169 帝国軍5千の兵は飢えた狼となり、神聖教国教都を蹂躙し、行く手の小国群は狼狽える
帝国軍5千の兵は教都近くまで侵攻した。
飢えた狼はもはや将軍の命も聞かない。
飢えた狼の取る行動は一つ、獲物の周りを囲んで、一斉に襲いかかる。
夜陰に乗じて教都の周りを囲む。包囲が終わったら一斉に襲いかかる。全ての門が破られ兵がなだれ込む。
そのときやっと教都に残っていた人々は人心を惑わす噂話と退けた、帝国の襲来が現実となったことを知る。為すすべもなく、蹂躙された。暴行、略奪が行われ、帝国軍は奪うものがなくなると知るや、火を放った。
将軍がよびかける。
「もうやめろ、これではただの集団強盗、集団暴行魔にすぎない。大義名分も何もない」
「うるせえ爺だ。もともと大義名分などなかったではないか。兵糧もなくいばるんじゃねえ。やっちまえ」
傭兵を中心に将軍と側近はなぶり殺しにされた。
帝国軍は教都の業火を背にリュディア王国方面に進軍を開始した。
リュディア、アングレア、スパーニアと神聖教国の間の小国群は、遠くの空が真っ赤に染まるのを見て、帝国軍が神聖教国を蹂躙した事実を知る。
急ぎ小国群で会議を持ち、リュディア、アングレア、スパーニアに救援を求めることにして小国群で特使をたて、まずは帝国軍が最も進軍する可能性が高いリュディア王国に向かわせた。
リュディア王国
宰相執務室
「宰相、小国群の特使と言う者が面会を求めています」
「来たか。やむを得ないな。通せ」
「これは、宰相殿。少国群特使 ニコラウスと申します」
「特使殿、御用の向きは何でしょうか」
「ご存知かと思いますが、現在、バルディア帝国軍が、神聖教国の教都を殲滅、リュディア王国に向かっております。我ら小国群はリュディア王国が小国群と神聖教国との国境まで出兵することを許容します」
「特使殿、物には順があります。帝国軍はまず貴小国群に侵攻し、征服または殲滅した後に我が国に攻め入ってくると思われます。我々は我が国境を固めることはいたしますが、貴小国群に『許容』されてまで、神聖教国と貴小国群との国境まで出兵するつもりは全くありません。どうぞ国にお帰りください。そして国境を死守することこそが貴小国群の取るべき道と存じます」
「特使殿がお帰りだ。王都の城門までご案内して差し上げろ」
「こちらでございます」
特使は秘書二人に両腕をとられて城門から放り出された。
特使は国に帰り復命した。
「馬鹿者、立場がわかっているのか。これで我が国は帝国軍に蹂躙される運命となった」
「ですがリュディア王国など、我が国より少し国土が広いだけの国ではないでしょうか」
「お前、小国群が世界だと思っているのか。少しどころではない。小国群がまとまったより広い。リュディア王国と戦争して勝てると思うか。それに向こうはアングレア、スパーニアと同盟を結んでいるんだぞ。濃い縁戚関係の強い絆だ。国民同士の行き来もある。三国とわれら小国群では話にはならない。あっという間に蹂躙される」
「ですが我が国は今まで神聖教国にも三国にも侵略されていません」
「何も得るものがなければ侵略するバカはいない。彼我の戦力が分からぬプライドだけの官僚は国を滅ぼす。お前のことだ」
「でもーー」
「それに宰相の友達の巨大ドラゴンが2頭空を飛んでいるんだぞ。伝説から抜け出してきたような巨大ドラゴンだ。勝てるか」
「それはーー」
「謹慎、いや、入牢を命ず。小国群の会議は荒れるぞ。荒れたら他の国の手前お前は公開処刑だ」
「直ちに小国群会議を開く。招集してくれ」
官吏に命じた。
自分たちの命がかかっているのである。小国群会議はすぐ開催された。
会議は、特使の復命内容の報告から始まった。
予想通り会議は荒れに荒れた。特使の上から目線の馬鹿な物言いのせいでリュディア王国からの救援は無くなった。特使を出した国は責められる。三国から救援が来なければ小国群は帝国軍に蹂躙されるのは火を見るより明らかだからである。
小国群はその名の通り、田舎の地方都市が国と称して集まっているようなものであり、軍隊らしきものは無い。犯罪取り締まりの衛兵と門番くらいなので戦えない。軍隊と名のつくものが攻め込んでくれば必敗である。
いたたまれなくなった特使の所属国からは特使の公開処刑をすると申し出があり、会議の合間に直ちに執行された。
公開処刑を経て、会議の結論がまとまった。
まずは無礼を詫びる。これは特使を公開処刑したことを裏付けとする。
次にできれば救援をお願いする。同盟国でもないし、人的関係もなし、大変難しいのは誰にもわかる。最悪、国が滅びた後の難民の受け入れはお願いしようとの結論になった。
今度は特使ではなく、小国群の代表としていくことになり、急遽代表選出が行われた。平原を通って侵略して来た場合、真っ先に踏み潰される国の宰相が代表に選出された。必死になるだろうとの読みである。
宰相と言っても田舎町の町長、良くて市長のようなものである。今まで小国群がまとまって国にならなかったのは、この人たちが権力がなくなるのを嫌ったためであった。それを許したのは、なんの魅力もない土地柄で侵略されなかったからである。それが今になって裏目に出た。殲滅される危機を前に、やっとまとまってとにかく代表がリュディア王国に向かった。
リュディア王国
宰相執務室
「宰相、小国群の代表と言う者が面会を求めています」
「小国群は、偉い人ばかりで、代表を選出するなどまとまるはずはないが。まあいい。通せ」
「これは宰相殿、小国群代表のカルロと申します」
「小国群に代表ができたとは聞いていないが」
「それが、今般の帝国軍の侵攻を前にして、まとまらなければどうにもならないとわかり、この度、代表に選出されました」
「そうですか。それはおめでとうございます」
「この前特使が大変失礼な物言いをしたと聞き及び、まずはお詫び申し上げます。当該特使は、公開処刑をしました」
「そうですか」
「それで、帝国軍が侵攻して来た場合、」
「それはこの前お話した通りです。貴小国群と我が国はなんの付き合いもありません。つきあいといえば貴小国群を通り抜ける商人が、高額の通行税なるものを出入国のたびにお支払いしているだけですな。今度貴小国群の方達が我が国に入国する場合は、それ相応の入国税なるものを課して、通行税を少し取り戻そうかと考えているところです。私も忙しいので、お帰りはあちらです」
とりつく島もない。これはダメだ。難民だけでもお願いしておこうと代表。
「我ら小国群が蹂躙された場合、難民が生まれると思いますが、その場合受け入れて欲しいのですが」
「難民?難民が生まれればいいですが、殲滅ではないでしょうか。ま、われらの信仰する神は大変優しいので、人道的対応はしますが」
「ーーーよろしくお願いいたします。一つお聞きしたいのですが、信仰する神とは、神聖教の神ではないのでしょうか?」
「シン様教です。ドラゴン教の方もいますが」
「?????」
平伏せんばかりの勢いでお辞儀をして小国群代表は去っていった。神様教、ドラゴン教、わからぬと呟きながら。
宰相は
「しまった。シン様教の信者と誤解される発言をしてしまった」
と呟いたとか。
こちら小国群会議。
戻って来た代表の報告を聞く。
救援はないことが確定されてしまった。
帝国軍が攻めて来た対応を検討するが、国境に監視員をおき、帝国軍が見えたら狼煙をあげ、狼煙を確認したら、持てるものは全て持って山中に隠れることしかないことが共通認識となった。監視所は小国群から人を出して共同で運営することになった。また小国群代表は当面今の代表が務めることになった。滅亡の危機にやっとまとまったのである。
最後に、戻って来た代表が、リュディア王国は、神様教とドラゴン教を信仰しているらしいと発言した。
ドラゴンは噂を聞くので、ドラゴン教はあるかも知れないが、神様教とはなんだかわからない。神様を信仰しなければ宗教は成り立たないので、神様教とはなんだか皆目見当がつかない。一同はそう思いながら散会した。これで最後かも知れないと胸に秘めながら。