190 お城の食事、エレーネさんたちによるシン一行の品定めなど
応接室に戻ると、侍女さんがやって来た。
「夕食の用意ができたようです。みなさん食堂へどうぞ」
エレーネさんの案内で食堂に向かう。
席に着くと、侍女さんが配膳する。
「どうぞ、辺境でたいしたものはお出しできませんが」
とエレーネさん。続いて料理長さんだろうね。
「お嬢様を助けていただきありがとうございました。感謝の心を込めて作りました」
壁際には執事さんと侍女さんが待機している。エチゼンヤさんの方が人がいたな。ここは兵が主体なんだろうな。
「お口にあいますか」
「ええ、美味しいです。食材はこの辺でとれたものでしょうか」
「そうです。見ての通り城だけですので、食材は山菜が中心です」
「山が豊かなんでしょうか。山菜を食べたのは初めてです」
「それはそれは。私どもはこの城に来てから自給自足です。贅沢を言わなければ十分です」
「手がかからずに育つ病気に強い芋の種がありますがお分けしましょうか。この頃は品種改良が進んでしばらく前より随分美味しくなりました。城の隅でもいいし、城の外なら少し木を切って畑にして蒔いておけば勝手に芋が出来ます」
「それは助かります。是非いただければ」
「後で山菜取りの方にでもお渡ししましょう」
和やかに話をしてお開きになった。
食事は質素だが素朴で美味しかった。ドラちゃんもドラニちゃんも満足したようだ。
侍女さんに客室に案内された。
ソファとテーブルが置いてある広い部屋があって、寝室は別になっている。もう一部屋ある。賓客用の客室と見た。
「このような立派な部屋を使わせてもらっていいんでしょうか」
「お嬢さんを助けていただいた方に粗末な部屋に泊まっていただくことはできません。このような部屋で心苦しく思っています。この城ではこれがせいぜいです。申し訳ありません」
「こちらこそ、突然来てすみません。どうぞよろしく」
侍女さんが戻って行った。
僕たちはもちろん神国自宅スパ棟に転移。お風呂ですよ。
その頃、エレーネさんと執事長、侍女長がエレーネさんの執務室で話をしていた。
「どう見る?」
エレーネさんの質問。
執事が答える。
「随分前ですが、武者修行していた時、ゴードンという極級冒険者と手合わせしました。極級冒険者は今まで世界で二人だけです。後にも先にもその二人だけ。そのうちの一人がゴードンさんです。話になりませんでした。こちらが剣を抜いて振りかざして、振り下ろしても動かず、まさに剣が頭を割ろうとする時、剣も体も吹っ飛ばされました。剣も抜いていませんでした。赤子の手をひねるというのはこのことかと思い知らされました。そのゴードンさんさえ、オリメさんとアヤメさんとでは、負けはしないでしょうが、勝てもしないと思います。二人がかりだとそうとう苦戦すると思います。しかも、オリメさんとアヤメさんはあの中では一番弱いと見ました」
「そうだな。最初助けてもらった時、どうしてこんな若い者を投入するのか疑問に思ったが、二人で5人瞬く間にやっつけてしまった。最後の二人は、体は動かなく、口だけきける状態にした。そんなことは誰にもできない。神流ヒッサツ派と言っていたが、恐ろしい流派だ」
「ステファニーさんとマリアさんと言っていましたか。あの二人は彼女たちより更に強い。ゴードンさん、オリメさん、アヤメさんが人類最強なら、あの人たちはもはや人ではないと思います。一見強さを感じませんので素人は弱いと思うでしょうが、間違いなくこの世界最強です。どんな魔物でも敵いますまい」
「そうか。あの形はお子さんだが主人と見える人はどうか」
「わかりません。全くわからない。連れている、柴犬という犬、白狼、ミニドラゴンも全くわかりません。ただ」
「ただどうした」
「絶対に怒らせてはならないと思います。なぜかわかりませんが、見ていると背筋が寒くなります。ステファニーさんたちは、強いとは思いますし、人を超越していると思いますが、なんとなく安心できる部分があります」
「そうだな」
「シン様たちには、その安心できる部分が全くありません。我々とはまったく違った原理で存在しているとしか思えません。だから恐ろしいです」
「残念だが、そうかもしれないな」
残念とはどういう意味か、わからない執事長と侍女長であった。
「馬はどうか?」
「あの馬は、馬と呼んでいいのかわかりません。馬ではないと思います。一頭でこの城を一瞬で蹂躙できると思います。それが6頭ですから、大変な戦力です。それも主人に大変懐いている。主人に対して邪な思いを抱けば踏み潰される気がします」
「馬も怪物か。待機させていたというがどこに待機させていたのだろう。またオリメさん、アヤメさんが武器を持ち出したが、どこから出したかわからない。わからないことだらけだが悪人ではないと思う」
「それは、そう思います。恐ろしいというのは単に強いから恐いというのではなく、畏怖の方なのかもしれません」
「侍女長はどう思った?」
「私は武力ではなく、あの人たちの関係を考えてみました」
「それで」
「皆目わかりませんでした。ただ、あのニコニコしたお子さんが中心で馬も含めて、みなさんが太い絆で結ばれていることはわかりました」
「そうだよねえ」
「一部の新興宗教ですと教祖に盲目的に従っていたりしますが、そういう関係ではないですね。みんな自分をしっかり持っていて、その上で従っている、慕っていると見えました。一部の新興宗教などと違って相互に強い絆があるんだと思います」
「羨ましい関係だね。我々が受けている仕打ちを考えると」
「姫様、姫様には我々とこの城のみんながついています」
「そうだね。ありがたい。ありがとうね」
夜は更けた。それぞれ自室に戻った。