165 12人と元神聖教大幹部6人の訓練 (1)
集落がなくなり避難の声がけが終わった。ゆっくり走る。
ツアコンのパラソルが見える。ブランコ様とドラちゃん、ドラニちゃんが見える。他に6人見える。
「皆さんご苦労様です。美味しい水をどうぞ。こちらにいる6人は、ご存じと思いますが最初にわれわれのところに来てくれた方々です。訓練はせずにドラちゃんとドラニちゃんからの使命を帯びて旅立たれましたので、今回お呼びし、みなさんと一緒に訓練を受けていただくことにしました」
ご存じも何も元神聖教大幹部だ。12人は思わず6人に向かって声をかけた。
「よろしくお願いいたします」
「おう、頑張っているみたいだな。一緒に訓練を受けよう」
ツアコンさんが続ける。
「察しの良い方はわかるでしょうけど、あれ、12人全員察しが良いようですね。12人の皆さんには、スパエチゼンヤから滅びの草原を野宿を挟んで二日間かけ、神国まで行って、神国で数日かけて様々な訓練をしていただく予定だったのですが、忙しくて手が回りませんでした。訓練できずお詫び申し上げます。かわりにといってはなんですが、30人とハビエルさんの練度に追いつくために、ここから国境まで一直線に駆けてもらいます。三列、一列6人で縦横を乱さず国境まで駆け足です。岩場があっても川があっても縦横を乱したらダメですよ。ドラちゃん、ドラニちゃんのレーザーでお仕置きですよ。では先導はブランコです。水の上は走ると楽ですよ。それでは2時間一セットです。掛け声は、いち、にい、さん、しい、そーれ、ですよ。忘れていませんね。ではヨーイ ドン」
30人がツアコンさんを忌避する訳だ。後ろからドラちゃんとドラニちゃんの圧がかかる。
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
「いち、にい、さん、しい、そーれ」
街道を外れると岩だらけの丘陵に出る。これを隊列を乱さずなんて無理だろう。
「おいちょっとそっちへ行け。岩を避けよう」
ドラちゃんだかドラニちゃんだかの教育的指導が入る。避けようとした方向にレーザーが打ち込まれる。
避けてはだめらしい。しょうがない。岩を登る。縦横を乱さないためには岩に当たった列がかなり頑張らないと遅れて乱れてしまう。尻を掠めてレーザーがうちこまれる。尻に火がつきそうだ。必死に岩に登る。それの繰り返し。満遍なく岩が列に当たる。不公平はなさそうだ。遠くに巨木のパラソルが見える。とりあえずあそこまで行けば休める。
たどり着いた。水をガブガブ飲んだ。
「はい、みなさんお疲れ様。岩に苦戦しているようですね。ご心配なく。今日は岩だらけです。頑張りましょう」
心配している方向性が違うのだが、大岩を用意されたのではかなわないから黙っている。
「はい、休憩終了です。ではブランコの先導で行ってらっしゃい」
何セットやっただろうか。もう日が中天だ。
巨木のパラソルを目指す。
「はい、みなさん。午前中はおしまいです。言うのを忘れていましたが、昼食は皆さんで作ってください。では、一時間の休憩です。また来ます」
「あ、忘れていました。皆さんはまだ収納に魔物は入っていませんでしたね。一頭差し上げます。ここは魔物も獣もいますから、お気をつけて」
言いたいことを言って消えて行った。眼の前に魔物が一頭どんと置かれている。牛型だが小部屋ほどもある。
「俺は、料理はしたこと無いぞ」
「俺もない」
「とりあえず肉を切り取って焼いてみるか」
「焼くと言ってもかまどはないぞ」
「木を拾ってきて細い棒にさして串焼きだろうな」
「じゃ6人は木を拾って、残りは肉を切り取ろう」
6人は木を拾いに行った。
「あれ、肉を切り取るにも刃物がないぞ」
「収納にナイフが入っているぞ」
さすが先輩である。
収納には、ショートソードとナイフ、竹水筒が入っていた。
「本当だ。じゃナイフで切りとろう」
「どこがいいのか」
「肩でどうだ」
肩に取りついて切り始める。
かなり大きなブロックを切り取った。
ちょうど木を拾いに行った6人が帰ってきた。
「おい、木を拾いながら考えたのだが、どうやって火をおこすのだ」
そこにツアコンさんがやってきた。
「ごめん、ごめん。火ね」
木を2本もって何回かこすると火が付いた。
「じゃあね。簡単でしょう。次からはやってみて」
ツアコンさんが消える。そんなに簡単な訳はないと思うがとにかく食事にしないと午後腹がへって倒れてしまう。
細い棒の先をナイフで尖らせ、肉を差して焼き始める。肉の焼けるにおいがあたりに漂う。
ガサッと音がした。魔物に取り囲まれた。
慌ててショートソードを取り出す。
一斉に魔物が飛びかかる。標的はツアコンさんの出した魔物だ。
急いで串焼きを持って離れる。
「おい、こちらに目標を移す前に串焼きを食べてしまおう」
みんなでかぶりつく。
まずい。こんなまずい肉は初めてだ。
しかし食べないと午後が持たぬ。まずい。
魔物たちは満腹したようで去って行く。
ツアコンさんがやって来た。
「あれ、随分食べましたね。美味しかったでしょう」
「不味かった」
正直に言わないとまたまずい魔物を出される。
「おかしいわね。極上品なんだけど。この間言ったわよね。血抜きはしたんでしょう?」
「聞いてないです」
「ああ、30人の方だった。血抜きはしなきゃダメよ」
「ーーーーーー」
「それにしても随分食べたわね」
「魔物に食べられた」
「獲物は守らなければダメよ」
「剣の使い方を知らない」
「そうか。それじゃそれが先ね。この辺を囲ってと。待っててね」
「おいこれは広いが檻だ」
「ショートソードを抜いといた方が良さそうだ」
目の前の空間が揺れる。ツアコンさんが現れた。多数の魔物と共に。
「特別トレーニングコーチですよ。しかも倒せば収納して食糧になる。最初は腰ダメが良いわ。初級編だから簡単でしょう。じゃあね。夜も頑張ってね。私親切だから、食事はオニギリというものを収納に入れておいたわ。片手で食べられるし、便利よね。水の入った竹水筒も入っているわね」
ツアコンさんが消えると同時に魔物が襲って来た。夢中で剣を振る。当たらない。ダメ元で腰だめで魔物に突進する。当たった。殴られ、のしかかられる。仲間が腰ダメでぶつかる。倒して収納した。
いくらなんでも腰だめだけでは身がもたぬ。必死になって剣を振る。いくらか当たるようになって来た。どのくらい時間がたったろうか。日が沈み始めている。魔物の最後の一頭を倒した。急に喉の渇きを覚える。必死で魔物と戦っていたからか喉の渇きに気が付かなかった。
一斉に水を飲み出した。美味しい。
「早いとこオニギリとやらを食べてしまおう」
「また魔物を連れて来られてはかなわないからな」
急いでオニギリを食べる。中々美味しい。水もたっぷり飲む。
「これで寝ればいいのかな」
「まさか、ツアコンさんの性格では魔物を連れて出てくるのじゃないか」
「呼んだ?みなさん元気そうですね。ご同慶の至りです。ではご要望通り魔物を用意しました。今回は夜行性の魔物です。暗闇だから気配で戦ってみて下さい。同士討ちをしてはいけませんので、親切にもみなさんの頭の上が光るようにしておきます。魔物からは見えない光ですよ。魔物も照らせませんよ。それでは朝までごきげんよう」
魔物が押し寄せてくる気配がする。
「おい、くるぞ。散れ」
隣の頭の光から十分距離を取ってショートソードを振る。当たらない。かすりもしない。体当たりを食らった。飛ばされるがすぐ跳ね起きて、向かって来る魔物に剣を振るう。当たった。夢中で剣を振る。死んだらしい。収納できた。
何回も繰り返すうちに気配と音でなんとなくではあるが魔物の動きがわかるようになった。と思ったら後ろから体当たりを食らった。噛みつかれる。ナイフに持ち替えて、頭を思いっきり刺す。魔物がうめき声を上げて離れた。すかさず飛びかかり首筋があると思われるあたりを殴りつけるようにナイフで刺す。動かなくなった。収納。
漆黒の闇がだんだん薄れて来た。朝が近い。ぼんやりとだが魔物が見えるようになってきた。チャンスとばかり18人が魔物に襲いかかる。朝日が登る頃には魔物は全滅した。