235 リュディア王国 王都エクバティアに異変あり
こちらソーロクオアシスのシン様。
普通の水も必要と思い、オアシスに水を引き込んでいるあたりの川に行き、竹水筒を川に沈める。冷たい水だが、川なので小さな砂粒などが入っている。水だけ入るようにしておいた。
もう飽きてきた。このオアシスもだいたい見た。市場も見たがさほど珍しいものはない。乳香などは珍しいが、多分、生産地ではだいぶ安いのではないかと思うと、必需品ではなし、買う気も起きない。
昼食を食べて、次のオアシスに行こうかなと考えながら昼寝。
観察ちゃんを回収、数を数えてスパエチゼンヤに送る。
そうか、今度は夜の砂漠を歩いてみよう。では宿を引き払って一度神国の自宅に戻ろう。
みんなもそれでいいと言うから、宿を引き払った。シナーンさんに断ってオアシスを出て、川から竹水筒を引き上げ、自宅に戻った。
夜は美容に大敵とかで、管理職の皆さん、オリメさん、アヤメさんは不参加だ。
結局残ったのは僕とアカ、ブランコ、エスポーサ、ドラちゃん、ドラニちゃん、ベーベー、ベーベーマンだ。いいんですけど。
夜までゴロゴロして、みんなで夕飯を食べて、僕らは引き払ったばかりのオアシスの外れに転移。
夜だ夜。月の砂漠だ。
『シン様、シン様、街が騒がしいよ。こんな夜中にあちこち明るいところがあるよ』
スパエチゼンヤにいるはずの観察ちゃんが連絡して来た。
『どれどれ、あれ、本当だ。今頃は花街をのぞいて暗くなっているよね。怪しいね。よく見つけた。一人かい?』
『あのね。あのね』
『明るいところに観察ちゃんを増やしてやろう。待ってな』
『みんな手伝ってくれる?』
すぐ手を挙げる。順番が決まっていたんだっけね。順番に従って、明るい場所に三人づつ転移させる。随分あるぞ。貴族街、富裕な商人街、中流の人の住む辺りが明るい。花街にも送り込もう。どうするんだ。20箇所位ある。貧民街もある。
観察ちゃんはそんなにいたっけ。いるんだそうだ。分裂するんだそうだ。へえ。全く同じなので、線指輪を付けた以降は、線指輪をつけたまま分裂するんだそうだ。えええ、そうなの。みんな同じなのってか、えええ知らなかった。
男の子と女の子が居たような気がするけど。それは気分なんだそうだ。えええ。なんということか。
完全クローンを自分たちで生み出せるのか。増え過ぎたらどうするんだ。また合併すればいいって。うへ。
あなたがそう望んで作ったんですとアカが申しております。へえ、そうなの。知らないことがたくさんあるね。
気を取り直して、観察ちゃんの転移を続ける。十分間に合った。
明るくないところは間隔をあけて二人づつ配置。
エチゼンヤとスパエチゼンヤと孤児院は鉄壁だな。何もない。
今回はなるべく僕ら一家は表に出ずに、国の人にやってもらうつもりだ。もちろん、情報は提供するけど。
僕たちがやれば発見、処置など早いのだけど、危険が迫らない限り手は出さないことにした。
というわけでまずは情報提供だな。宰相は、ぐっすり自宅で寝ているぞ。仕事のし過ぎかね。
エチゼンヤさんは寝ているね。エリザベスさんは何か報告を聞いている。一応教えておこう。怪しい場所を書いた紙をピラっと落とす。すぐ拾い上げて礼を言われた。いまの報告と合わせると精度が上がるだろう。
宰相のところにはドラニちゃんに行ってもらう。宰相はドラニちゃんが届ける手紙が好きそうだから書いてやろう。
宰相殿
こんばんわ
お久しぶりです
今日はこの時間にも拘わらず街の中に明るい場所が20箇所くらいありますよ
なにかあるんじゃないでしょうか
お知らせまで
○年○月○日
樹乃神
ドラニちゃんに行ってもらう。
僕らは砂漠から神国の自宅スパ棟に戻った。
みんな起きていたよ。
宰相邸
コンコンと窓が叩かれる。
宰相はぐっすり寝ていて気が付かない。
ドカン
気がついた。
眼の前にドラゴンが浮いている。
たちまち頭が回りだした。
脚を出す。
またかと思うが手を出すと手紙がポトリ。
慌てて読む。
『シン様は人間界のことに手を出さないことにしたから、自分たちで頑張りな。多分大変なことが起こっているよ』
ドラニちゃんの言葉が頭に響き、ドラニちゃんが壁にあいた穴から飛び去っていった。
宰相は手紙を押しいただいた。
物音に気がついた執事がやってきた。
「支度する」
執事は宰相の態度と穴が空いた壁を見て察した。これは宰相の友達のアレだ。事件だろう。壁の修理は見かけ丈夫で壊れやすく修理しやすいようにしよう。
よく出来た執事である。
宰相は、支度しながら玄関に向かう。
「馬を引けー。王宮だ」
物音で起きていた馬丁がすぐ馬を引いてきた。
松明を持った家来が6人、先に駆け始める。
宰相は松明に照らされた夜道を王宮に向かって駆けていく。
ここは、ハミルトン公爵邸だな。明るい。何かが起こっているが、まずは全体の把握だ。通り過ぎ王宮を目指す。




