直ちに」


 「それにしてもシン様は我が国に福をもたらしてくれるな。国が1割の権利でもうまく売れば莫大な収入となるぞ。徒や疎かに出来ないな」

 「はは」

 「聞いたわよ。女将の赤ちゃんも病の死の淵から救い出してもらったそうじゃないですか」

 「はは」

 「それに、公になっていないけど、その赤ちゃんが先の誘拐事件の被害者で、すぐ助けてもらって、事件解決まで匿ってもらっていたんですって。2回も助けていただだいて、お礼はしたのかしら」

 「はは」


 お礼はしていない。宰相殿、汗がだらだらである。「はは」としか言えない。

 「女将さんは、花街の大通りの突き当りに社を作ってシン様を祀って毎日お参りしているそうよ。芸妓も毎日お参りしていると話していたわ。霊験あらたかなんですって」


 「トラヴィスはどうやってシン様に恩を返すのかい」

 「まずは今度の塩の搬出路を作らせていただきます」

 「そうかい。頼んだよ。シン様が発見した岩塩の権利を国が一割もいただいたのだ。塩が運び出されれば、シン様に受けた恩にはとても及ばないが、いくらか返せる。国もたいへん助かる。岩塩が武器ともなろう。搬出路はシン様への恩返しの一つの方法だ。娘さんを二度も助けていただいた宰相が搬出路を作ることは必然だ。しっかりな」


 トホホ、結局俺が搬出路を作ることになってしまった。確かにお礼はしていなかった。まずかったな。国王夫妻に突かれてしまった。ブライアントめ、国王として成長したのは良いことだが、人に押し付けるのも上手になりおって。しかし、シン様へお礼のしようがない。困った。

 とぼとぼと執務室に歩いていく宰相殿だ。

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