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162/499

162 戦闘部隊に食糧が届かず、兵は兵站部隊の状況を見に行かされる

 少し時間を戻す。将軍から兵站部隊の様子を見てこいと命じられた従者。海岸道を行くもいくら経っても兵站部隊と出会わない。どうしたのかと思っているとやっと馬と荷車が見えた。


 「おい、どうした」

 「みればわかるだろう。連結した荷車がこのきついカーブを曲がれず、連結を解いて、荷車一台を通して、今後ろの荷車の荷を下ろして、荷車を前に押し出して、もう一度連結、荷を積み込む作業をしているのだ。手伝ってくれるか」

 従者が見ると確かに連結したままでは曲がれないことがわかる。


 「まあ、腹が減ったろう。少し兵糧を分けてやろう。食っていけ。部隊に戻ると食べられないぞ」

 お腹が空いていた従者、勧められるままに食事をして、ワインを飲んだ。駄賃だと言われて、背負子に食糧をいっぱい持たせてくれた。


 戻りながら、この背負子の食料は取り上げられるだろう、それなら途中で腹一杯食べよう。それに酔いが覚めないとまずいと考えつき、もう少しで海岸道を抜けるというあたりで休憩。黒パンを少し齧ったらお腹がいっぱいになり、酔い覚ましをしていると、朝からの疲れもあり、うつらうつら始めてしまった。


 少し寒くなって来たので目が覚めると日が落ちかかっている。急いで海岸道を抜けると全軍終結していたはずなのにいない。進発したようだ。

 まだ日は落ちない。急ぎ追いかけることにした。なかなか追いつかない。薄暗くなって来た。ごく小さい集落にたどり着いた。家の前に男たちがぼーっと立っている。まずいと思ったが見つかった。


 「お前は帝国軍だな」

 逃げようとしたが捕まった。

 「帝国軍は俺たちの食糧を根こそぎ取っていった」

 「おいコイツは背負子に食糧を持っているぞ」

 男どもが集まって来た。

 「女房どもを呼んでこい。食糧を分ける」

 背負子が奪われた。

 「女房どもに背負子は任せて、コイツは」

 男どもが棒を持ってやってくる。めった打ちされ海に捨てられた。


 翌日、集落を20人ほどの兵が海岸道の方に駆けていく。

 20人の兵は海岸道を走り、やっと荷車を見つけた。誰もいない。兵も馬もいない。

 「どうなってる」

 「わからない」


 「腹が減って死にそうだ。まずは食べようじゃないか」

 誰も反対しない。兵糧の荷をほどき、すぐ食べられそうな黒パンとワインをみつけ、ワインに黒パンを浸しながら食べ始めた。誰も口をきかない。一心不乱に食べ続ける。お腹が一杯になったところで我に帰った。


 「兵を半分に分けよう。10人は兵糧を背負って戻ってくれ。焼石に水だろうけど、ないよりは良いだろう。現状を報告してくれ。半数は皇帝陛下の宮殿まで報告に行こう」

 「わかった。俺は9人連れて、兵糧を背負ってもどろう」

 「じゃ先に出る」

 10人が宮殿に向かい出発した。

 残る10人は兵糧を背負い海岸道を戻っていく。


 皇太子殿下の兵が皇太子の監視の目を盗んで皇帝の宮殿方面に向かう兵を発見し、捕縛した。

 兵は皇太子殿下の前に連れて行かれた。


 「お前たちは何を報告に行くのか?」

 兵は、皇帝と皇太子殿下が不仲なのは知っていたので、話さなければ皇帝側とみられ牢獄行きとなるだろうと、顔を見合わせ話すことにした。


 「兵糧が全く前線に届いていません。確認しに戻って来たところ、こちらから見て海岸道に少し入ったところのカーブで始めて荷車を発見しました。馬も人もいませんでした」

 「海岸道に荷車が打ち捨てられていました。海岸道を抜けると兵站部隊の集結地点と思われますが、大量の兵糧の乗った荷車が放置されていました。ただしざっとみたところ、全兵糧の半分も残っていないようでした」


 「知っている。ドラゴン様から連絡があった。兵糧は三分の一が残っている。兵が戻ってきたらその者たちの食糧にする。余れば故郷に持って帰ってもらう。この兵糧は、すべての地域から根こそぎ集めたものだ」

 「それじゃ早くしないと餓死者が続々出ます」

 「それはない。ドラゴン様から食料の援助があった。すでに村々に配っている」


 「先ほどから出てくるドラゴン様とは何者でしょうか」

 「神様の使いだ」

 「神聖教でしょうか?」

 「シン様教だ。この国は皇帝に任せると潰れる。お前たちはどうするか」

 「故郷に一刻も早く帰りたいです」

 「このまま真っ直ぐ故郷に帰るなら良い。皇帝の元へ行くなら牢獄だな」

 「故郷に帰ります」

 兵は故郷に帰っていった。


 夕方海岸道方面から兵が10人ほどかけてくる。

 集落を通り過ぎようとした時、先頭を行く2、3人の兵が悲鳴を上げた。猟に使う罠に足を挟まれて倒れ込んでいる。家々の戸が一斉に開き、木の枝の先を尖らせただけの槍を持った男たちが、襲いかかる。不意に脇を突かれた兵は枝の槍に腹を刺され息絶えた。

 「よし。帝国ネズミを10匹退治した。また背負子で食糧を背負っているぞ」

 「5匹分、隣の集落に届けてやろう。親戚、知り合いが喜ぶぞ。明日ネズミがきたらこっちでは狩らないと言っておいてくれ」

 女房たちが出て来て、背負子5つを持っていった。今回は分け甲斐がありそうだ。

 5人は背負子を背負って隣村に走っていく。

 「道路は綺麗にしとこう。またネズミが来るといけない。背負子は、薪にして、今晩完全に燃やしてしまえ。証拠は残すな。ネズミは崖から海に捨てよう」

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