253 誘拐の首魁とその一族郎党を滅ぼしたと関係者に連絡する
ウータンオアシスからドラちゃんに乗って神国に向かう。途中ラシードさんのテントが見えたので、空から声をかけておく。
「カーファ一味は片付けたよ。オアシスはそのままにしておく。立ち入ってもいいけど触らないでね」
神国に帰ろう。ドラちゃんが高度を上げ、スピードを出して神国を目指す。
「おい、今シン様の声が聞こえなかったか」
「聞こえました」
「終わったようだな。千人隊も鎧袖一触だったのだろう。三族長の一人だぞ。あっけないな」
「オアシスは立ち入ってもいいけど触るなと言っていました」
「触ると碌なことにならないんだろうな。後学のために一応見に行くか」
数日後、ラシード一行がウータンオアシスに到着する。
遠目には一見変化はなかった。
オアシスに入ると、建物はすべて破壊されていた。死体が散乱している。首がもげ、手足が散乱し、胸に穴が空き、黒焦げになっていたり、潰されていたり、股間がなかったり、傷がなく驚愕の表情で死んでいたり、頭から股間までスッパリと切られて二分割されていたり、前・中・後ろと三部分に切り分けられていたり、死体が爆ぜていたり、手足が引き抜かれていたり、頭が後ろを向いてついていたり、骨折ではなく手足の骨が不自然に曲がっていたり、様々な死体というか、塊が転がっている。穏やかな死体はない。残っている顔は恐怖や驚愕に満ちていた。ただ腐ってはいない。慌ててベーベーを入り口まで戻し、見張りを残して、もう一度オアシスに入って行く。
「人との交戦の痕ではないな。身内に手を出されたシン様一行の怒りが凄まじいということか。恐ろしいな。シン様とその一行は人ではないな」
「そうですね。迂闊な口をきかなくてよかったです」
「ああ、こうはなりたくないな。同じ殺されるにしてももっと普通の刀傷とか槍傷とかで死にたいものだ」
カーファ邸に近づくと肉塊の密度が上がる。千人隊の成れの果てだろう。カーファ邸も建物、門、塀、すべて破壊されていた。
中心の屋敷跡に、腹部あたりで上下にちぎれた死体がゴロゴロしていた。カーファ族長の死体もあった。皆恐怖に満ちた顔のまま死んでいる。
「どうしたらこうなるのだ。上半身と下半身とにちぎれているぞ。剣で切ったのではなく、何か大きな力で腹の部分を縊り潰されたようだ」
屋敷跡を見渡すと手に金貨を握っている死体があった。火事場泥棒というやつか。すこし行くと先人に学び手で金貨を握っては不味いと思ったか棒で金貨を挟んだ火事場泥棒が死んでいる。
一同、触ってはならないというのはこういうことかと納得した。
「滅びの草原も恐ろしいが、こっちも恐ろしいな。死体も腐らず金貨もずっとこのままだぞ。カーファのやつはずっと恐怖を顔に貼り付けたままだ。それに触れれば死ぬ。死体の持ち物や金貨をあさりに来るやつはみな死ぬ。死の顎門オアシスだ」
周りの小さいオアシスの住人にお礼をして、立て看板を作るように頼んだ。
「この地の住民は神の怒りに触れ死んだ。怒りを受けたものに触れれば死ぬ。ラシード」
後にウータンオアシスは、アギトオアシスと呼ばれるようになり、恐れられ続けることになる。
神国に戻ってきました。
しばらく神国でのんびりします。
そうだ、誘拐犯を始末したと連絡をしておこう。
ローコー様
エリザベス様
こんにちは
先の誘拐事件の首魁は砂漠のウータンオアシス カーファ族長と判明しましたので、カーファとその一族郎党全て誅しました。死骸はそのまま存在し続けます。事実上ウータンオアシスは潰れました。
◯年◯月◯日
樹乃神
同じ文面で、トラヴィス宰相、ハミルトン公爵にも手紙を届けておこう。
「ドラニちゃん、エチゼンヤさんと、トラヴィス宰相、ハミルトン公爵に手紙を届けてくれる?」
はーいとドラちゃんと飛んで行った。
エレーネ女王にも連絡しておこう。砂漠に近いからね。話が入る前に知らせておこう。誘拐犯の首魁の話と、救ってもらった子供たちはおかげさまで元気だということだな。エスポーサに行ってもらった。
ドラちゃんとドラニちゃんはスパエチゼンヤへ。
エチゼンヤ夫妻が執務室で話しているとキュ、キュと声が聞こえてきた。
エリザベスが窓を開けるとドラちゃんとドラニちゃんが飛びついてきた。
「お使いなのね。相変わらず可愛いわね」
二人を撫でてご満悦なエリザベス。侍女がすぐお茶とお茶菓子を用意しに行った。
ドラニちゃんが足を出すと手紙が空中に出現しローコーの元へ。ドラニちゃんはなでなでが中止されるのが嫌らしい。
「どれどれ、シン様からだな。誘拐犯の首魁がわかって、滅ぼしたということだな。死骸はそのままか。これも恐ろしい刑だな。永久に晒しものだ。名付けて永久晒し刑だ。刑のバリエーションが増えたな。老衰刑、生き木乃伊の刑、永久晒し刑だな」
ローコーがお気楽発言をする。
ドラちゃんもドラニちゃんもお菓子を食べながら頷いている。こちらもお気楽だ。
「返事を書こうな。待っててくれ。お知らせいただいたことへのお礼と、おかげさまで帰ってきた子供達がみんなトラウマもなく元気だと書こう。書いた。返事だよ。頼んだよ」
ドラニちゃんが手紙を預かって、ドラちゃんと機嫌よく飛んでいった。
宰相執務室
キュ、キュと声が聞こえる。幻聴だろう。いや、はっきり聞こえて来た。やばい。
「窓を開けろー」
ドッカーン
間に合わなかった。
ドラちゃんとドラニちゃんが壁から入って来て空宙に浮いている。
秘書が慌ててお茶とお茶菓子を手配した。
応接室の上級貴族の目の前に今まさに置かれようとしていた高級なお茶とお茶菓子をドラゴン様の御用だと言って秘書がひったくっていった。
哀れ上級貴族。出涸らしのお茶とカビの生えそうなクッキーになってしまったが、相手が悪い。使用人の子供も誘拐されたが助けてもらった。文句は言えぬ。諦めてズズズズと下品に出涸らしを啜るのであった。
ドラニちゃんが足を出している。宰相が手を出すとポトっと手紙が落ちてきた。
押しいただいてから読む。
「ご連絡いただきありがとうございました」
宰相の頭の中に、『エチゼンヤさんとハミルトン公爵には同じものを届けておく』と声が聞こえた。
秘書が上級貴族から強奪したお茶とお茶菓子を持って来た。
「どうぞ」
『美味しい。たまには上級貴族も出涸らしを味わうと良い』
また声が響く。バレているのであった。
満足していただいて壁でなく開かれた窓から飛んでいった。
宰相は穴が空いた壁を見てため息をついて窓から帰るとはわざとらしいと呟いてから国王陛下に報告に行くのであった。




