250 エレーネ女王一行 感謝される
王都に入ると見物人が多数出ていた。女王と侍女の華麗な軍団、軍服も統一され、一矢乱れず整然と行進する兵。初めて見る軍隊行進に目を瞠り、自国民を助けてくれた女王一行に声援を送る。
ハミルトン家では、シン様からいただいた名簿で誘拐された子供の親を集め門を開放し、子供の親と一緒に公爵が子供らの到着を待つ。
街ではあの公爵が平民を屋敷に入れ、公爵が一緒にお茶を飲み待っていると驚きの声が上がった。
やがて女王を先頭に馬車がやってきた。
「我はアレシアス王国女王エレーネ。このたびシン様の依頼により、誘拐犯から子供を奪還。ここにお届けいたします」
「エレーネ女王。此度の件、誠に、誠にありがたく、国王に報告させていただく。今日は是非当家にお泊まりいただきたい。また兵には、庭に大テントをはってある。当家の夕食を共にし一夜泊まっていただきたい。寝具も用意させていただいた」
門の内外からどよめきが上がる。あのハミルトン公爵が国王に報告という前代未聞の出来事を本人の口から述べたのである。
ついで馬車が公爵の屋敷に入る。
馬車の扉が開かれ、人質の子が降りてくる。
門の内外から歓声が上がる。
子供が親元目指し駆けていく。それを見届け、最後にハミルトン家の坊っちゃんが馬車から降りた。
公爵に、人質は全て無事ですと報告。公爵は滂沱の涙である。
「よくやった。国境の件、聞いたぞ。ハミルトン家として恥じない行いだった」
「皆のもの、今日は家に帰って家族でゆっくり過ごすと良い。追って後日、誘拐された者たち、家族が集まり、パーティーをしよう。無礼講だ。上下気にすることはない。服装も平服でお願いする。今日の格好で結構だ。後で連絡するので全員で集まり、無事を喜び合おう」
またまた門の内外でどよめきが起きる。あのハミルトン公爵が平民を招待したのである。
人質になった子の親は我が子を抱き、または手をつなぎ、我が家目指して帰っていく。
ハミルトン公爵が執事長を呼んだ。
「王宮に使いを出せ。ただいま誘拐された子供全員がアレシアス王国エレーネ女王のご尽力で無事帰還した。近々報告に上がる。お心遣い感謝する。それだけ伝えよ」
執事長は、承知しましたと返答したが、はて、王宮への報告方法は先代の執事長から引き継いでいない。これが最初だ。誰に行かせても困るだろう。どうしたものか。自分が行ってみるよりしょうがないなとつぶやきながら王宮へ出かけた。
「門外に集まっていただいた方々、今日はありがとう。一杯ではあるが無事帰還の祝の酒を飲んでいただきたい」
樽が持ち出され、門外に集まった人々にお酒が振る舞われる。集まった人々は公爵は変わったと話しながら三々五々帰っていく。
門が閉じられた。
宰相執務室
「宰相、ハミルトン家執事長が面会を希望しています」
「ハミルトンか。通せ」
「ハミルトン家執事長のウォーレンと申します。主人よりの伝言を預かって参りました」
「そうですか。伝言はどのようなものでしょうか」
「ただいま誘拐された子供全員がアレシアス王国エレーネ女王のご尽力で無事帰還した。近々報告に上がる。お心遣い感謝するとのことです」
「承りました。公爵に伝えていただきたい。無事帰還おめでとうございます。この度のハミルトン家を継ぐものの国境での振る舞い聞き及び、さすがハミルトン家と感服いたしました。明日はお待ちしております」
「承知いたしました」
公爵は戻ってきた執事長より宰相の伝言を聞き、「宰相め、お世辞を言いよって」と呟いたが、満更でもない様子である。執事長は一代飛ばすかという呟きを聞いたが、聞こえなかったことにした。
公爵邸の大ホールに宴会場が設けられた。
我が子を、リュディア王国の国民を救ってくれた、アレシアス王国エレーネ女王と兵たちへのおもてなしである。
公爵が挨拶する。
「この度は、我が国民、我が子を救っていただき、感謝の念に耐えない。またはるばる当家までお届けいただいたこと、誠にありがたい。さらに言えば、私の命は、シン様とアカ様に救っていただいた。この度の救出もシン様の命だと先程お聞きした。シン様とアカ様に感謝の念を捧げたい。今日はささやかな宴ではあるが、楽しんでいただきたい」
続いてエレーネ王女が挨拶する。
「私どもは、シン様、アカ様のお導きにより、ゴードン様、三馬鹿ハルト様とそのお仲間たち、シン様の神兵により、訓練を受け、私は女王につくことが出来ました。今般、シン様、アカ様、御眷属様が、私どもの元を訪ねられ、シン様から誘拐犯の殲滅と誘拐された子供の救出を依頼されました。私どもは、シン様への恩返しでこの作戦に従事しました。ですので、公爵様が私どもに恩義を感じることは全くありません。今日一泊はさせていただきますが、その後はご放念いただきたくお願い致します」
「正直、このような全員無事の救出が行われた場合、誘拐犯の身代金以上の請求があるものと思います。エレーネ女王の申し状、奥ゆかしく、感服仕った。しかしながらリュディア王国にハミルトンありと言われた我がハミルトン家である。恥をかかせないで欲しい。お礼はきちんとさせていただく。それに今回の件で、ボンボンと言われてきた坊主が、我がハミルトンの将来を背負って立つであろう逸材であることがわかった。大いなる収穫である」
パーティはシン様などの話で盛り上がり、和気藹々と進行した。
パーティが終了する頃王宮からエレーネ女王と公爵に翌日の昼食会の招待状が届けられた。持参したのは、国王の筆頭侍従長である。
ふん、行かねばなるまいな、という公爵の返事である。
翌朝、シン様の使いというスパエチゼンヤの精悍な者が兵の迎えと子供を乗せて来た馬車を引き取りに来た。
女王と兵は迎えに来た者と知り合いで、女王が公爵家の執事に礼を言って、兵と馬車はスパエチゼンヤに向かった。
昼前、公爵家の馬車で公爵と女王が王宮に向かった。
王宮に着くと宰相が出迎えた。
公爵殿は悪い気はしない。
会食は豪華な部屋で行われた。
部屋の入口では筆頭侍従長が出迎える。すでに国王夫妻は着席していた。
立ち上がってエレーネ女王と公爵をむかえた。
挨拶ののち、国王の挨拶があった。
「この度エレーネ女王におかれましては、我が国民19人を救っていただき、無事に送り届けていただき感謝の念にたえません。我が国と貴国は共にシン様と縁があり、今回の件を機に貴国と国交を開きたく、担当者同士で相談を開始していただければと思います」
「また公爵殿のお孫さんが道中人質をまとめ帰還され、将来の指導者としての片鱗を示されたことは、誠に心強い事です。ハミルトン家はこれからも国の重鎮としてあり続けていただきたい」
宰相の音頭で乾杯し、和やかに昼食会が始まる。
シン様を語る上気したエレーネ女王の様子から、国王も、宰相も、公爵も、察するところはあるが、皆大人なのである。おじさん同士、お互いの感想を目で確認し、一同シン様も罪作りだと頷きあうのであった。初めて国王と公爵の意見が完全一致した瞬間である。
アレシアス王国へのお礼と道中のサポート費用は、宰相とハミルトン家が相談し、折半で決着がついた。
これ以降ハミルトン家と王家は仲良くとまではいかないが、普通の関係にはなった。




