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161 帝国軍が進発 兵站部隊は食糧根こそぎ調達の事実を知る

 帝国の石工達が最後に逃亡したもののやっと隘路の工事が終わった。

 すかさず皇帝が進発命令を出した。10キロほどの海岸道を二列になって兵が続々と進軍する。海岸道を先頭が抜けるのは日没後にした。日没後海岸道を抜けたらただちに神聖教国の監視所を襲撃、後続の兵のため安全確保をした。帝国軍にとって幸いなことに、辺地故人家がない。襲撃後に海岸道の要所要所に置いた松明に点火。夜を徹して進軍する。日が上り気づかれる前に、気づかれても容易には撃退されないだけの兵を集結させる作戦だ。夜明けまえに全部隊が海岸道を通過した。


 皇太子の執務室

 「殿下、兵站部隊を除き、全部隊が海岸道を通って、神聖教国側に移動しました。

 「そうか。直ちに皇帝居城と海岸道の交通を遮断しろ。兵が進発してしまった今は、皇帝の宮殿にいる兵とこちらの兵はほぼ均衡している。襲ってくることはできまい。この間知らせに来てくれた石工の話では、兵站部隊の荷車は海岸道を通れないそうだが、どうなることか」


 皇帝の宮殿は海岸道から離れたところにある。皇帝の宮殿と海岸道の間に皇太子の宮殿がある。安全のためだが裏目に出た。


 皇帝の執務室

 「陛下、皇太子殿下がこちらと海岸道の間の交通を遮断しました」

 「そうか。今向こうから襲ってくることはあるまい。すでに軍は進発した。様子をみよう」

 「なにか手を打たなくて良いのでしょうか」

 「良い」

 タリウス宰相は、陛下は何故か恬淡としているといぶかしがった。


こちらは海岸道の入り口

 兵站部隊は海岸道の最初の元隘路で二台連結した荷車がくねった道を曲がれず立ち往生していた。


 海岸道を抜けたところで、待機している軍。

 ランベルト将軍が参謀に聞く。

 「兵站部隊はどうしたのだ」

 「それが海岸道に入ってすぐの元隘路の急カーブを先頭の荷車が曲がりきれず立ち往生しているようです」


 「料理長を呼べ」

 朝食を兵に給し終わった従軍料理長が呼ばれた。

 「食材はどれほどあるか?」

 将軍が聞いた。

 「朝食分は兵站部隊とは別に兵に運んでもらい、朝食に使い切りました。朝食が終わりましたので後は兵站部隊が持ってくる手筈ですが」

 「今手持ちはないのか」

 「はい、進軍速度優先ということで我々は背負って運べる調理器具しか持っていません」

 「わかった。下がって良い」


 参謀が従者に命じた。

 「急ぎ兵站部隊の状況を見て来い。兵站部隊の状況は誰にもいうな」

 急いで従者が出て行く。


 「将軍、昼食には間に合いそうもない。今の従者が戻ってこないとわかりませんが、最悪夕食も出せないかもしれません。1時間休憩後、食糧を徴発しながら進軍してはいかがでしょうか。昼食はなくてもいいでしょう。その場合、夕食はたとえ少なくとも出すようです」

 「ここで待っているのはどうか」

 「待っていて昼食を出せなければ兵が騒ぎ出す。引き返すか、徴発をしながら進軍するかのどちらかです。幸い神聖教国の都はこちら寄りにあります」


 「一戦もせず引き返すことはできない。このまま引き返せば、過酷な食糧の徴発が兵に知れるだろう。兵の故郷ではおそらく餓死者も出ているのではないか。引き返せば皇帝も我々も危ない。進むしかないか」

 「選択肢はないに等しいかと」

 「そうだな。1時間後出発。途中家、畑あれば食糧は根こそぎ徴発と伝達してくれ」

 参謀が幕舎を出て行く。


 兵站部隊

 後方にいた隊長が部隊が一向に進まないので先頭まで見に来た。

 「どうした。なぜ進まない」

 「二台連結荷車がカーブをうまく回れず立ち往生しています」

 「一台では通れるか」

 「なんとか」

 「この先はどうか」

 「見に行かせましたが、しばらくはいいのですがまたここと同じくらいの曲がりがあると報告がありました」


 「連結は外して一台だけ馬に引かせて通せ。後ろの荷車は積荷をおろし空にして荷車を押してここを通してもう一度連結、積荷をつめ」

 「手間と時間がかかりますが」

 「後ろの荷車を海に捨てれば早いが、それをすると兵糧が半分になってしまう。それにこの兵糧は村々から根こそぎ徴発したものだ」


 「隊長、今なんとおっしゃいましたか」

 「ーーーーー」

 「村々から根こそぎと言いましたよね」

 「餓死者が出る」

 「どの部隊が徴発したのか。隊長、なんとか言え」

 隊長は兵に囲まれた。

 隊長は諦めた。

 「陛下の直属部隊が指揮をした」

 「くそ、俺たちが村を出てから徴発したな」


 「三分の一だな。進発した兵の分、三分の一だけ前に送る。というか三分の一は放置。残りは村々に戻す」

 「このことは俺たちの部隊で誰が知っている?」

 「俺の副官だけだ」

 「何処にいる」

 「最後尾だ」

 「誰か副官を連れてこい、隊長が至急呼んでいると言え」

 「前線から様子を見に来るかもしれん。ゆっくり荷を運んでいろ」

 程なくして副官が来た。すぐ拘束。


 「俺たちは兵糧を村々に配る。理由はわかるな。協力するか?」

 副官が隊長を見る。

 「俺と副官は同郷だ。食糧を徴発されて村人は飢えに苦しんでいる。こうなったら、もう命令に従うつもりはない。協力する」

 「隊長がそうならもちろん協力する。今回の作戦は大変無理があった」


 「よし、それじゃ副官は、ここで待機、それらしく見せるために何人かつける。昼過ぎに荷車は放置、馬を連れて撤収してくれ」

 「隊長は俺と一緒に海岸道に入るところまで事情を説明しながら戻ってくれ。殆どが海岸道に入れず海岸道の手前に集結しているはずだ。隊長から説明してくれ。そしたら、兵糧を三分の一だけ残し直ちに各地に散る。馬は連れていく。遠くの村には二頭で荷車を引かせろ。皇帝の近衛兵が気付く前にバラバラに散ってしまえ」

 かくして夕方には兵站部隊全員と馬全部、三分の二の兵糧が消えた。

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