193 エレーネさんの事情
応接室に戻って、エレーネさんが話し始める。
「私の父はこの国、アレシアス王国と申しますが、国王です。私の母は正妃でした。ある時父の弟が、叔父になりますが、見てもらいたい地方があると父に申しました。父はほぼ寝たきりですので、代わりに母が馬車で視察に出かけました。
ところが予定を過ぎても戻りません。父と私は心配になり、父に近い兵を見に行かせました。お恥ずかしい話ですが、軍の半分以上は叔父が掌握しています。見に行かせた兵が戻って来て、視察地には着いていないと報告を受けました。
父は人数を増やし、通過した宿場等に聞き、通過したと確認できれば次に行き、最終的に通過が確認できた最後の地は山の麓の宿場でした。そこから注意深く道路を辿り、山道で何か落ちたような痕跡を発見、谷底までおりると、バラバラになった馬車と王妃、侍女らの亡骸を発見しました。ところが御者二人の亡骸は見つかりませんでした。
母の葬儀後、私は叔父によりこの地に追いやられました。名目は重要な国境の警備ということでした。父は自分の支配下の兵から選りすぐって500人の兵をつけてくれました。叔父も重要な国境警備と言った手前、それには苦情はありませんでした。500人に私に仕えてくれていた100人を加えてこの地に来ました。
この国の法では、国王が亡くなれば男女問わず長子が国王を継ぐことになっており、私が長子です。母が亡くなった後、国王は叔父の勧めの女性を後宮に入れました。程なくその女性は妊娠し男の子を出産しました。父はすでに寝たきりでしたので、そのようなことは出来るはずもなく、父も否定していました。ところが叔父は、子供が産まれるとすぐに、国王の子として盛大な誕生パーティーを催しました。
その頃より私の周りで事故がおこり始めました。外出すれば山の上から岩が落ちて来たり、橋が落ちたりしました。運良く事故から逃れ続けてきました。痺れを切らしたんでしょう、助けていただいた直接的な襲撃となりました。
また、ここに選りすぐりの兵と立てこもられていたのでは埒が開かないと思ったのか、夜会の案内状が父の名前で届きました。次期国王のお披露目とありました。行かないわけにはいきません。多分警護の人数が減った旅先で襲われるものと思います」
「お供の人数は増やせないのですか?」
「増やせば叔父に反乱と決めつけられ軍が鎮圧に出てくるでしょう。同じ国民同士を争わせたくありません」
いやあ、大変だね。お家騒動か。どっかの帝国みたいだな。皇太子はどうしたかな。また巻き込まれてしまった。暇そうな顔をして何か起こらないかと考えているから事件が寄って来るのですとアカが申しています。僕が悪いのか。そうです。自業自得です。
そういえばステファニーさんの晩餐会用のドレスは作ってなかったな。マリアさんと似た服をオリメさんに作ってもらおう。それとステファニーさんのネックレスは作ってなかったな。作った。いま渡すとおかしいからドレスを着た時渡そう。
マリアさんに肘で突かれた。何か言えとのことだな。現実逃避していたのに。
「ええと、着付けに行かなければならないしお供しますよ」
「それはありがたい。死地に赴くような気がしていました」
「採寸は?」
侍女長さんがオリメさんに聞いた。
「先ほどアヤメがネックレスをつけた時採寸しました。それと、エレーネさんの靴、インナー、上から下まで全て作らせていただきます。それから都への道中はどなたが付き添いでしょうか?」
「私が付き添います。何かあると申し訳ないので、私だけです。あとは御者と警護の兵、10名ほどです」
「そうですか、侍女長さんだけで。わかりました。侍女長さんの服も上下全て作ります。エレーネさんと侍女長さんの普段着も作ります。それと警護の方と合わせてください。採寸して軍服を作ります」
「いいんでしょうか」
「見窄らしくては侮られます。ここはきめるべきところです」
久しぶりに本職の腕が鳴るんだろうね。楽しそうで何よりです。
あ、頼んどこう。
「オリメさん、ステファニーさんの夜会服が作ってなかったので、マリアさんと同じようなものでお願いします」
「わかりました。すぐ作ります」
明日朝にはできているんだろうな。
「兵はいつ採寸できるのでしょうか」
エレーネさんタジタジだ。
「夕方お願いします」
エレーネさんと侍女長さんのため息で解散した。
オリメさんが、裁縫棟に行きたいと言うのでエスポーサがオリメさんとアヤメさんを送って行った。