175 世界樹の元へ (下)
意外と早く崖下に着いたので、崖を登ってしまおうか。
「ブランコ。ステファニーさん、オリメさん、アヤメさんが登りやすいルートで登ってね」
ウオンと返事をして登って行く。ステファニーさんとオリメさん、アヤメさんがブランコの後を辿って登って行く。その後を残ったみんなで登って行く。先行する三人も落ちそうにないね。上手に登って行く。
翼竜の支配地域に入る。襲ってこないねえ。ドラちゃんと初めて会ったのもこの辺だったかな。
どんどん登る。みんな健脚だ。あれよじ登るのも健脚でいいのか。わからん。
だんだん空気が薄くなる。もう翼竜も上がってこられない。何も飛んでいない。ブランコが登り切ったみたいだ。崖の上から顔を出している。次にステファニーさん、続いてオリメさん、アヤメさん。僕たち。やった。
夕日が綺麗だ。
みんなで崖から下界を眺める。夕陽に照らされて森の木の頂が輝いている。綺麗だね。翼竜も住処に帰って行くみたいだ。どこに住処があるのかね。ドラちゃんが崖の途中にあると言っている。そうなの。登ってくる時はなかったね。このルート上にはない。ブランコが優秀なのか。そうか、ブランコをヨシヨシする。尻尾をブンブン振っている。僕優秀、僕優秀と言っているね。ヨシヨシいい子だ。
振り返ると疎林の奥の方に巨樹の森が見える。今日は遅くなったから、ここで一泊。スパ棟を出して、中に入る。スパですよ。みんなで混浴スパ。男女別のつもりだったけど、みんなが後をついてくるから混浴になってしまった。僕のせいじゃないよ。混浴も大変なんだから。
何が大変なんだって、そういうことは言わないことにした。うん。みんな人化するんだもの。みんな忘れているだろうけど、僕11歳、中身は35歳。大変なんだよ。僕は一向に成長してないよ。どうなっているんだか。
さて、嬉し楽し大変のスパの時間が終了して、夕食だよ。もちろん僕らが作った食事だ。美味しくいただく。
今日は皆さん、おつかれだろうからすぐ寝る。
世界樹さんに連絡しておこう。
『もしもし、世界樹さん。起きてますか』
『起きてるわよ。やっと来てくれたのね。もっと来てもいいのに。下の世界にいるのも大変でしょう』
『うん。長くいるとだんだんいろいろなつながりができて、それは嬉しいんだけど、いいことばかりではなくて、このままいて影響を及ぼしていいのか考えてしまった』
『そうね。人の世界は人の世界の理で動いていった方がいいのよ。そこに力を及ぼすと、人の理から外れてしまう。だから結局長くはいられないのね。寿命も違うし。線指輪をした人たちは、寿命がだいぶ伸びたけど、シンや眷属の寿命からしたらほんの一瞬のことよね。ずっといると辛くなってしまう。ちょうど良いタイミングだったかもね。リュディア、アングレア、スパーニアは神国とは少しつながりを保っているから、何かあったら少しぐらい手助けしてもいいと思うよ』
『うん』
『それと、神国の人たちはわかっているからね。自分たちは世代交代してずっと僕で仕え続ける、続けられると思っているから寿命が違ってもそれはそれで良いのよ。引き継いで行けるからね。名前をつけたプリメーロ、プリメーラは生まれながらにして、そういうことがわかっている。これから生まれてくる子もそう。馬もそうよ。ここにいる眷属ではないけど、準眷属よね。普通の人より健康で体も頑健で寿命も長い。大事にしなさいな』
『うん』
『それと、初めて来たドラニちゃんとステファニーさん、オリメさん、アヤメさん。ドラニちゃんは、基本的にドラちゃんと同じだから良いとして、ステファニーさん、オリメさん、アヤメさんは巨樹の森に入るには、体の組成を変える必要があるけど変えていい?』
『はい、お願いします』
三人の体が光った。
『あれ、みんな起きてたの?』
『だって面倒じゃない。もう一度説明するのは』
『そうですか。世界樹に抱きついて感動の会話をするとか』
『面倒、面倒。みんなは、私とシンとアカと一緒に数万年生きるのよ。バングル、指貫の裏に、“世界樹とシンとアカと共に生きん”と象形文字で書いてあるのよね。詳しいことはシンに後から聞いてね』
『僕、成長しないんだけど』
『あれ、言うのを忘れてた。みんなずっとそのままよ。数万年。シンは、青年になれるんだからいいんじゃない。青年になりっぱなしでもなんの支障もないし』
『へええ、そうなんだ。青年になると神モードになって皆平伏してしまうし。そうするとずっと自称11歳』
『この台地の上なら青年で問題ないわ。それに11歳の方が下界で浮き名を流さなくていいわよね、みなさん』
みんな頷いている。
『チクシヤウ』
『せっかく来たんだから、またりんごなどを収穫していきなさいな。塩もこの間使ったみたいだし。じゃね』
あ、接続を切った。人に説明を押し付けてけしからん。しょうがない。説明しました。
疲れたから寝る。みんないつもよりくっついてくる。寝る。寝る。寝るんだ。