176 世界樹の元で (上)
早起きした。暗い空が薄明るくなって来る。地平線がくっきりとわかる様になる。陽が水平線からこぼれてくる。やがて明るさが盛り上がり、溢れるように陽が顔を出す。夜明けだ。抱っこされたアカが綺麗ねと言う。うん。綺麗だ。大気が陽の光で満たされる。
みんな起きて来た。ドラちゃんとドラニちゃんがまたと言って拗ねている。こっちへおいで。アカには降りてもらって二人を抱っこする。ゆっくり撫でてやる。ほら、朝になったよ。空が朝焼けで綺麗だよ。ほんの一瞬だからね。朝焼けは。見られてよかったね。ご機嫌がなおった。
朝食を食べ出発。今日は竹林まで行こう。ゆっくり走っても余裕だ。まずは巨樹の森の手前まで行こう。ここは小動物しかいないからね。襲われることもないし、順調に着いてしまった。
少し休憩して巨樹の森へ。
少し抵抗があり膜を通り抜ける感じがして森にはいる。みんなすんなり入れた。ステファニーさん、オリメさん、アヤメさんは不思議な顔をしている。生き物の気配が全くないからね。まずは川へ行く。この川の水用の水筒を沈めて置く。帰りに持って帰ろう。そして竹林へ。昼頃には着いてしまった。
昼食にして、僕は久しぶりに相棒を取り出し竹をスパスパ切って、竹水筒を大量生産。竹水筒は幾つ作ったかわからない。アカに乗せてもらって竹水筒を川に沈めた場所まで戻って追加で竹水筒をいくつか沈めておく。すぐ戻って河原に降りて行く。みんなで遊んでいた。
河原の石は元通りゴロゴロしている。収納しておこう。収納して平らになったところにスパ棟を出した。今日はここで泊まり。
翌日は、果樹園、野菜畑、穀物畑、岩塩山をぐるっと一周。ここにあるのは世界樹さんが特別に作ったもので、下界のものとは似て非なるものだよと説明した。塩はだいぶ使ったから重点的に補充。ブランコも塩の需要があるとわかったから収納に励んでいる。
ステファニーさん、オリメさん、アヤメさんはびっくりしている。何でもあるからね。自分たちだけで暮らすとしたらここで収納していけば食物は何もいらないからね。必要なものは何でも含まれているスーパー完全食だからね。
この森に暮らすとしたらほんとに何もいらない。外の世界から補充する必要はない。
泉に着いた。僕とアカは、水筒に補充。全く使ってないけど来たら補充することにした。
もうここまで来たら世界樹はすぐ近くだ。ゆっくり進む。
里芋畑だ。
僕が最初に食べたのはこの里芋だよ。世界樹製だから、生で食べたても苦味もエグ味もなくて美味しいよ。朝露が葉の表面をコロコロ転がっていて、泉を見つけるまでその水を飲んでいたんだよ。命の恩人の里芋だ。里芋も収穫させてもらう。
里芋畑をかき分けて広場に出る。目の前に世界樹だ。
みんな世界樹に抱きつく。
『よく来てくれたわね。みんなシンとアカと仲良くしてくれてありがとう。人の世の生の流れは早く、二人がその流れに乗ることはできない。ほんの一瞬交差するだけ。だから二人だけではだんだん人と関わりを持てなくなる。みんなはシンとアカと生を、時の流れを共有して生きてくれる。同じ時を生きるみんながいるから人との関わりを持つことができる。神国の民、馬、動植物は、生が短くとも、シンやアカの僕としてシンとアカ、眷属と時の流れを世代交代という方法で共有してゆく。大事にしてね』
『それと話し相手がいないと私もつまらないのよ。だから時々帰ってくるんだよ』
「はい」、「うん」
さて今日はこの広場で寝よう。テントもスパ棟も出さない。始め来た時を思い出しながら、広場の地面に横になる。昼間の暖かさが地面に残っている。いつもの配置で寝る。
すぐ寝てしまった。
アカと夢を見る。
『滅びの草原はね。前のときプチしたのよね。だってせっかく呼んで話し相手になってくれるだろう生物が来たと思ったら一瞬で消えてしまうんだもの。エネルギーはもらったけど、よっぽどこの世界と相性が悪かったのね。いつもそう。だからずっと一人よ。気に入らない国があったらプチしたくなるのもわかるでしょう?でも私も考えたわ。まず呼ぶのはこの星、私との相性重視でシンとアカとに決めた。次に新たに呼んだシンとアカが私と一緒に時の流れを過ごせるように、里芋畑、泉、果樹園、野菜畑、穀物畑、岩塩山を作り、眷属を作り、下界にも住むところを用意したのよ。住むところというのは神国よ。だから時々帰って来なくてはダメよ。こっちに住んでもいいのよ。帰ってこなければ人の国をプチしてしまうから』
『ずいぶん考えてくれてありがとう。心配性なお母さんのようだ』
『ーーーーー。ほんとに時々帰ってくるんだよ』
『うん』