218 僕たちは海岸、エレーネさん達は行進、王弟側は動揺
さて今日は半島巡りをしましょう。エレーネさんに昼食はいらないと断っておきます。
エレーネさんは今日から、兵を10人屋敷の警備に残し、兵90人で行軍演習をするのだそうだ。道路で。そうですか。
僕らは例の木の札をもらって、城門を出ます。人気がなくなってからドラちゃんに乗って半島の根元の海岸を目指します。すぐ着くんだけどね。一応、目指さないとつかないから。
海岸で遊びだな。今日はここで魚などを取って海産物を仕入れよう。日除けを作ろう。地面に棒を4本立て布を張る。棒は城周りを整備した時収納した木だ。訂正。棒ではなく柱だね。布は僕が出しました。丈夫な布だ。この世界に広い幅の一枚布はないからね。丈夫な布と太い柱で大風でもびくともしないぞ。みんなは海で遊んでいる。僕は大きくなったアカによりかかってうつらうつら。
行軍はどうしたかな。見てみよう。やってるやってる。一人前を歩いている。やや、エレーネさんだ。斜め後ろの右左は執事長と侍女長。三人のオフィサーの服は綺麗だな。肩章、飾緒、肩帯つき。服地は白で作ったからね。オフィサーの帽子は鍔付きです。儀仗兵っぽくなってしまったが、本人たちの姿勢、体格がいいから、様になっていて大変格好がいい。
そのあとは、迷彩服の兵隊さん90人。10人は屋敷の留守番だね。こちらも異様な強さのオーラを放っている。みな剣を佩いているよ。
「いち、に、いち、に」
「いち、に、いち、に」
「いち、に、いち、に」
「いち、に、いち、に」
一糸乱れず整然と王都を行進していく。
王都は騒然としている。エレーネ王女万歳の声が響き渡る。ときどきエレーネ女王万歳との声も聞こえる。
ギュンター王弟邸
「殿下大変です」
ノックの音がうるさい。
「なんだ、入れ」
「エレーネ王女殿下が、エレーネ王女殿下が」
「どうした」
「行進をしています」
「歩っているのか」
「歩っていることには違いないのですが、執事長と侍女長を従えて、兵を多数、数えたら90名でした。引き連れて行進しています」
「それがどうした」
「誠に見事で、エレーネ殿下、執事長、侍女長の服装はもはや我が国の将軍より上で、華麗で凛々しく風格があり、本人たちの体格と相まって、あたりを払う威容で、続く兵90名も強者のオーラを遺憾なく発揮しております」
「止めてこい」
「それが、沿道からはエレーネ王女万歳の声が響き渡っております。止めたら国賊になってしまいそうです」
「くそ、軍事オタクめ。エレーネは骨格は良かったが痩せていた。執事長と侍女長はおいぼれではなかったか」
「それが元々骨格が良かったエレーネ王女殿下でしたが、筋肉もついて、出るところは出て、凹むところは凹んで、堂々たる将官ぶりで、沿道の男はもちろん女も目がハートです。執事長と侍女長も若返って、筋骨隆々、一騎当千の感があります。兵も体格が揃い、胸板も厚く、姿勢もピシッとしていて、全員統一した動きをしています。格好もすぐさま戦闘ができそうな服、黒光りする靴で全て揃いです。剣まで揃いです。見たこともない強者のオーラを放っております」
「なんだ、それは。衛兵はどうしている」
「それが、見惚れていて、真似をして行進を始めましが、バラバラで失笑を買っています」
「軍はどうした」
「それが動揺してぐらぐらしています。抜きん出た将官の様子と強兵を目の当たりにし、兵のエレーネ王女殿下側への寝返りが後を絶たず、小隊ごと寝返るのも数知れず、今や殿下についているのはいっときの半分以下になってしまいした。現在、三分の二がエレーネ王女殿下、三分の一が殿下です。エレーネ王女側の兵はエレーネ王女の求心力が急速に高まり、一枚岩になりつつあり、殿下側はぐらぐらしています」
「兵に禁足令を出せ」
「それが元々国軍で国王の兵で、指揮権は国王にあり、国王に事故あれば、王位継承順位第1位のエレーネ王女殿下に指揮権は移ります。殿下が禁足令を出すことはできません。殿下が禁足令を出せるのは私兵のみです。それも私的な禁足令に過ぎません」
「くそ」
「殿下、田舎の親戚に不幸があり、明日からしばらく出仕できません。失礼します」
側近は止める間も無く出て行った。
エレーネ王女軍の軍靴の響きと共に王弟側の崩壊が始まった。
やるねえ、エレーネさん。よし、侍女軍団の服も作ってやろう。白だな。飾りは少ないから簡単だろう。オリメさんとアヤメさんに頼んだ。エスポーサが神国まで送って行った。夕方までにはできるそうだ。
昼食はマリアさんとエスポーサで作ることになった。エスポーサが察し良く人化して来ていたので助かった。ステファニーさんも下手ではないんですが。人には向き不向きがあります。
暫くぶりに食べる海鮮尽くしです。いいね。午後も漁に励んでもらおう。海藻とか貝とかもね。
エレーネさんは午後は行進をやらないみたいだ。
たっぷりと各自海の幸を収納した。僕、僕はアカがちょいちょいと取ってきてくれたものを貰った。多分みんなより多い。
さて戻ろう。エスポーサは、オリメさんとアヤメさんの迎えに行った。僕らはドラちゃんに城門近くまで乗せてもらって、歩いて王都に入る。木札は楽だな。すぐ通れる。人数のチェックもないし。
エレーネ邸に戻って客間に入って、オリメさん、アヤメさんと合流。厨房に魚を届けた。王都では魚は塩漬けか干物しか手に入らないということなので大変喜ばれた。兵隊さんの厨房は宿舎にあるというのでそちらにも届けた。
夕食はもちろん魚が出てきました。エレーネさんはびっくりしていました。食べたことないのかな。焼き魚。
夕食後にエレーネさんへ侍女さんの白い軍服を渡しました。明日着て行進するらしい。
翌日、朝食後、今日も出かけます。今日は昨日より少し半島の先方向に行った海岸です。岩場で海が急に深くなっていますね。岩をブランコがポンポン踏んで平にしてくれたから、昨日と同じ日除けを作って、僕はアカに寄りかかっています。みんなは、急に深くなった海に潜って、海棲魔物をとっているらしい。時々魔物と一緒に海面に飛び上がってくる。今日も大漁だ。
さて、どうしているかな。エレーネさん。
今日の行進は、侍女5人が最初の列、次がエレーネさん、執事長と侍女長、次がまた侍女5人、その次が兵90人。先頭は煌びやかでいいね。昨日と同じ、エレーネ王女万歳の声が響く。おや、オスカル様ーという声も聞こえる。はて侍女にオスカルさんという人がいたのか。知り合いなのだろう。
ギュンター王弟邸
今日も王弟は不機嫌である。
側近2が駆け込んでくる。側近1は昨日逃げた。
「何だ」
「軍が全てエレーネ王女につきました」
「なんでだ」
「我々は国軍である。王弟の私兵ではないともっともらしいことを言って、エレーネ王女側に走りました」
「くそ」
「それで今日も行進をしています。今日は侍女軍団が出てきました。華麗でかつ強そうで沿道の男どもは鼻の下を伸ばし、女どもは黄色い声援を送っています」
「俺の私兵も行進させるか」
「無理です。恥の上塗りです」
側近2が厳しい。
「殿下、それはそうと、私の故郷の親戚に祝い事があり、暫くつきあってきます」
王弟が返事をするいとまも与えず側近2は飛び出して行った。
もはや打つ手なし。夜会での一発逆転に賭けるしかない王弟である。




