020 魔肉とイツカリ板長 そしてお風呂
さて、エチゼンヤに着いた。木戸から入ろう。木戸を開けると店のベルがなる仕掛けらしい。音がして店員さんが会釈をしている。通って良いんだろう。屋敷のドアをそっと開けて入ると、セドリックさんが待っていた。
「お帰りなさいませ。おや、白狼様が小さくなられたようですが」
「進化して大きさを変えられるようになりました」
「左様ですか。今日から中で過ごされますね。厨房に伝えておきましょう」
「厨房に案内していただけますか。魔物を狩りましたので魔肉のお裾分けです」
「それはそれは、こちらでございます」
厨房に案内された。セドリックさんが料理長さんを呼んできた。
「魔物を狩りましたので魔肉をお持ちしました」
料理長さんが気難しい顔をしている。鮮度がと呟いている。
「とりあえず出してみます」
料理長さん、不承不承バットを出してきた。バットに魔肉を出した。触って、匂いを嗅いで、頬がヒクヒクしている。どうしたの。
「失礼しました。魔物の種類はわかりませんが、肉としては申し分ない魔肉です。夕食に使わせていただきます」
「魔肉は珍しいと聞きました。お店と屋敷の方全員に渡るほどありますのでバットを追加してください」
料理長さんすぐ持ってきた。山の様に入れてやる。何処から出したかなんて野暮なことは聞かないね。さすがエチゼンヤ、キチンと情報伝達、統制がされているらしい。
「もう結構です。全員で食べても食べきれません」
「余ったら燻製にしていただけるとありがたいです。遠出するとき持っていきます」
「わかりました。数週間ください。じっくりと燻煙と乾燥して日持ちする様に作ります」
料理長さんが若い人を呼んでバットに山盛りの肉を運ばせている。セドリックさんは忘れずにブランコとエスポーサの夕食を頼んでくれた。
料理長さん、厨房の奥に行ってみんなに話しているよ。
「今日はシン様から魔物の肉が大量に差し入れされた。滅多に入手できない魔肉だ。それも店の前で狩をしたんじゃないかと思われる鮮度だ。更にだ、俺も食ったことのない種類の極上肉だ。何枚かステーキにして肉の性質、調理方法を確かめるぞ。研究だ。夕食にお出しするからすぐかかるぞ。それからお店と屋敷の賄い食も魔肉ステーキだ。気張れ」
おーーと歓声が上がった。魔肉って獣肉と違って足が早いんだよね。すぐ腐ってしまう。特に森から出たら早くなるね。冷凍庫も冷蔵庫もないから、事実上森から迷い出て街の近くにきてしまった魔物か、街に押し寄せて来た魔物からしか魔肉は取れないね。
玄関ホールに戻ると若い侍女さんが三頭をモフっている。三頭に付いてくれていたと信じたいが、目尻を下げ口元を緩ませている姿を見ると、仕事なの?と思わなくもない。残念侍女さんと別れ三頭と客間に入る。場所は覚えた。
すぐにマリアさんがやって来た。
「お風呂の用意ができていますのでどうぞ」
長い距離駆け足したから埃っぽいかもしれないね。お風呂にしよう。アカを先頭に風呂場に行く。
「先に洗ってからお風呂に入るんだよ」
危ない、危ない。ブランコとエスポーサが飛び込みそうだった。先に三頭を洗ってやる。ブランコとエスポーサはお風呂に入ったことはなかったね。入念に洗う。水で流すと艶々とした透明感のある真っ白な毛になった。
「お背中を流しましょう」
うわ、またマリアさんだ。今日も薄物だよ。胸は布を巻いている。下はかぼちゃパンツか。若い体なのに色気ないな。勿体無い。
「大丈夫です。一人で洗えます」
「まだアカ様を洗うんでしょう。お背中を流します」
失敗した。入って来ないように釘を刺して置くんだった。でも35歳がちょっと期待していたのは内緒。
「背中だけお願いします」
答えながらアカを手早く洗う。ほら湯をかけておしまい。
「では前を」
アカがニンマリしているよ。きっとまた見てないところでおやつを貰ったにちがいない。賄に弱いやつだ。
ぱぱっと洗って湯を被ってお風呂にドボン。セーフだろう。
「大分、毛が抜けましたね。床を流しておきましょう」
あれ、出て行かないよ。弱った。こちらをちらちら見ている。ショタコン疑惑変態グラマー年齢可変侍女長だ。床を流し終わった。流石に出て行ってくれる。よかった。
三頭とバシャバシャと遊ぶ。楽しいな。こういう暮らしもいいな。
風呂から出ると新しい服が用意されていて、今日着た服は消えていた。洗濯してくれるんだろう。まさか侍女長はやらないだろうけどショタコンだからどうだか。
夕食は魔肉のステーキだった。なまじ手を加えずに肉の旨さを味わってもらうという料理だったよ。料理長が挨拶に出てきたけど、役職名は板長と言うんだそうだ。名前はタカベ イツカリ。イツカリ板長、なんかかっこいいね。爺さんは朝から見かけないと思ったら隣町に出張だそうだ。まだ頑張っているんだね。
おっと、思いついた。
奥さんに仕立屋さんの場所を聞いた。
「服は数日したら仮縫いに来るでしょうから、行かなくて大丈夫ですよ」
「少し個人的に頼みたいものがあるんで行ってみます」
「そうですか。なんでしょうね」
「期待しておいてください」
ふふふふ。楽しい。
「何か企んでいる様ですね。楽しみにしておきます」
夕食が終わって、客間に戻って、紙にあるもののデザインを書く。ふふふふ。
書き終わったので三頭とベッドだ。アカが右、エスポーサが左。ブランコさんは足元だよ。力関係が明白だね。情けない顔をしている。体を起こして撫でてやる。アカとエスポーサは知らんフリ。撫でてやったからいいだろう。さて寝よう。




