021 仕立屋のオリメさんと新デザインの服?
朝食の後、早速仕立屋を目指してみんなでおでかけ。
仕立屋さんに着いた。かなり大きいね。縫い子さんも見える範囲で5、6人いる。奥にもっといるかもしれない。この間エチゼンヤさんに採寸しに来た主人が出て来た。
「もう少しで仮縫いが出来ます。出来たらお持ちしますので屋敷でお待ちください」
「そちらの方はお待ちしています。今日来たのはそれじゃなくて、これを作ってもらいたいのですが」
「これは、見たこともないデザインです。娘が服のデザインをしていますので娘を呼んで参ります。娘はオリメと申します」
娘のオリメさんがやってきた。美人さんだね。
「お前でなくては出来ない仕事だ。こちらはエチゼンヤさんの客人のシン様だ。よく打ち合わせをして挑んでみて欲しい。私の勘では大きな仕事になると思う」
「お子さんでしょう。子供の服?」
不審な顔をしてデザイン画を手に取った。じっと睨んでいるね。目を瞑ったよ。頭の中で型紙を作って布を裁断して縫っているんだろう。縫い終わって着せてみたのではないか。カッと目を開き、ずいと近づいてきた。
「これはあなたが書いたのかしら?」
「そうです」
「デザインは見たこともありません。素材は厳選させていただきます。値が張りますが、それはサービスします。父が申した様に、これは大変なことになる予感がします。私は同じ様なものを作るのに飽きていましたが、これにしばらく専念します。色は何色にしますか?」
「おとなしい色一式、黒一式の二組でお願いします」
「ーーーーシン様は何歳ですか?」
「11歳ですよ」
「とてもそうには思えません。大人の感性をお持ちです。それとこの世のものとは思えない発想力です。ぜひこれからもご教示ください」
「ええと、お教えするのは構いませんが、普通の服しか知りませんが。ファッションショーのための服はわかりません」
「ふぁっしょんしょーとはなんでしょうか」
「普通には着られない様な見たこともない服を作って観客に見せるショーです」
「普通に着られない服とはなんでしょう」
「一般の人では着られないが、芸術とか美術とかの方面に尖った服です」
「芸術とは美術とはなんでしょうか」
「今の常識を超えた今までになかった美しさの追求でしょうか。美術はそれの眼に見える表現でしょうか」
「今の常識を超えるーーー」
「最初は突出した作品で、ショーでしか見られませんが、時間が経つと最初の尖った作品からマイルドに変化しながら大衆に受け入れられるようですよ」
「考えもつきませんでした。私が飽きてきた原因がわかった気がします。採寸して従来の型に従って作っているだけで、シン様の言う、今までになかった美しいものを作るという考え方がありませんでした。今まで作っていたものは上手に作れるけど、ただの繰り返しだったんですね。シン先生、私は新しい美を追求していきたいと思います。これからよろしくお願いします」
「え、そんな。先生だなんて。変なことを言ってすみませんでした。現在の世の中に受け入れられるように、ほんの少しずつ変えて行ったらいかがでしょうか。全く新しいものは世の中から拒絶されるでしょう。少しずつ少しずつ新たな美を付け加えていったらどうでしょうか」
「そうですね。今働いている子たちに対する責任がありますものね」
「さっきのデザイン画のものは、あれで大丈夫でしょう。実用品ですし着れば誰にでも実感として良さがわかりますから」
「そうですね。今日作って明日試作品をお持ちします。サイズが詳しく書いてありますが測ったのでしょうか」
「まあ、それは予想です」
突いてくるね。さすがだ。顔が赤くなるよ。
「ふふふ、面白い」
「それじゃお願いします。支払いは今しましょうか」
「いえ、今回はいりません。先ほどの授業料で相殺です。とても授業料には足りませんが」
「わかりました。そういうことにしておきます」
店を出ると大分時間が経った様だ。お日様はもう少しで中天だ。急いで戻ろう。
お昼をいただき、部屋に戻って今日のことを考えてみる。オリメさんは間違いなく天才だ。良かったのかな。下手すると異端者だ。「それでも私の服は美しい」などの言葉を残すことになったらどうしよう。
『いいのよ。刺激がなければ停滞し、澱んでしまうわ。澱めば腐る』
『あ、世界樹さん。しばらくぶりです。あれはいいんですか』
『適度な刺激によって腐敗が防げれば。発展しすぎて核を弄ぶ様になったらそれも困るけど。そしたら人類を滅ぼしてしまうより他ないわね。シンとアカは帰って来ればいいのよ。ブランコとエスポーサもこの間少しいじったからここに来られるわ』
『ありがとうございます。小さくなれたからそう言うことかと思っていました』
『いじらしいくらい主人想いだからね。ご褒美よ。しかしあれって傑作よね。プッ。明日が楽しみだわ』
適度な刺激が欲しいのは世界樹さんだった。




