159 御ローコー様が戦争の話をしに宰相を尋ね、ワンワン印、疲労回復・元気一杯ドリンクを飲ませようとする
リュディア王国
宰相執務室
宰相殿は朝から顔色が悪い。
昨日、国王から呼び出されて、バルディア帝国が攻めてくるらしい、備えよと命じられた。
戦争が、戦争がとぶつぶつ言っている。秘書官も寄り付かず遠巻きにしている。
ノックの音がする。秘書官が出た。
「宰相、御ローコー様がお見えです」
「入ってもらえ」
「どうした。顔色が悪いぞ。この頃エスポーサ様と共同開発している、ワンワン印、疲労回復・元気一杯ドリンクがあるのだが、一本やろうか」
つい手を出してしまう宰相。
「一号か」
ローコーが聞き捨てならないことを呟いた。
「なんだ、一号とは」
「聞こえたか。ドリンクを作ったんだけど、エスポーサ様が魔物に飲ませたところ、確かに効いたが走り続けて倒れて死んだ。人間ではどうかなと思って、お前が一号だ」
「飲めるか。人殺し」
「そうか。ダメか。誰に飲ませたらいいかな」
ローコーがぐるっとあたりを見渡す。慌ててあちこち動き出す秘書官。飲む気はなさそうだ。
「何の用だ。ワンワン印はダメだ」
「そうか、ドラゴン印にすればいいか」
「中身がダメなのだ」
「もう少し改良するか」
「戦争が起こると言うのになんて呑気な」
「その戦争のことだ。朝から会議で腹が減った。何かあるか」
ワンワン印を飲まされてはかなわないと思った秘書嬢。あっという間にローコー様の前に山のようにお菓子を持って来た。
「ありがとうよ。さすが宰相秘書嬢。手際が良い。お礼にワンワン印を」
「遠慮します。結構です」
逃げた。
「お前、何しに来たんだ」
口が悪くなる宰相。
「ああ、そうだ。戦争のことなのだがな。まあ、聞いて腹が痛くなる前に、せっかく持って来てくれたこのお菓子を食べたらどうだ。うん、なかなかうまい」
「もう腹が痛くなった。食べられるか」
「なかなか上等だぞ、この菓子」
「あ。これはドラゴン様対策用の菓子だ。おい、こいつにこんな上等の菓子を出すな」
「それですか。賞味期限がすぎていて、ドラゴン様だと蹴飛ばして壁から外に出て行かれます」
「俺ならいいのか」
「所詮賞味期限ですから。その日までに食べなくてはならないと言うことではありません。御ローコー様は大人物なのでいいかと」
「そうかそうか。愛いやつじゃ。お礼にワンワン印を一本」
「急に用を思い出しました」
また逃げられた。
「おい、戦争の話はどうした」
「ああ、戦争な。会議での予想では、帝国軍は神聖教国を蹂躙し、平原伝いにわが国に攻めてくる。十中八九当たりだろう」
宰相の目が血走って来た。ローコーの襟ぐりを掴む。
「どうするんだ。そんなのんびりしていて。攻めてくるんだぞ。兵の動員も必要だぞ」
「俺は、スパエチゼンヤがあるからな。門を閉じてしまえばどこの兵でも突入することは不可能だ。お前も入れてやってもいいぞ」
「そんな無責任なことができるか」
「立派な宰相になったな」
「で、ボンボンはいるか」
「おい、大至急アポを取れ。それからコイツに出す菓子は、消費期限切れにしろ。カビの生えた七色饅頭でも出せ。何を食わせても大丈夫な鉄の胃の持ち主だ。具合が悪くなればワンワン印でも飲めばいいんだ」
「飲んでみたけど何ともなかったんだな」
「化け物め」
「お前も仲間かもしれないぞ。飲んでみればわかる」
「飲めるか。人殺し」
「あのう。早く行きませんと。陛下がお待ちです」
「そうだな。宰相が心配性なので少し気持ちを楽に、柔らかくしてやったんだ」
とてもそうは思えないと思う秘書官だが、先の国王の弟君のすることだから、黙っている。ワンワン印を飲まされてはかなわない。
悪態を吐きながら、宰相はエチゼンヤと一緒に国王執務室に向かう。