202 ゴードンブートキャンプ (1)
翌朝、夜の明ける前に起きた。僕と、アカ、マリアさん、ブランコ、エスポーサだ。ステファニーさんは拗ねて寝たふりをしている。オリメさんとアヤメさんは夢の中。そっと支度して泉前に。二百人衆10人がバトルホースに乗って待っていた。僕らが連れて来た馬もいる。よし、転移。
ゴードンさんと三馬鹿ハルトが待っていた。マリアさんの馬も連れて来てくれた。すぐマリアさんのところに行った。やや、ロシータさんとお子さんもいる。侍女さんと訓練を受けさせたい。そうですか。どうぞどうぞ。
「簡単に説明しておく。これから行く国、アングレアの東の亡国の隣、アレシアス王国の辺境の城兵600人を鍛えてほしい。都に行って堂々と行進できるようにお願いする。またゴードンさんには都に行く100人を選抜してほしい。訓練期間は一ヶ月。例の水はなし。なので期間を長く取った。滅びの草原の利用は可。その時は言ってください。滅びの草原はこれから行く国の隣にも続いていますから、すぐ近くです。よろしく」
「オー」
話が簡単でいいね。この人たち。
「では、兵隊さんたちが集合している城門前に転移します」
城門前に転移すると600人が待っている。
ブランコとドラちゃんとドラニちゃんが飛んできた。寂しかったよーと泣いている。しょうがないねえ。いいことを思いついた。観察機能付小動物を呼ぼう。4匹で四方を見てもらおう。4匹スパエチゼンヤから呼んだ。この城の周りを頼むよ。はーいだそうだ。散っていく。
ドラちゃんとドラニちゃんはピッタリくっついたまま。しょうがないね。ブランコは撫でてやったら落ち着いた。少し大人なのだろう。
「それではみなさん。今日から一ヶ月、この極級冒険者、ゴードンさんの指揮の元、訓練に励んでください」
「紹介しますね。コードンさんの隣の三人が有名な三馬鹿ハルトさんです。その隣は二百人衆10人。僕の右隣から、アカ、マリアさん、ブランコ、エスポーサです。僕にくっついているのがドラちゃんとドラニちゃんです。それから一緒に訓練を受けることになったロシータさんと娘さんです。よろしくね」
「ではゴードンさん。あとはよろしく」
「ゴードンだ。まずは基礎的な体力向上訓練を全員でおこなう。基本的に走る。満足できるレベルまで何日でも走る。女性はマリアさん担当。マリアさんについて行ってください。老人はいないようですね」
マリアさんが離れていく。女性がついていく。ロシータさんと娘さんも一緒だ。
「では城の周り一周、走る道を二百人衆と三馬鹿ハルトが作るのでそのあとをついて行ってくれ。では、始め」
なんだ、あとをゆっくりついていけばいいという顔をしているね。
二百人衆10人と三馬鹿ハルトが剣を抜いた。二百人衆と三馬鹿ハルトが森に突っ込んでいく。13人で200メートルくらいの幅で木をスパスパ切っていく。木が倒れる前にブランコとエスポーサが収納して切り株は踏んでいく。切り株は根っこと一緒に粉々になって地面が平らになるらしい。たちまち600人との間が空いてしまった。
「ぼやぼやするな。前が空いたぞ。走れ」
男の兵に続いて、マリアさんが率いる女性が走っていく。女性は内側、男は外側らしい。それで体力差の調整をするらしいね。へえ、打ち合わせをせずにうまく行っているね。アカが、だって眷属と准眷属だから。そうですか。
ところでひっつき虫はもういいかな。十分なでなでした。うんと言っている。いい子だね。ほんとに。じゃ、遅れた人に喝を入れて。はーいと飛んでいった。あちちち、と声が聞こえる。ちんたら走っていたんだろうね。
小さいながらも城だ。距離があるんだろう。なかなかもどってこない。おっと先頭が来た。
二周目は、指導者がバラバラに600人の間に入っていく。ははは、サボれないぞ。
エスポーサは、人化しますというのでシャワー棟を出して着替えてもらった。
エスポーサが巨木の絵のパラソルとテーブルを出す。水は魔の森の泉の水だ。普通の水と信じている。パラソルの前を三馬鹿と二百人衆がかけるとき、心なしか早くかけているように見える。
三周目は三列でかけている。早い順に外側から走っているらしい。二列目には女性もいる。なかなか頑張る。おやロシータさんと娘さんも二列目だ。ゴードンさんに鍛えられているらしい。エレーネさんと侍女さんも二列目だ。執事長と侍女長は一列目だ。さすがだ。
四周目に入った。
「はーい、みなさん、喉がかわいたらこちらに来て水を飲んでください。飲まないと死にますよ」
みんなびっくりして水を飲みにくる。
「飲んだらすぐ走り出してくださいね。休んでいては訓練になりません。そこ、サボっているとドラちゃんとドラニちゃんよりレーザーのプレゼントがありますよ」
足元スレスレにレーザーが打ち込まれる。ひええええと言って走っていった。
午前中のランニングが終わった。ヘロヘロである。
「ご苦労であった。気づいているかもしれないが、ランニングには料理人も参加してもらっている。城の全員だ。明日も午前のランニングには料理人も参加してもらう。午後は抜けてもらって夕食の準備をしてもらう。それでだ。これから昼飯は料理人の食事はない。みんなに作ってもらう。自給自足が軍隊の基本だ。ただし、シン様は優しいから材料は用意してくれた。あの巨木のパラソルに用意してある。10人で組を作って取りに行ってくれ。鍋は一組一つだ。食器はこれから厨房に行って借りてくる。一人につき、お椀、ナイフ、フォークひとつずつだ。夕食もそれを持っていって食べてくれ。それ以外は使ってはならぬ。訓練が終わるまで、常在戦場だ」
ひええ、さすが極級と言う声があちこちから聞こえる。
ゴードンさんに聞くと、極級に復帰したのだそうだ。エチゼンヤ支店のセドリック執事長さんも復帰したのだそうだ。
セドリックさんは、長いブランクがあったので、売り出し中の若手が爺のくせにといって、それじゃと復帰をかけて試合をしたのだそうだ。初めの合図と共に、セドリックさんが二、三歩若手に向かって歩いたと思ったら、若手の首がスパンと胴から離れてしまって、武器がなんだかわからないし、何をしたでもなく首が飛んでしまったので、みな後退りしてしまって、若手は自業自得の自損事故、さすが極級という話になって一件落着したと言うことだ。
エスポーサが巨木のパラソルの下で鍋に食材を入れて配っている。パラソルが増えている。人数が多いからね。エレーネさんももらっている。えらいね。料理人が4人で、お椀、ナイフ、フォークを運んできた。皆取りに行く。
僕らは久しぶりにゴードンさん、三馬鹿、二百人衆といつもの食事だ。
話も食事も弾む。
三馬鹿は、あれから、ピンクパンサーという組織を潰したのだそうだ。ブラックに次ぐ組織で孤児院に因縁をつけてきたから、プチッとしたと嬉しそうに話している。
孤児院のお年寄りが子供に付き添って、子供が農場で作った作物を売っているが、その上前を跳ねたかったようだ。断ったら孤児院に押しかけてきたそうだ。怖かったろうね、ピンクパンサーの方々が。因縁をつけにいったら、強面暴力神父が出てきて、因縁返し?だ。強面暴力集団経営の孤児院に因縁をつけたらダメでしょうに。ハビエル神父さんから知らされて、後始末に奔走する宰相殿の様子が目に浮かぶようだ。
二百人衆は、プリメーロとプリメーラの双子がスクスク育っているとか、誰それと誰それが仲が良くなったとか、農作物の出来とか、メーメーとかモーモーとか平和な話だ。
それで二百人衆が、ゴードンさんにロシータさんのことを突っつく。ははは、ゴードンさんが言い訳をしている。面白いな。
笑って食事をしていると兵隊さんが恨めしそうにしているが、無視。軍隊というものはそういうものでしょうが。




