206 ゴードンブートキャンプ (5)
合宿9日から10日目 やっと魔物1体10人で倒せるようになったから合格となったそうだ。帰れると思ったら集団戦闘訓練2日と告げられてげっそりしていると観察機能付小動物の報告。
集団戦闘訓練には相手も集団でなければね。ブランコとエスポーサが懇意にしている魔物を連れて来たのだそうだ。折らないし殺さないからと約束して。良く言うことを聞いて、集団となって集団戦の訓練のお付き合いをしてくれたのだそうだ。治療を受けて解放されたら脱兎のごとく元の住処目指して逃げていったそうだ。
しかし僕たちと関わり合いになるとだんだん知能が向上してくるのではないだろうか。ドカドカオオトカゲ親子もそうだけど。まあいいや。
それで今日は帰ってくるわけだな。オリメさんとアヤメさんを迎えに行こう。
夕方になって城門前に兵が帰って来た。転移せずにかけて来たぞ。頑張るねえ。
エスポーサがパラソルを広げて水を配っている。少し落ち着いたらゴードンさんの掛け声。
「集合」
兵が集まる。
「皆ご苦労であった。まずは生きて帰れた原動力の剣とナイフを頂いたシン様にお礼だ」
「ありがとうございました」
一斉にお礼が言われる。手を振った。ゴードンさんが続ける。
「戦闘力については、どの軍隊よりも向上したと思う。明日からは、行進の練習だ。駆け足と徒歩の両方の練習だ。それに弓、槍もやっておこう。それから、シン様より、軍服を頂いた。サイズは大、中、小だ。各自大、中、小のテントでもらってくれ。見本はテントに吊るしてある。靴はサイズがあるから靴のテントでもらってくれ。もらったら流れ解散。明日は今日頂いた軍服を来て日の出とともに訓練開始。明日も頑張ろう」
テントでの配布は二百人衆が手伝ってくれる。時間はかかったが、全員に配り終わった。勿論、エレーネさん、執事長、侍女長は別な服だ。
今日は、エレーネさん、執事長、侍女長を夕食に招待した。身支度してやって来た。客室に入ったら迎賓館巨樹の間(小)だ。
「どうぞ席にお付きください」
「紹介しましょう。僕の右から、アカ、ブランコ、エスポーサ、ドラちゃん、ドラニちゃん、左から、マリアさん、ステファニーさん、オリメさん、アヤメさんです」
僕とアカはそのまま、ブランコ以下は人化している。
お揃いの執事服と侍女服を着た二百人衆がキビキビと給仕をしてくれる。
「では乾杯しましょうか。小さな器にダイギンジョウというお酒が入っています。お手にとってください」
「皆さんの健闘をたたえ、これからの人生に幸あらんことを。乾杯」
「乾杯」
みんな飲み干した。ドラちゃんとドラニちゃんはどうしたかって、勿論フレッシュジュースです。酔っ払い巨大ドラゴンになったら面倒見が大変です。
「エレーネさん、あとは行進と槍と弓です。槍と弓は一通りやって、素質がある人は後で研鑽すればいいと思います」
「あの、ここはどこでしょうか。あまりにも豪華で、私の国の晩餐会用のホールが田舎の場末のホールに見えてしまいます」
「ここは私の国です。迎賓館になります」
実は神国に作っておいたんだよね。純粋な迎賓館。スパエチゼンヤのものより規模が大きく、豪華だ。
「シン様の国ですか。シン様は国王なのでしょうか」
「いいえ、ただのお飾りです」
「お国のお名前はなんとおっしゃるのでしょうか」
「シ・ン・国です」
「神国ですか」
「そうです」
わざわざ区切って言っているが、どうも神国と聞こえてしまうエレーネさんであった。
「あの、みなさん神々しくて直視できないのですが。それに人の形になっています」
「そうですね。水が器によって形が変わるようなものです。本質は変わりません。お気になさらずに」
デザートが出て来た。これで終わりなのだろう。
冷たい。甘い。なんだろうこれは。
「これはモーモー乳から作った冷菓です。この世界にはどこにもないと思います」
「さてお時間です。明日も早いのですぐお休みになるといいですよ」
執事と侍女が人の背よりはるかに高い重厚な扉の前で待っている。見送りはここまでなのだろう。
「おやすみなさい」
一瞬、青年、その傍らに連れそう美女を見た気がしたが、光に包まれて眩しくて見えない。扉が開けられたと思ったら意識がなくなった。
気付くと夜明けが近い。夢だったのだろうか。ちゃんとナイトウエアになっている。わからないが支度をする。侍女がやって来る。大忙しだ。朝食を急いで食べ城門前へ。
今日もゴードンさん、三馬鹿、二百人衆は元気だ。
「揃ったな。午前中は行進になる。5列を2つ。5列と5列の間は人2人分くらい空けてくれ。背嚢と剣は今は使わないので脇にかためて置いといてくれ。バトルホース5頭が先導する。次に、こちらの馬車を引く馬だ。留守の間にシン様が鍛えてくれた。ぼやぼやすると馬に置いていかれるぞ。その次はエレーネさん、執事長、侍女長。この人たちは馬車だが、体力錬成のため付き合ってもらう。兵の後ろはバトルホース。遅れれば蹴りが入るぞ。その次はこちらの馬だ。馬も体力をつけてもらう。手足は一斉に同じように動かす。二百人衆が手本を示す。揃うまでやるからよく見ておくように」
二百人衆が行進する。
兵は延々と行進させられてはたまらんと熱心に見つめる。
「よし、わかったな。では並べ」
バトルホース5頭が位置につく。次に馬車馬。まるでバトルホースの子分だ。バトルホースの言うことを聞いて配置につく。
執事長、エレーネさん、侍女長と並ぶ。そのあと兵が、バトルホースが、馬が整列する。
「繰り返すが、手足は一斉に同じように振る。わかったな」
「慣れて歩調が揃うまで、掛け声をしよう。掛け声は『いち、に、いち、に』だ。シッパーツ、進行」
ゴードンさんが調子いい。楽しそうだ。
「いち、に、いち、に」
「いち、に、いち、に」
「いち、に、いち、に」
「いち、に、いち、に」
歩き始めた。
馬もバトルホースに足並みを揃えて歩く。
三馬鹿と二百人衆は列の乱れを直したり、手足の振りを直したりして大忙しだ。
ドラちゃんとドラニちゃんはレーザーで矯正。
ブランコはすっかり棒が気に入ったようで、口に加え、遅れる兵の尻を叩いている。
城の周りをぐるぐる回る。
二時間3セット。1セットごとに回る方向を変える。間に休憩を入れ、エスポーサが水を供給する。
昼食の後、2時間3セット。
二日間同じことをやった。
後3日。
「今日から二日、駈歩行進だ。昨日と同様並べ。掛け声は我が国伝統の、『いち、にい、さん、しい、そーれ』だ」
我が国とはどの国かわからないが迂闊なことを言うと駆け足の時間が増える。黙っている。
「シッパーツ、進行」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
ゴードンさんは今日も楽しそうだ。
2日間、駈歩行進の訓練。




