219 夜会
さてやってきました夜会の日。夕方、屋敷でオリメさんとアヤメさんがエレーネさんに着付けます。まだドレスには着替えない。侍女長も夜会には出ませんが付き添いなので着替えました。
友達枠でステファニーさんとマリアさんがついて行きます。ステファニーさんには作っておいたネックレスをプレゼントしました。マリアさんとお揃いで喜んでくれました。
今日は、侍女軍団が馬車を挟んで出発。馬車の中は、エレーネさん、侍女長、執事長、ステファニーさん、マリアさんだ。僕らはその後をついていく。
相変わらず沿道ではエレーネ王女万歳との歓声が響き渡る。
王宮について、僕らは付き添い枠で王宮に入った。控室は流石に王女、いくつかの部屋がついた立派な控室だ。控室の控室で、エレーネさんは本番用のドレスに着替える。ネックレスもイヤリングもつけた。髪をセットし髪留めをつける。白い肌にチェーンに吊り下げられたダイヤモンドが輝き、イヤリングが虹色の光を撒き散らす。女王様だね。
「あの、シン様。エスコートをお願いします」
え、僕。神威は抑えるから大丈夫とアカが申しています。そうなの。で、控室で青年になって着替えました。ついでにみんな人化して着替えました。みんな何かありそうで面白いと言っています。やだねえ、トラブル招致体質は。
着替えて出ていくとエレーネさんがポツリと「神様」と一言。なんだろうね。侍女長が慰めています。わかりません。
王宮の侍女さんが呼びにきます。出番のようです。侍女さんは僕とアカが並んでいるのを見て跪きました。こうなるよねえ。神威は抑えたんだよね。抑えたと申しております。多分この人が敏感なのだろう。そういうことにしておこう。
気を取り直してエレーネさんと腕を組んで会場に。
会場に入るとシーンと静まり返った。会場の中心に歩いていく。椅子に座っているのが国王だろう。だいぶお疲れのようだ。その隣が、例の妃だな。王弟が妃の傍にいる。妃がエレーネさんを睨んでいる。視線が忙しい。顔、胸、胸のダイヤモンド、ダイヤモンドを吊るしているチェーン、イヤリング、髪留め。ドレス。ますます視線が険しい。
エレーネさんが国王に挨拶している。国王も目を見張っている。
国王は精一杯の声で会場に告げた。
「余は、ここに、王位継承順位第一位のエレーネ王女に王座を譲る。今日を最後に退位する」
会場が沸いた。
すでに国軍全てがエレーネ王女についたと知れ渡っていたのである。エレーネ女王万歳の大合唱が起こった。
「待て、女王は何処の馬の骨かわからぬ男に騙されている。このままだとその男に、この国が乗っ取られる」
「シン様は神様です。人の国を乗っ取ることはありえません」
「神様だといい加減なことを言うな」
「パックン」
女王が言った。
王弟は震え始めた。心当たりがあるのだろう。
僕はマリアさんたちに目配せする。会場に散って、男どもを集めて来た。ドラちゃんが男をポイする。ガチャンとナイフが落ちる。次々に男がポイされ武器が落ちる。女もいる。
さて引導を渡しましょうか。
「王弟殿下、この者たちをご存知ですか。夜会の会場に武器持ち込みは禁止ですよ」
「知らない、知らない。全く知らない」
「そうですか。では王妃様でしょうか。今日は王弟様とのお子さんはおみえではないようですね」
「知らない、知らない。子供は国王の子よ。嫡男よ」
「私の知り合いに、真偽を判定できる魔物がいましてね。呼んでみましょう」
誰がいいかな。インパクトだとドカドカオオトカゲだな。なんとかこの会場に入れるだろう。この頃知能が発達したから上手く演技してくれるだろう。ドカドカオオトカゲに連絡したら、喜んで務めさせていただきます。後学のために息子も連れて行きたいということであった。いいよと返事した。
二百人衆を呼んで会場整理をしてもらう。あっという間にホールの中央が空いた。
皆固唾を飲んでいる。
「では、真偽判定を行う知り合いを呼びます。念の為申し上げておきますが、この会場いっぱいの大きさなので、間違っても攻撃などなされないように、会場ごと吹き飛びます」
ドカドカオオトカゲ親子を呼んだ。
打ち合わせ通り、出現してまず吠えた。
「ガオーー」
会場がビリビリ震える。埃が落ちてくる。人も揺さぶられる。
「カオー」
カオーはお子さんだ。特にゆれない。可愛いからいいか。よしよししてやる。喜んでいるね。
お前、前と同じ体格だね。年を取るのが遅くなったようだね。親も同じく年を取るのが遅くなったようだ。
「では真偽判定に移ります。嘘を言ったらパックンです」
パックンと聞いて王弟が真っ青になる。パックンの正体がわかったという顔をしている。
「まずは、王弟から。この国王主催の夜会会場に不埒にも武器を持ち込んで紛れ込んでいるこの者たちは貴殿の手のものか」
ドカドカオオトカゲが舌なめずりをしている。子トカゲはヨダレを垂らした。
王弟はあわてて頷いた。
ドカドカオオトカゲと子トカゲが天を仰いで体をくねらせ大袈裟に食べ損なった、残念という気持ちを表現している。なかなかの演技派だ。体が大きいが脳も体相応に大きいのか。
「では次にお妃様にお聞きします」
妃も真っ青だ。だがまだ抵抗する意思は残っているらしい。
「お妃様にお聞きします。お子さんは王弟のお子さんですか?」
妃様はお答えがない。
もう子トカゲはヨダレをダーダーと流している。演技なのか、そうでないのか、わからぬ。
「もういい。本当のことを言え。俺の手のものが何十人とパックンされて帰って来ていない。パックンされるぞ」
王弟の助け舟が出た。
「王弟の子です」
小さな声で妃が答えた。
「そうですか。それでは知り合いには退場してもらいましょう。その前にご褒美です」
大きな魔物を親に放り投げてやる。親の体半分くらいだ。咥えた。食べでがあるだろう。子トカゲにもその体半分くらいの魔物を投げてやる。おっと取り損ねそうになった。
「ありがとう」
帰ってもらった。
二百人衆がよだれを拭き取り、埃を掃除し、あっという間に元の通りに会場をセットした。
「ありがとう」
「いつでもお呼びください。我々はシン様の僕ですから」
みな呆然としている。
エレーネ女王が最初に我に帰った。
「引っ立てよ」
控えていた侍女軍団がやって来て、王弟と妃を引っ立てて行った。床の狼藉者は親衛隊が引っ立てて行った。
自白調書もあるし一件落着ですから帰ろうかな。
アカが隣に立つ。みんなが集まってくる。神威を少し解放。全員平伏。先の国王も椅子から転げ落ちるようにして平伏。
「先の国王は、妃に毒を盛られています。毒によっておかされた組織は治してあげましょう。天寿を全うできるでしょう。ではみなさん、これで失礼します。皆さんに幸あらんことを」
アカの転移によって帰ろう。その前に回収しました。観察ちゃん。ちゃんと数は数えました。ゆらゆら空間がゆらめいて神国に帰りました。
シン様一行が帰った夜会会場。
「夢だったんだろうか」
誰かがつぶやく。
「いや、そうではない。見よ」
先の国王が立ち上がりジャンプして見せた。
「さあエレーネ女王のお披露目パーティだ。今日は存分に飲んでくれ。王弟の酒蔵が空になるまで」
先の国王はなかなかユーモアがある。会場は一気に祝賀モードになった。
当の女王様はすこし落ち込んでいる。
「行っちゃった」と呟いた。侍女長が慰めている。罪作りな女殺しのシン様であった。




