180 みんなでアングレアの東の国境の先に行ってみる
「ただいま」
マリアさんとステファニーさんとエスポーサが帰ってきた。
「ただいま」
続いてオリメさんとアヤメさんだ。
みんなでジッと三人を見つめている。
落ち着かないね。ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃん。
ジッと見つめられる。視線を外したり、顔を洗ったりし始めた。
ジッと見つめられる。
耐えられなくなって僕とアカの後ろに隠れた。
しょうがないね。バレちゃったみたいだ。
「ちょっと暇だったから、アングレアの東の国境まで行って来た」
「そう」
「いや、あのね。事件は何もなく、国境の警備兵さんと話をして来ただけだよ」
「そう」
「あそこは何もなくて、東西街道も国境を過ぎると草に埋れ、森に突き当たって途切れていた」
「そう」
「今度一緒に行ってみようね」
「ふふふ。いじめちゃった」
ステファニーさんの追求は、「そう」としか言わなかったけどなかなか厳しかった。
それじゃ全員で出かけますか。
「アングレアの東の国境からさらに東に進んでみたいのだけど、行く?」
「行く」「もちろん」「行きます」
返事は、みなさん行くと言うことなので、数日かけて準備をしてもらう。僕とブランコとドラちゃんとドラニちゃんはいつでもいいのだけど、みんなそれぞれ仕事があるからね。出かけている間の手配だ。
料理も作っておく。作るのはマリアさんとエスポーサだけど。僕は材料出し。ブランコとドラちゃんとドラニちゃんは味見係。アカは監督。
準備に二日かけた。大変だったかどうかは僕には分からない。でも僕も用意したものがある。
さて行きますかね。
みんな見送ってくれる。こっそり出かけようとしたけど、準備でバレてしまっていた。泉の広場からドラちゃんに乗って、出発。
二百人衆が手を振ってくれている。ぐるっと回って、東西街道沿いに高空を飛んで、一路、アングレアの東、東西街道東端の監視所近くに降りた。監視所まで歩く。
「こんにちは」
「あれまた来たかい。今度は人数が増えているね」
「はい、それとこれはこの間の芋のお礼。種芋です。栽培して見てください。病気に強く収量は多く、美味しいです」
「そうかい。ありがとうよ」
「今日はどうしたね」
「今日は国境を越えて向こう側に行ってみようと思います」
「そうかね。何もないと思うけど」
「どうして狩人が来なくなったか確認して来ます」
「森だよ。危ないよ」
「大丈夫です。危ないことはしませんから」
「そうかい。国境の門は開けたことがなくて、開かないだろう」
「飛び越えますから」
「そうかい。気をつけてな」
「じゃ、行って来ます」
ポンポン門を飛び越えた。
心配そうに老兵が見ているので手を振って、街道が続いていたと思われる箇所から森の中に入っていく。
あれ、せっかく用意した出国のための書類を出さなかった。まあいいか。
監視所
「あれ、国境を越えるには何か書類が必要だったんだっけ」
「さあ、だれも国境を越えたことはないから分からないな」
「そうだな。種芋をもらったから畑に蒔こう」
全員で畑に行ってしまった。
今日も国境監視所は平和である。
森の中に入ったシン一行。
街道の跡は地面がやや硬く注意深く辿っていく。森に入ってからは滅びの草原から離れるらしい。やや南へ向かっている。生き物の気配はするけど襲ってこない。でもたまにバッタリ出会い頭に獣に遭遇することがある。逃げるのは逃して、向かって来るものだけ倒して収納した。
一日歩ったら唐突に森を抜けた。夕焼けに染まった草原が続いている。一様にびっしり草が生えていて森の中より街道跡が見つけづらいだろう。しかも草丈が大人の背丈以上ある。これでは草原に踏み込むと森の中以上に方向を見定めるのは難しい。数十歩草原に入れば後先が見えずもう迷子だ。人が通行しなくなったから草が生えたのか、草が生えたから人が通れなくなったのかはわからない。事情がわからないから草原を焼き払うこともできないし、そもそもここは僕らとは無関係な土地だから勝手もできない。
「もう夕方だからここに一泊しよう」
「森の中には強い生き物がいなかったわね。人が狩りをするにはちょうど良いくらいだわ。なぜ狩人が来なくなったのだろう」
ステファニーさんの発言だ。
「そうだね。ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃん、そっと森の中の生き物を調べて来て。気づかれないようにね」
わかったーと三人で森の中へ。
草原を少し調べても小動物の気配しかない。森も草原も魔物の気配はない。
三人が帰って来た。
魔物はいなかったよー。獣しかいないよー。それも強いのはいないよ。だそうだ。
森と草原のあわいに移動用スパ棟を出し、みんなでお風呂。それから食事。すぐ寝ました。
翌朝。今日は草原を飛び越えることにした。スパ棟を収納し、ドラちゃんに乗って上空へ。よく見ると草の生育がやや悪い箇所がある。一直線に伸びている。多分街道跡ではないか。その上を飛ぶ。やがて草丈が低くなり、街道跡がはっきりわかるようになった。着陸して調べてみる。やはり街道跡のようだ。地面が硬い。街道跡を辿って先に進む。
半日歩っても何にも遭遇しない。昼食にしてさらに先に進む。夕方になり移動用スパ棟を出し一泊。
翌日も歩く。何もないが、街道がいくらか使われた様子があるようになった。小動物でも狩りに来たのかもしれない。夕方になり一泊。