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171 戦争を総括し、神様は去った

 スパエチゼンヤ内の僕らのスパ棟

 こちらの結末を皇太子に知らせよう。それと山越えして来たお二人さんは、帝国に戻って帝国の復興に尽くしたいと言うので、ドラちゃんとドラニちゃんに、手紙と一緒に連れて行ってもらおう。


 程なくしてドラちゃんとドラニちゃんが皇太子の礼状を持って帰って来た。

 皇帝は最後に人の心を取り戻し自害したか。皇后は先の皇后暗殺犯として裁判中。今後は民のための政治を行いたい。戻って来た二人にも民のため働いてもらう。いつかおいで願いたいか。

 これで一段落だね。


 しかし、なんか虚しいな。

 もっとなんとかできなかったのか。

 帝国軍人と傭兵の5千人。神聖教国の犠牲者は何人か分からないけど、かなりの人が亡くなった。

 もっと関与すべきだったのだろうか。

 でも関与しても改心させることはできない。一時的に力ずくで争いを中断させるだけだろう。それでは恐怖政治と同じだ。


 でも僕たちのおかげでリュディア王国の人たちは助かった。出来ることはしたんだから良いんじゃないとアカが言っている。


 しばらく神国に帰ろうか。そうだ。世界樹に会いに行こう。


 その前に、今回の総括をしよう。みんなに集まってもらおう。

 僕とアカとブランコ、エスポーサ、ドラちゃん、ドラニちゃん。マリアさん、ステファニーさん、オリメさん、アヤメさん。エチゼンヤさん夫妻とイサベルさん、ゴードンさん、ハビエルさん、きょうちゃんだな。三馬鹿ハルトも呼んでおこう。

 アカ、みんなを集めてきてもらえるかな。


 みんなが集まった。

 最初に報告しよう。

 「最初に今回の戦争の経過報告。バルディア帝国皇帝が1万5千の兵でリュディア、アングレア、スパーニア三国を征服するため進発。国内の食糧を根こそぎ徴発したため餓死者が出始めた。こちらから皇太子殿下にコメと救荒作物を送り、餓死者は出なくなった。その後、食糧の根こそぎ徴発を知った兵站部隊が兵糧の三分の一を残し、兵糧と共に故郷へ帰った。次に戦意喪失囁き作戦により、根こそぎ徴発を知った兵1万が撤退。途中皇太子殿下と合流。皇帝一派を打倒。兵は兵糧を持って故郷へ帰った。残り5千はこちらを目指し進軍。途中の村々、教都には避難声がけ作戦により帝国軍がくる旨知らせた。信じなかったものは掠奪され暴行死した。小国群から救援依頼があったが、尊大な依頼だったので宰相が断った。小国群は住民が退避、放火だけで済んだようだ。当初の作戦は小国群の平原で行う予定であったが、そのような事情で、帝国軍がリュディア領内に侵入し切った時に、あまりにもな作戦を我らが遂行。三国連合軍が兵を押し戻した。その後兵は、小国群の人たちから投石などを受けて、教都方面に撤退、途中ですべて死亡となった」


「以上が今回の戦争の概略です。帝国軍5千、神聖教国のかなりの人が亡くなった。何かもっと人が死なないような他の方法もあったのかもしれないと思っています」


 エチゼンヤさんが発言する。

 「いや、他に方法はないと思う。被害も最小限に抑えられたのではないか。裸になった兵も、進軍してくる途中に住民を慰撫して進軍してくれば、服や食事をもらうことができ、無事に帝国まで帰れたのではないかと思う。最初の計画ではその予想であった。今回の彼らの死は自業自得と思う。シン様が気にする必要はないです」


 エリザベスさんが発言する。

 「5千の兵の進軍ルート上の村々、教都の人たちにはシン様が警告されているので、警告に従わなかった人たち、とりわけ教都の人たちは自業自得というものです。今回死亡した大半の人は自業自得でしょう」


 イサベルさんが発言する。

 「我ら三国で兵を千ずつ出しましたが、兵の損耗もなく、全員無事に国に帰りました。5千に対し3千が無傷で勝利ということは戦争ではありえないことです。これ以上ない結果と思います」


 きょうちゃんが発言する。

 「神聖教国の教義は、シン神様が顕現してしまった以上、もはや破綻してしまっていたことは、多分認めたくない人でも心の底ではわかっていたはずだ。ただ己の権勢に囚われ神聖教というシステムに縋り付いていただけだ。神聖教国がこうなることも必然であったろう。シン様が気に病むことはない。これから帝国軍から逃れた神聖教関係者がどう生きるか、もはや献金も何もない。腹が減れば自分たちで働いて食べていかなければならないことに気づくだろうよ」


 ゴードンさんが発言する。

 「今回、三国で初めて共同で軍事行動をとった。今まではこういう機会がなかったので大変意義があることであった。またトラヴィス宰相も一国の政治を預かるということはどういうことか、この度の危機で覚悟ができたと見える。政治家として階段を一段登ったと思う。良かったのではないか」


 ハビエルさんは、沈思黙考だ。


 我が一家は特に意見の表明はない。わかっているのだろう。


 「やることはやったと思うのでしばらく神国に帰ります。エチゼンヤさんの二百人衆の訓練は引き続き20人ずつお願いします。用があれば連絡ください。ゴードンさんは神国と行ったり来たりしますので急がなければゴードンさんでもいいです」


 エチゼンヤさんが代表して発言した。

 「もう帰ってこられないのでしょうか」

 「いや、いつか帰って来ます。ただ当面帰ることはないです。何かあれば連絡ください」


 ゴットハルトさんが発言する。

 「もっとご指導を仰ぎたかった」

 「みんな十分力をつけました。我々がいなくても大丈夫ですよ」


 マリアさんが発言する。

 「最後にみんなで夕食にしましょう」

 扉が開かれ、二百人衆が給仕をはじめた。


 「エチゼンヤさんと初めて街道で会ってから、何年も経ったような気がしますが、ほとんど時間はたっていないのですね。驚きました」

 「あの時はこうなるとは思ってもいませんでした。ずいぶん濃い時間を過ごさせてもらいました」

 雑談をしながら食事をした。


 食事が終われば当分このメンバーが揃うことはない。誰もがそう思っているが、努めて明るく振る舞っている。

 やがて食事が終わった。


 僕ら一家は全て人化。僕も青年だ。

 今日来てくれた人と一人一人握手をして送り出した。

 二百人衆にも手伝いのお礼を言った。

 「私たちはシン様の僕ですからお礼などとんでもありません。それに私たちは交代で神国に帰れます。先ほどの人たちと違い、私たちの国は神国です」

 「そうだね。またすぐ会えるね」

 「はい。それまでしっかりこちらで仕事をしていろいろなことを覚えて戻ります」

 「うん。待っているよ」


 さて、みんなが帰ったから、僕たちもここを引き払おうか。その前に記念樹を植えていこう。スパ棟を収納し、スパ棟があった近くにブランコが穴を掘り、アカが種を埋める。水をやり、芽でろ、芽でろ。

 芽が出た。すくすくと大きくなる。周りの木を越した。


 庭園に転移。ここに植えるとしたらどこかな。広場の真ん中に植えておこう。さっきと同じように植えた。

 あとは孤児院の農場だね。気づかれないようにこっそりと植えておく。

 それから牧場。あれ、馬が気づいた。黙っていてもらおう。僕の馬は賢いからね。静かにしている。厩舎の隣に植えておこう。

 よし、終わった。


 神国に転移した。

 二百人衆が勢揃いして迎えてくれた。スパエチゼンヤの二百人衆から連絡があったのだろう。一人一人と挨拶した。二百人衆はマリアさんとステファニーさんが揃って嬉しそうだ。


 さて、自宅スパ棟に入って、もちろんお風呂ですよ。それから早めに寝ることにする。ちょっと夜に用があるんだよね。


 夜中にそっと起きる。アカとホールに出る。さて、誰に配ろう。国王、先の国王、先の王妃付きの侍女さん、宰相、宰相の奥さん、宰相の花街の女将さん、オリメさんの両親、あとは線指輪を配った人の連れ添いだな。エチゼンヤコシ支店、エチゼンヤ本店の線指輪をしている人たちの連れ添い。さっさと配ろう。


 その夜、国王は夢を見た。シン神様とアカ神様が訪れ、コップの水を差し出され、飲んで、線指輪をしてもらった夢だ。リアルな夢だった。寝起きの悪い国王、ボーッと朝起きて食堂に行く。今日も王妃は元気だ。


 「あなた、指、指」

 「指がどうした」

 「光ってる」

 見ると指が光っている。いっぺんに目が覚めた。

 「どういうことだ。シン神様とアカ神様が来た夢を見たことは覚えている。あれは本当だったのか」


 「シン神様ーーー」

 王妃様は察しが良いのである。

 国王はよくわからぬが、とりあえず侍従に手配を頼んだ。

 「宰相が来たらすぐ執務室に来るように言ってくれ」


 食事が終わり、身支度を整えて執務室に行こうとすると王妃がついてくる。執務室では客が待っていた。先の国王夫妻と先の王妃付きの侍女だ。


 「遅いぞ」

 「いや父上が早いのでは。あれ、その指はどうなさいました」

 「お前と同じだ」

 先の王妃の侍女も若返って指が光っている。


 そこに宰相がかけこんでくる。宰相の指も光っている。

 みんな顔を見合わせた。

 先の王妃が口に出した。

 「シン様が」


 扉がノックされる。みんなはびっくりして飛び上がった。

 「なんだ」

 秘書官が顔を覗かせ、御ローコー様ご夫妻が大事な用件で会いたいと来ていますが。

 先の王妃がお通ししなさいと返事をした。秘書官は先の国王や現国王を差し置いて先の王妃が発言するのに慣れているのですぐ戻って行った。


 ローコー夫妻がやって来た。

 ローコーが国王、先の国王、宰相、侍女の指を見た。

 「やはりな」


 「叔父上、なにかご存知でしょうか」

 「スパエチゼンヤのシン様がスパ棟を出して使っていた近くに、巨木が一晩で生えた。スパ棟はなくなっていた。庭園の広場の真ん中にも巨木が生えていた。それと牧場、孤児院の農場にも生えていた」


 「どういうことでしょうか」

 「昨晩今度の戦争の総括をして、そのあと食事会をした。帰り際シン様一行が人化して、一人一人に握手してくれた。シン様は神国に帰られた。当分戻ってこない」


 「やむを得ないわね。神様が人といつまでも暮らせるはずがないわ」

 先の王妃は察しが良いのである。

 「その指輪はお別れの挨拶よ。巨木は記念樹ね」

 現王妃も察しが良いのである。先の王妃が現王妃の発言に頷いている。


 「なぜ出ていったのだろう」

 察しの悪い国王だ。

 「それはお前がしっかりしないからだ」

 先の王妃様は手厳しい。国王もお前呼ばわりだ。もっとも息子ではあるが。


 「そもそもシン様は神様なのだ。それをお前たちが頼って神様に寄りかかっているから嫌気がさしたのだ」

 そこまで言わなくてもと国王、先の国王、宰相。


 「今度の戦だってシン様に頼りっきりだったでしょう。情報収集、分析、作戦立案、作戦遂行。全てシン様よ。お膳立てしてもらって最後に少し参加しただけよ」

 現王妃も厳しい。


 「国王、宰相はいつシン様が帰って来てもいいように、帰ってこられるように、しっかり国を運営する。これに尽きる」

 先の王妃様に言われてぐうの音も出ない国王と宰相。正論すぎる正論である。


 確かに今まで国の運営が甘かったところもある。孤児院がその一例だ。必要だけど放置した。シン様が見かねて筋道をつけてくれた。本来こちらがやるべきことであった。

 そうか、そういうことか。やっと理解した国王、宰相と先の国王である。


 「他に線指輪をもらった人はいるのかしら」

 ふと気になった先の王妃。

 「スパエチゼンヤのオリメ商会に来ていたオリメさんの両親が朝早く線指輪をいただいたがどうしましょうかとやって来ましたよ。オリメさんから生地の仕入もあるだろうしもらっておけばと言っといたわ」

 エリザベスさんが答える。


 「うちの家内とーー」

 宰相が言い淀む。

 エリザベスさんがニヤニヤしている。

 何事も察しの良い先の王妃。

 「花街の女将さんね」

 「はい。もしかしたらと朝早く家を出て寄って見ました」

 先の王妃は中々の情報通である。

 「シン様は人がどういうものかよくわかってらっしゃるわね。だから尚更いつまでもいられないのかも知れないわね」


 エチゼンヤさんが続ける。

 「あの様な人に寄り添い心配してくれる神様は今まで聞いたことがない。神話の世界にもない。勿論神聖教など論外だが」


 国王が閃いた。

 「シン様教を国教にしよう」

 先の国王を除いた全員のシラーーとした視線が突き刺さる。


 「あなた馬鹿なの。指輪を外してシン様に返したら。シン様はそんなことは望んでいない」

 言い出さなくてよかった。ここは黙っていようと先の国王。

 「だってお前ーーー」

 無視された。会議は終了した。


 スパエチゼンヤの広場。銭湯に来た人が集まってくる。巨木をみて神様が去ったことを理解した。


 すぐ誰かが巨木に切った紙を垂らした縄を張った。いにしえよりの習慣らしい。人々はひざまずいて神様に感謝した。以降巨木に感謝を捧げ銭湯を利用することが慣習となった。のみならず何かあったら巨木の元に来て祈る人が絶えなかった。


 今日も巨木は亭亭として空を指している。



 第一部 完

 ふと思いついて自分が読みたい物語を事前の構想も設定も何もなく書き始めたのですが、こんなに続くとは思いませんでした。

 運営のみなさん、読者の皆さん、私が自分自身のために書いているのに掲載させていただき、読んでいただき感謝しています。

 第二部は場所を変えて話が進む予定です。相変わらずプロットも何もありません。第一部の皆さんも顔を出します。

 では引き続きよろしくお願いいたします。

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