168 バルディア帝国皇帝 皇太子率いる反乱軍に屈す
バルディア帝国
皇太子の居間
ドラゴンが窓辺に来た。すぐ侍従が窓を開ける。
ドラゴンが手紙を運んできた。
すぐ秘書嬢がセンベーとお茶を用意する。
侍従が手紙を受け取り皇太子に差し出す。
「徴兵部隊を中心に約一万が撤収中、将軍、職業軍人、傭兵は教都目指し進軍中だそうだ」
センベーを食べ終わり、お茶のおかわりをしたドラゴンに返事を託した。ドラゴンは窓から帰っていった。
「千載一遇のチャンスだな。皇帝と海岸道の連絡封鎖は続けろ。10人ほど兵を連れて海岸道入り口に行く。一気に片付ける」
皇太子が海岸道の入り口につき、しばらくすると兵が海岸道を通って帰って来た。
皇太子旗がはためく。
「隊長は来てくれ。皇太子殿下から話がある」
隊長が集まる。
「諸君、皇帝が集落の食糧を根こそぎ徴発した。何人か餓死者が出た。その時、ドラゴン様より食料の供給があった。ドラゴン救援物資だ。直ちに集落に配布。それ以降餓死者は出ていない。また兵站部隊全員が兵糧の三分の二を持って故郷に帰っていった。すでに故郷の食糧は当面足りている。またドラゴン様より、救荒作物の種芋を譲っていただいた。すでに播いているだろう。暫くすれば食料の不安はまったくなくなる」
完全に理解できるまで一息おいた。
「諸君、このような事態を引き起こした皇帝を倒さなければまた同じことが起こる。今、皇帝のそばには直轄部隊しかいない。我に諸君らの力を貸してほしい。皇帝の宮殿に進軍したい。協力してくれるか」
「もちろん、皇太子殿下に従う」
「それでは隊に帰って兵に伝えてくれ。兵糧で十分食事をしてもらい、進軍する」
「承知」
かくして皇太子が1万の兵を率いて皇帝の宮殿目指し進軍した。
「陛下。皇太子殿下が1万の兵を率いて進軍して来ます」
「そうか」
「いかがいたしましょうか」
「一戦交えなければ収まるまい」
「皇后様はいかがしましょうか」
「放っておけ。お前がこの間言っていたな。調べたが真実だった。こうなるのも必然かも知れぬ。タリウスよ、いままで楽しかったぞ。皇太子に投降したいものは投降させよ。構わぬ」
タリウス宰相は一抹の不安を残し、執務室を出ていった。
タリウスが直轄部隊に皇太子殿下に投降したいものは投降せよ。戦うものは残れと叫んだ。
パラパラと兵が去っていく。やがて潮が引くように兵が去っていった。残った者は隊長ら十数名のみ。
「陛下の元に行こう」
陛下の執務室に急ぐ。
陛下は自害していた。
皇太子宛とタリウス宛の遺書があった。
皇太子殿下の軍が雪崩れ込んでくる。
「タリウス」
皇太子が呼びかける。
「皇帝陛下は自害されました」
「そうか。皇后はどこだ」
「こちらからは何も指示していません。皇后宮だと思います」
「皇后宮に向かえ。殺すな。捕縛しろ」
タリウスが殿下に呼びかける。
「殿下、皇帝陛下から殿下宛の遺書がありました」
「そうか」
皇太子は受け取って読んだ。
デキウスよ
これを読んでいる頃は余の命は失われているだろう。
余は最近タリウスがもたらした情報により、初めて皇后がおまえの母にした仕打ちを知った。
手のものに調べさせたが、皇后がお前の母、わが妻を毒殺したことが判明した。今更遅いが、すまぬ。
証拠書類は、お前と母と余がここで遊んだ頃、お前が宝物を隠した場所に埋めておいた。
タリウスとランベルトは余の命令でしか仕事をせぬ。二人が成したことは全て余の命によるものである。
寛大な処分をお願いする。
もっと早く気がついていれば、他の道もあったと思うが、重ねてすまぬことをした。
○年○月○日
父
皇太子は宮殿の庭に出て、大きな岩の後ろにまわり、ついて来た兵に一点を指し、掘らせた。
すぐ箱が出て来た。箱の中からは油紙で何重にも包んだ書類が出て来た。
皇后から薬師に毒薬を持ってくるようにと書かれた手紙も出て来た。薬師の日記も出て来た。薬師の遺族が隠し持っていたと付箋がついていた。
その他、皇后とその一派を裁くのに十分な書類が揃っていた。
「父上」
皇太子の頬を涙が伝った。
間も無く、皇后が捕縛され、証拠書類により、皇后一派はすべて捕縛された。
「牢に入れておけ。裁判にかける。自害はさせるな」
皇太子はバルコニーに出て集まった兵に告げた。
「皆のもの、ご苦労であった。皇帝は自害した。皇后一派は全て捕縛した。先の皇后の毒殺について、正式に裁判にかける。兵糧を分け各自故郷に戻って良い。里に帰って家族と暮らしてほしい。二度とこのような徴兵、食糧の根こそぎの収奪は行わないことを約束する」
皇太子殿下万歳!皇太子殿下万歳!
兵の歓呼の声が響き渡る。