215 王弟は大変機嫌が悪い 僕らは野原に行き原種野菜を採取する
王都 ギュンター王弟邸
王弟は機嫌が悪い。
事故創出部隊が戻らない。
あまつさえ、みたことがない軍服を着た百人の強兵が一糸乱れぬ行進をして王女の馬車を守りながら王女邸に入った、さすが次期国王との噂で王都は持ちきりなのである。
その王女邸からは王女が屋敷に入った後は連絡がぷっつりと途絶えた。
側近に確認に行かせたが、軍人が表門、裏門を警備していて、誰一人入れない。元の使用人がニコニコと入って行ったとの報告である。
おかしい、自分の部下を入れたのではいかにもまずいから、役所を使って正式に留守屋敷保護の名目で息のかかった役人を入れたはずである。側近に役所に調査に行かせた。
側近からの報告では、前に担当した役人は昨日異動になっていなかった。後任の役人に調べさせたが、のらりくらりと言い逃れして、結局、そのような人事関係の書類は存在しないとの回答であった。だいたい王女の屋敷に王女の承諾なく、王弟が役人を送り込むということがあるんでしょうかと反撃を喰らって帰ってきたとのことである。役人は手のひらを返したのである。
王弟は大変機嫌が悪い。これからは役人が距離を置くだろうとわかったのである。
おのれ、田舎者の小娘め、夜会で思い知らせてやる。俺の女の方が、いや妃様だったと機嫌が直った。その前に田舎者のドレスをダメにしてやろう、夜陰に乗じて襲撃だな。
側近は急にニヤニヤし出した王弟にいくらか引いている。
「おい、夜陰に乗じて王女邸に忍び込み、夜会用のドレスに墨をかけてこい。どっぷりかけるなよ。夜会会場に行って、人が近づいて初めて墨に気づくように上手くかけてこい。気づいても直しようがない夜会前日の夜がいいな」
「承知しました」
窓には可愛い小動物が顔を出し室内をのぞいている。
相変わらず小動物を気にしない王弟と側近である。
『シン様、シン様。ご報告ーー』
『なんだい。危ないことはするんじゃないよ』
『しないー。あのね、王弟一派が王女の屋敷に、夜忍び入って夜会用のドレスに墨をかけるって企んでいるよ』
映像付きの報告だ。危ないことはしなかったらしい。
夜会は一週間後に迫った。王弟からは何も手を出してこない。前日に賭けているのだろう。
こちらも準備しなくてはね。といっても前日までは何もすることはない。
市場にでも出かけましょうかね。市場は広場ごとにあるらしい。小さな広場は小さいなりに生活必需品を売っているのだそうだ。大きい広場になると生活必需品は少なくなり、衣類、調度品、装身具、武具、菓子など様々な種類のものが売られているらしい。
まずは小さい広場に行ってみよう。確かに生活必需品だね。野菜、穀物などが売られている。皆品種改良がされていない。これで作った料理はよく言えばさぞかし素朴な味だろう。しかし珍しいな、原種に近いだろうこれ。
「これは栽培しているのでしょうか?」
「坊主、面白いことを聞くね。この辺りは野山に生えているものをとって来るだけで十分賄っていける。栽培なんぞ面倒くさいことはやっとらん。山向こうは気候が違うから山菜くらいしかないぞ」
「そうなんだ。僕でもとっていいのかな」
「構わないぞ。山や野原はみんなのものだ。囲ってあるところ以外は構わんぞ」
なるほど。そうですか。どうりでお城では山菜しかなかったわけだ。野菜を栽培する習慣がないのか。
というわけで、野菜の採取です。原種は原種で二百人衆に渡せば使い道があるかもしれません。城門を出ました。門番から木札をいただきました。一日限りの通行券だそうです。一般の入場の列に並ばず、脇の通用口のようなところで出入りするようです。そうでなければ野菜取りなどには行けませんね。良いシステムです。
城門から近いところは流石に取り尽くされています。少し離れましょう。急ぐことはないのでゆっくりみんなで草原を歩いて行きます。時々ドラちゃんとドラニちゃんが野菜を見つけます。皆小ぶりだね。種があるものは種を、ないものは株ごと採取。乱獲にならないように、たくさん生えているところから数株いただきます。結構な時間歩きましたが、魔物はいませんね。獣がちらほらいるだけです。
昼食は戻らないとまずいですね。エレーネ邸の客間に転移。タイミングよく侍女さんが迎えにきました。新顔です。この屋敷で働いていて暇を出され、この度戻ってきた人のようです。なんだかびっくりした顔をしています。なんででしょうか。
昼食は、僕らが前に渡した兵糧が一部入っていますね。美味しいです。
食事が終わったらまた野原に転移、野菜採取の続きです。でも今日で終わりだろうな。大体の種類が複数ずつ揃った。
ドラちゃんとドラニちゃんにお使いに行ってもらおう。とった野菜を二人に預け神国の二百人衆に届けてもらう。原種かそれに近い野菜なので品種改良などに使えたら使ってみてと手紙を書いて持っていってもらった。すぐ帰ってきた。新鮮な野菜をどっさり持って。あまりにも貧しい野菜と思ったらしい。品種改良に使う、研究させてもらうと返事がありました。
城門の近くに転移。歩いて城門通用口に礼を言って木札を返した。またどうぞだそうだ。




