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170/499

170 あまりにもな作戦が発動し、帝国軍5千の兵は潰走する

 血に飢えた狼のように帝国軍職業軍人と傭兵混成部隊5千が行く。行く先々の村で食料を調達しようとしても誰も居ない。食べられるものはなにもない。

 魔物がいれば襲いかかり、草を煮て食べ、リュディア王国、アングレア王国、スパーニア王国を蹂躙する夢を見て、ひたすら前進する。


 やがて神聖教国と小国群の国境が見えてきた。

 狼煙が上がる。こちらを認めたのだろう。たしか小さい国というか村落というかそんなものがある地帯だ。食料を奪い踏み潰すのみ。

 狼煙を上げただろう監視所らしきものには誰も居なかった。


 前進する。村が見える。略奪、暴行だと勇んで行くが、誰も居ない。食料もない。怒りに任せてすべて燃やす。リュディア王国を目指す。

 通り道の村落に人が居ない。食料もない。放火する。


 やがて国境が見えてきた。国境を超えリュディア王国に入る。五千の兵が国境を通過し終わった時、子供と大人の女性、犬と狼とミニドラゴンとが出て来た。巨木の旗がはためいている。その後ろに兵が展開している。5千は居そうもない。せいぜい三千というところか。戦いをしたこともないだろう兵だ。楽勝だ。


 勢いを頼りに突っ込んでいく。

 子供が何か言った。アマリニモナ作戦発動と聞こえた。

 ワオーンと遠吠えが聞こえた。キュ、キュと声が聞こえた。


 剣が消えた。服が消えた。五千の兵が真っ裸になった。


 将軍にしては優男が、押し返せーーと号令をかけた。

 兵は裸軍の三方を囲み、一斉に剣を抜き裸軍に襲いかかる。


 急には方向転換できない。後ろからは事態がわからず押してくる。先頭にいた何百人は素手で剣に挑んだが、すべて叩き切られた。やっと全員が引き返さなければ死ぬということがわかって、我先にと逃げ戻っていく。リュディア王国の国境を越えた。リュディアの兵は追撃してこない。


 助かったと思ったら、森の中から石飛礫やひょろひょろと矢が飛んでくる。ひょろひょろの矢でも裸では当たれば刺さる。石飛礫でも当たれば皮膚が切れ血が流れる。石飛礫と矢が飛んでこない方に必死になって逃げる。


 気づくと小国群と神聖教国の国境を超えていた。小国群方面を振り返ると石飛礫が飛んでくる。神聖教国の燃える教都方面に来た道を戻るより他はない。

 森の中の街道をひたすら走る。足は裸足だ。血が滲む。日があるうちに森を通過しなければならない。夜の森の中では魔物に襲われる可能性が大変高い。


 夜になった。まだ森の中の街道を走っている。幸い月が出ていていくらかは足元が見える。早く森を出なくてはならない。眠いのを我慢して前進する。後ろの方で悲鳴が聞こえる。魔物に後ろから襲われたのだろう。

 前に何か立っている。魔物だ。襲われた。四方八方から襲われた。咀嚼する音があちこちから聞こえる。耳を塞ぎ前進する。やがて魔物の気配がなくなった。


 「満腹したんだろう」

 誰かがつぶやく。今のうちだ。必死になって走る。やっと森を出た。二千も残っていない。


 しばらく行くと大きな川が流れていた。夜であったが、喉が渇いていたし色々汚れているので一斉に川に入り水を飲んで体を洗った。グッと水の中に引き込まれる。

 「魔物だ。逃げ 」

 誰かが叫んだが、その声も途中で途切れた。川が一斉に波立つ。あちこちで兵が川の中に引き込まれていく。川が真っ赤に染まる。


 助かったのはこれから川に入ろうとしていた兵だけだ。約五百。

 恐る恐る川にかかった橋を渡る。

 無事に渡れた。喉が渇いているが川は真っ赤に染まっている。

 裸足の足を引き摺りながら前に進む。やっと夜が明けて来た。


 小さな川があった。川に石を投げ入れたり、落ちていた棒で突いたりして魔物がいるか確認する。いないようだ。

 ほっとして手を洗い水をすくって飲んだ。


 もう一度飲もうと朝日に照らされた水面を見ると老人が映っている。繁々見ると相手も繁々見る。顔に手をやると水面の老人も顔に手をやる。

 思わず水面を叩いた。隣の男がこちらを見る。裸の痩せ衰えた老人がいた。

 「うわー」


 男は街道を外れて草原に入って行った。呼んでも戻って来ない。裸で一人彷徨えば遅くとも今夜には命を失うことがわかってはいるが、誰も追いかける気力も体力もない。そして水を飲んだことで一息ついて、自分たちが老人になってしまったことに気がついた。


 半分以上が男が入って行った草原へよろよろと歩いていく。残りの半分は、歩く気力をなくして座り込んだまま。100人ほどが街道に戻り歩いていく。一人二人と街道から外れていった。夕方までには50人ほどになってしまった。

 その日のうちにすべての兵が魔物に襲われたり生きる気力がなくなったりして全滅した。


 こうして帝国の野望は完全に潰えた。

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