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167 12人と元神聖教大幹部6人の訓練 (3)

 朝を迎える。ツアコンさんのパラソルが見える。ベントウとお茶だ。

 「お疲れ様です。快調のようですね。おかしいな。魔物は走って死んだのだけど」

 最後は小さな声であったが、聞こえてしまった。ベントウとお茶は大丈夫だろうか。

 「またまた、そんな、体に悪いことするするわけ無いじゃないですか。さ、どうぞ。それとも自炊にしますか」

 「いや、頂きます」


 自炊も大変なので覚悟を決めて食べる。お茶を飲む。そういえばツアコンさんは同じものを食べない。少し離れたところでテーブルを出して、ブランコ、ドラちゃん、ドラニちゃんと何か食べている。こっちとは違うぞ。怪しい。ワンワン印を盛られたに違いない。ベントウの料理に使ったか、それともストレートにお茶か。胃が熱くなってきた。


 「じゃ、始めましょうか。今度は川、沼、池、湿地帯が続きます。上を走ると楽ですよ。それじゃあなた、ドラちゃん、ドラニちゃんお願いね」

 ウオンとブランコが走り出す。

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 なぜか走り出すと体が快調になる。無性に走り続けたくなる。


 川だ、ブランコ様が水の上を走る。水の上を、走れない。ブクブク。必死に犬かき。水をしこたま飲んだ。ゲホゲホやっているとレーザーが打ち込まれる。また犬かき。ようやく川を渡りきった。

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 しばらく快調に走っていると足元の感覚が柔らかくなってきた。ズブズブと足が沈む。湿地帯だ。ブランコ様は湿地の上を走っていく。右足を上げて、地面に付く前に左足を上げればいいのか。そんな事はない。やっぱりズブズブ沈む。沈む深さは膝くらいになってきた。さらに沈む。腰の深さになってしまった。もはや歩けぬ。前に倒れて手で泥を掻いて前に進む。後ろからレーザーが打ち込まれる。遅いということだろう。必死に手足を動かす。蛙泳ぎもどきと言うべきか。


 やっとだんだん地面が固くなってきた。立ち上がれる。泥だらけだ。うまい具合に目の前に水面がある。突っ込んでいく。しまった。足が取られる。沼だった。蛙泳ぎもどきを試してみたが水中に沈んでしまう。犬かきするには浅い。歩いて手で水を掻いて進むよりなさそうだ。時々倒れて水を飲んでしまう。沼の水は不味い。なんとか沼は越えられた。


 今度はなんだ。川だ。浅い。じゃぶじゃぶと進める。後ろからレーザーだ。だめらしい。そんなことを言っても水の上は走れない。一瞬水の上を走れた気がしたが深みにハマってもがく。まあ、川の水で泥は落ちたから良しとするか。岸が少し高くなっている。岸に取りついて登る。レーザーが尻をかすめる。

 湿地帯を抜けたみたいだ。地面が硬い。ホッとする。


 向こうにパラソルが見える。昼飯だ。急ぐ18人。パラソルに近づくと急に足元が沈む。表面は乾いていて硬い地面に見えたが、沈んだ。罠か。ほうほうの体でパラソルのもとに到着。

 「あら、また泥だらけね。罠ではありませんよ。転移してきたからわかりません。きょうはパンに肉を挟んだものです。美味しそうでしょう。手が泥だらけですね。水で洗って差し上げましょう」

 上から水が大量に降ってきた。確かにきれいになったが全身ずぶ濡れである。泥が落ちたからありがたいと思うことにした。


 「午後は、水上走行訓練です。この先に大きな川が流れていますからその上を下流に向かって走りましょう。半日走ったら、夕食。今日はぐっすりですよ」

 ぐっすりは信じられないが夜のイベントはないのだろう。ホッとする。


 肉は少し硬いがなかなかの味だ。なんの肉かはわからない。またツアコンさんとブランコ様とドラちゃん、ドラニちゃんは別料理だ。美味しそうだ。まあ、こちらも美味しいからいいか。


 「それでは午後の部を始めます」

 ブランコが走り出す。眼の前は川だ。この上を走れということだがそう上手くはいかないだろう。


 「聞こえますかーー?言うのを忘れていましたが、この川には大きな魔物が水中にうようよいます。水上を走ったほうがいいですよ。引きずり込まれないようにお願いします。さっきの肉はその魔物の肉です。おいしかったでしょう。食べられる番になってはだめですよーー」


 聞いてないよ。やっぱりツアコンさんは危ない。この川も大変危ない。後ろからレーザーが打ち込まれる。行けばいいんでしょ。行けば。

 「気合いを入れて、走ってみるより他はないか。行くぞ」

 「おー」


 走り出した。数歩は水の上を走れた気がする。よし。バッシャン。沈んだ。水中で目を開くと、うじゃうじゃいる。魔物が。魚型、牛型、蛇型、トカゲ型、カニ型、色々いる。一斉に襲いかかってくる。

 剣は水の抵抗を受けてゆっくりとしか動かない。振れない。刺す。刺す。相手も頭から前に向かって生えている角で突いてくる。避ける。水の中での剣戟はこちらに圧倒的に不利だ。相手は高速に自由に動ける。


 一か八かとろそうな牛型魔物の頭を蹴る。水の上に出た。走る。10歩走れた。水に沈む。繰り返してだんだん走れる歩数が増える。水の中でもだんだん剣が振れるようになって来た。

 夕方までには気を抜くと沈むが、ほぼ水の上を走れるようになった。


 一段高くなった河岸に巨木のパラソルが見える。

 「よく頑張りましたね。半日で水の上を走れるとは思いませんでした。必要は技能の母ですね。方法は間違っていなかったことが証明されました。私も嬉しいです。ご褒美です。ベントウです。今回は先ほどの水中牛型魔物の肉です。極上品です。美味しいですよ」


 ベントウとお茶を受け取り、食べ始める。ツアコンさんは少し離れたところにテーブルをはなえ、ブランコと、ドラちゃん、ドラニちゃんと夕食を食べている。豪華フルコースのようだ。何とか言いたいところだが、水中行進などを思いつかれては敵わないので黙ってベントウを食べる。言うだけあって、大変美味しい肉だ。収納にもたくさんある。食べる時はちゃんと血抜きをして食べよう。

 食事は終わった。


 「さて、みなさん。今日はここで野宿です。明朝迎えに来ます。ではまた明日」

 「おっと言うのを忘れていましたが、水中の魔物は魚型を除いては大抵陸に上がって来ます。水中の仇をとるいい機会ですよ」

 ツアコンさん御一行が消えた。


 「要するに、夜中も水中の魔物が襲ってくると言うことだな」

 「ここは高いから大丈夫だろう」

 「ツアコンさんが選んだ地だ。そう簡単なはずはないだろう」

 バシッと川から音がした。

 ドン。魔物が着地した。

 バシッ、ドン。バシッ、ドン。バシッ、ドン。バシッ、ドン。バシッ、ドン。


 「おい、水面を叩いて飛び上がってくるぞ」

 「陸地からは陸の魔物が大量にやってくるぞ」

 「ここは、陸と水中の魔物の交戦地帯か」

 「さすがツアコンさんだ。不動産屋になったら訳あり物件を売りまくりそうだ」


 「くるぞ。水陸魔物の交戦に強制参加らしい」

 「こう多くては誰も寝られないな」

 「しょうがない。やるか。水中より楽だろう」

 朝方まで、剣を振い続けた。ようやっと魔物が引き始めた。魔物の血で辺りは生臭い。自分たちも返り血で上から下まで真っ赤だ。


 「みなさんおはようございます。真っ赤ですね。臭いですね。女性に嫌われますよ。やですねえ。川で洗って来てください」

 気がつけば川の中程に落とされた。水中は、あれ、魔物がいない。朝はいないのか。わからないが、岸を目指して泳ぐ。気がつけば泳げるようになっていた。知らなかった。


 岸に上がってみると辺り一帯の臭いがなくなっている。焼き払われたようだ。岩はぐずぐずになっていて触ると崩れる。確かに綺麗になったと言えば綺麗になったが、一木一草も残っていない。そうか、これは滅びの草原のミニ版か。恐ろしい。水中で良かった。


 「だいぶ綺麗になりましたね。今日はドラちゃんとドラニちゃんが乗せてくれます。もうちょっと綺麗にしましょう。シャワー棟をシン様から預かって来ましたので、シャワーを浴びてください。中に洗濯機もありますので服も綺麗にしてくださいね」

 シャワーを浴びる。水だけでは落ちなかった臭い、汚れがすっかり落ちる。服もまっさらみたいに綺麗になった。


 「今日はドラちゃんに乗ってもらって、リュディア王国まで行きます。楽ですね。みなさんの努力の賜物です。教え甲斐がありました」

 何も教わっていないぞ。ただ魔物や水の中にぶち込まれただけだと思うが、焼き払われると骨も残りそうもない。怖いので黙っている。


 「朝食です。ベントウです。ゆっくり食べてくださいね。また来ます」

 ツアコンさんが、シャワー棟と共に消えて行く。

 「おい、恐ろしいな。これは、滅びの草原の再現だな」

 「ああ、ツアコンさんが本気になったら簡単に神聖教国も滅びの草原だな」

 「やばいな。逆らうのはやめておこう」

 「ああ、ゆっくり食べてと言っていたが、裏があるといけない。早くベントウを食べてしまおう」

 急いで食べて、お茶を飲む。


 ツアコンさんと、ドラちゃん、ドラニちゃんがやって来た。

 「あれ、早かったですね。気合いが入っていますね。それでは早速行きましょう」

 ドラちゃんが巨大になった。

 「乗ってください」

 ツアコンさんとドラニちゃんが乗った。後に続く。

 ふわっと上昇。スピードが増す。


 「はい、リュディア王国に入りました。みなさんの頑張りのご褒美を差し上げましょう。ドラちゃんクルクルです」

 それは罰ゲームだったような気がすると思ったが黙っている。

 ドラちゃんがくるっと回った。

 地上が見える。落ちた。叩きつけられる。


 ドラちゃんが降りてくる。

 「はい、乗ってください」

 黙って乗る。

 浮きあがる。ドラちゃんクルクル。地上に叩きつけられる。

 繰り返しだ。だんだん、うまく着地できるようになる。四つん這いから二本足で着地できるようになった。


 「よくがんばりました。はい乗ってください」

 高度がだいぶ上がる。ドラちゃんクルクル。

 地上に叩きつけられる。


 繰り返し。そのうちにふわっと着地できるようになった。

 「優秀な教え子ですねえ。教師冥利につきますね。それではスパエチゼンヤに戻りましょう」


 あっという間にスパエチゼンヤの管理施設前についた。一応開放された。

 6人はドラちゃんとドラニちゃんが訓練前にいた地点まで送って行った。

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