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160 御ローコー様 国王と宰相に戦争の当事者はシン様でなくお前達だと現実を突き付ける

 国王執務室

 「叔父上、おいでいただきありがとうございます。それで会議はどうなったのでしょうか」

 「そうだな、まず、会議の性格だな。会議は情報収集、集約のための会議だ。三国の対応を決める会議ではない。会議で集めた情報では、大筋昨日の密書の『近いうちに帝国軍が進発。海岸道を通り、スパーニア王国、リュディア王国、アングレア王国を目指す』のとおりだが、細かい情報がある」


 「まず、侵攻時期だが、帝国と神聖教国を結ぶ海岸道の隘路の拡張工事が終了次第だろう。いつになるか今のところわからない。帝国が神聖教国に侵攻した場合、神聖教国に戦える兵力はない。即蹂躙だろう。抵抗もほとんどなく進軍、最も進軍しやすいのが平原が続いているリュディア王国方面の小国だ。おそらく一度小国群の平原に集結し態勢を整え、リュディア王国に進軍してくると思われる。スパーニアとアングレア方面は山地で一度に動かせる兵が極端に減り、移動速度が落ちる。高速に兵を移動できる東西街道で多数の三国の兵に迎え撃たれるとひとたまりもないだろう。ゆえに小国群の平原に集結して一気にリュディア王国に押し寄せる作戦を取るのではないかと思われる」


 「それから、神聖教国と三国との間に挟まれた小国群は、小国ゆえに機を見るに敏だ。帝国軍が神聖教国に侵攻した段階ですぐ三国に救援要請があるだろう。対応は考えておいた方がいい」


 「作戦だが、まずスパーニアとアングレアは山の稜線に監視所を作り、もし帝国軍が山越えを選択して侵攻してきたら狼煙を上げたらどうかとの案が出た。スパーニアとアングレアがその案を採用したら、対応も検討したほうがいいぞ」


 「予想通りリュディア王国方面に侵攻しようと平原に集結したら、シン様たちが、三国との国交、友誼に鑑み戦意喪失作戦を行う」

 「どんな作戦なのでしょうか」

 「秘密だ」

 

 「その作戦の次はどうなるのでしょうか」

 「『あまりにも』な作戦をシン様たちが行う」

 「その作戦の内容はどんなのでしょうか」

 「秘密だ。この両作戦は極秘だぞ」

 何も聞かされていない気がする国王。だが一応言って置く。

 「宰相、極秘だぞ」

 宰相も作戦内容は何も聞かされていないが空気を読んで返事する。

 「承知しました」


 国王が続ける。

 「それで私達は何をしたらよろしいので」

 「もちろん国境まで行って、作戦を手伝うのだな。作戦は全部は成功しないだろう。白兵戦になるな。あとは、アングレアとスパーニアの山の監視所から狼煙が上がったら救援の兵を送ることだろうな」


 「どのくらいの兵を動員したら良いのでしょうか」

 「宰相に考えさせろ。帝国軍の兵数はおそらく一万五千だ」

 「他になにかすることはありますか」

 「三国でよく連絡、連携し、主体的に考え、行動することだ。携帯を持っているだろう」


 宰相は一万五千、一万五千と真っ青な顔で呟いている。少し気を軽くしてやろうと親切なエチゼンヤ。

 「まあ、実際に戦えるのは一万くらいだとの予想もある」

 宰相は、一万五千、一万、一万五千、一万、と繰り返し呟いている。顔色は青いままだ。顔を上げて聞いてくる。


 「あのう、二百人衆は参加しないので」

 「神国は専守防衛の国だ。他国に出兵はしない。それに二百人衆が参加したらいっぺんに一万五千のバラバラ死体が出来あがる。それをどうやって片付けるのか。よく考えろ」


 「それに大切なことは、今回攻められるのは、スパーニア、リュディア、アングレアの三国だ。主体的に対応するのはその三国だ。神国ではない。シン様一家が参加するだけでありがたいと思え。最初からシン様に頼るようでは、シン様は引き上げるぞ。この国の将軍はだれだったか」

 「我が国は平和が続き、将軍は宰相が兼任しています」

 事務局氏が答える。


 「宰相将軍殿、お前が考えるのだ」

 宰相の顔色が青を通り越して真っ白になった。もう少しすると土色になりそうだ。葬式だな。とお気楽なローコー。


 「もう一度繰り返す。今回の当事者は三国だ。先頭に立つのは三国だ。シン様一家はお手伝いだ。勘違いするなよ。国王陛下。宰相将軍殿」

 言われてみればその通りなので、国王も宰相もうなだれて元気がない。

 

 「民が帝国兵に蹂躙されないよう頑張れ。こういうときのための国王、宰相将軍だ。役に立たなければ民の支持を失う。帝国兵に殺されるか、民衆になぶり殺しにされるかどっちかだな。そうならないようにふんばることだ」

 未来を暗示されたようで宰相の顔色が真っ白からだんだん土色を帯びてきた。殺される、なぶり殺しと呟いている。国王の顔色も同じ様になってきた。


 薬が効きすぎたな。良薬も多ければ毒だ。このへんで引き上げよう。

 「それじゃあな。この件に関するリュディア王国からシン様への窓口は俺だ。間違えるなよ」

 ローコーが去っていった。


 国王も宰相将軍も椅子に座ったきり呆然自失している。ローコーに重い現実を突きつけられ、今まで少し他人事だとの気分があったが、それがすっかりローコーによって吹っ飛ばされ、かつてないほどの責任に気付かされ、その重さに押しつぶされているのである。


 しばらくして、ドアが開いて王妃と先の王妃が入ってきた。

 パンパンパンパンと音がした。先の王妃が王と宰相を平手打ちした。

 「何を寝ぼけている。お前たちがしっかりしなければこの国は蹂躙されてしまう。神様のお手を煩わせるんじゃない。国王と宰相が先頭になって出陣しろ。あとを兵が付いていくか否かは、お前たちの日頃の行い次第だ」

 「ここは私達が守る」

 勇ましい王妃と先の王妃である。


 頬を張られて国王と宰相の顔色がいくらか良くなった。

 「そうか、先陣を切ればいいのか」

 「そうです。こんなところに座ってグズグズ堂々巡りの案を捏ねているからダメなのです」

 「出陣だ。行け」

 誠に勇ましい。


 「あんた達が名誉の戦死を遂げたら、私達はシン様にお仕えするのよ」

 途端に先ほどの勇ましい発言が怪しいと思う国王と宰相であった。


 しかし、恐怖により固まっていた国王と宰相はやっと頭が回り出した。

 「国境に斥候を出せ。国境警備兵と協力して情報収集。その先は商人に扮した密偵を出せ。密偵は神聖教国との国境の手前までで良い。無理はさせるな」

 「は、直ちに」

 宰相が急いで出ていった。

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