189 僕の生業は?など
応接室に戻った。
「シン様は何を生業にしているのでしょうか」
あれ、僕は何をして暮らしているのだろう。うーーん。魔物や獣を狩っていると言っておけばとアカが言う。そうだね。大猪も売ったし。
「僕は魔物や獣を狩ったりしています。この間も隣の亡国で大猪を狩って金貨50枚で売れました」
「それは大物を。でも狩人とは見えませんが」
なかなか鋭いね。
「襲いかかって来るものだけ狩っていますから」
「そうですか。それだけでこの人数を」
「いや、みんな仕事を持っていますから。例えばオリメさんとアヤメさんは裁縫師をしています」
「一月半くらい先に、王都まで行くのですが、日常着る服と夜会服などを頼めるかしら。お恥ずかしい話ですが、鎧はあるのですが、そういう服はほとんどなくて」
「いいですよ。オリメさん、アヤメさん、お願いできるかな」
「わかりました。ただこの国の服を見せていただけると参考になります」
「母が去年着た服ならあります」
「それで結構です。それと生地はありますか。なければ自分のを使いますが」
「母が今年着る服を作るために用意した生地はあります」
何か事情がありそうだね。
「あとで服と生地を見せてください」
「わかりました」
「ところでみなさん馬はお持ちですか」
「待機させています。呼んできましょう」
馬も用意してもらうのでは大変だからね。牧場にいても待機は待機だ。
ええと何頭だ。僕、アカ、マリアさん、ステファニーさん、オリメさん、アヤメさん、ブランコ、エスポーサ。人化した人数だと8頭、最初に出会った馬は8頭、そのうち2頭はエチゼンヤさんだから、残り6頭。6頭で十分だな。ドラちゃんとドラニちゃんに呼びに行ってもらおう。
「ドラちゃん、ドラニちゃん、馬を呼びに行って」
わかったーと飛んでった。何も聞かなかったけどわかっているんだろう。
しばらくすると、遠くから、ドドドドッ、ドドドドッと蹄の音の轟きが聞こえて来た。心なしか城が揺れているような。まさかな。
「姫様、化け物のような馬が、馬の化け物が6頭攻めて来ます」
「あ、それ僕の馬。おとなしいから大丈夫だよ。行って見ます」
城門に急ぐ。しっかり閉じられている。
「開けろ。客人の馬だ」
エレーネさんが叫ぶ。
城門が開いた。バトルホースの上にドラちゃんとドラニちゃんが乗ってかけて来る。
久しぶりだね。よしよし。一頭ずつ撫でてやる。嬉しそうだ。ブルルと言っている。なになに、ローテイトして神国にいたのか。そうか。少し付き合ってくれる?喜んでと言っているね。よしよし。
あれ、城門の上のほうで呻き声が聞こえる。どうしたんだろう。兵が支えられて降りて来る。弓手に矢が突き刺さっている。
「どうした」
エレーネさんが聞く。
「この兵が、馬に恐れをなして勝手に矢を放ってしまいました」
「それがどうして兵に刺さっている?」
「馬が兵が放った矢を咥えて投げ返しました。それが弓手に刺さりました」
「命令をきけぬ兵は練度が足りない。訓練し直せ」
「はは。でももう弓は引けません」
「診てあげましょう」
「こちらは?」
「我が客人、馬の主人だ」
「これは失礼しました。如何様にもご処分を」
「馬に怪我はなかったので不問でいいですよ。それより兵を診ましょう」
「なるほど、刺さりましたね。突き抜けていますね。ちょっと痛いですよ」
矢のシャフトを途中から手刀でスパッと切って矢を引き抜いた。あとは手をかざして矢傷が光っておしまい。
「はい、治りました。しばらくは弓を引かないでくださいね」
兵は、信じられないと言う顔をして腕を回している。
「お礼」
エレーネさんの声が響く。
「ありがとうございました」
兵を連れて降りて来た上官と兵が頭を下げた。
「侍女といい兵と言い、重ね重ねありがとうございました」
「いや、たいしたことではありません。気にする必要はありませんよ」
「申し訳ない。それにしても立派な馬ですね」
「ええ、自慢の馬です」
馬というより怪物だろう、矢を投げ返す馬などいない。それに矢が刺さるかどうかも怪しい。充実した馬体に矢は弾かれてしまうのではないか。これが戦場に出て来たら皆踏み潰されそうだと思う兵であった。
馬丁が呼ばれてやって来たが後退りしている。
「場所だけ教えてくれていただければ大丈夫です。自分で出入りしますので柵はしないでください」
「こちらにおいでください」
人に言うように馬に言っている。大丈夫だろう。よくできた馬丁だ。