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156 バルディア帝国デキウス皇太子 シン様より米と救荒作物をもらう

 深夜、皇太子殿下の寝室の窓を叩く音がする。起きてみると小さなドラゴンが宙に浮いてこちらを見ている。知性のこもった目である。

 「開けろ」

 「よろしいので」

 「良い」

 窓からドラゴンが入って来て前足を振った。手紙が空中に現れた。侍従が慌てて手を伸ばしてキャッチして皇太子に差し出す。


 バルディア帝国

 デキウス皇太子様

 此方に遣わせていただいた二人は無事つきました。

 お知らせいただいた件、承知しました。早速三国の王に周知しました。

 この子に倉庫いっぱいの米を持たせました。米は水を多めに入れて炊くとお粥ができます。多くの人を救えると思います。野菜など、あれば一緒に炊いてもらえればなお良いと思います。料理方法は書いておきました。

 また山地でも育ちが早く多産な芋の種芋を持たせました。この芋だけでも生きていけるでしょう。

 何卒ご自愛ください

  ◯年◯月◯日

   神国    樹乃神


 なるほど、手紙のほかに何やら書いてある紙が入っている。料理方法と芋の栽培方法だろう。

 「お前は主人から穀物と種芋をあずかって来たのか」

 キュ、キュ。とドラゴンが返事をした。


 「この間食料を放出して空になった倉庫を使う。兵に倉庫を警戒させよ。誰も近づかせるな」

 侍従が部屋を出ていく。

 「ドラゴン殿、倉庫の用意ができるまで、お茶などいかがか」

 侍女がお茶とお茶菓子を持ってくる。


 「我が国は見ての通りの状態で、今はこれしかおもてなしできない。遠路お越しになってくれたのに申し訳ない。これはセンベーという菓子だ。お口に合わないかもしれないがこれしかない。すまない」

 ドラゴンは、前足でセンべーをつかむとバリバリ食べ始めた。その後前足でカップを器用に掴んでお茶を飲む。飲み干してカップを差し出す。おかわりのようだ。

 侍女がクスッと笑っておかわりを持って来た。

 ドラゴンは満足のようでキュ、キュと侍女に愛想を振り撒いている。


 「殿下、用意ができました」

 「ドラゴン殿、倉庫までお願いする」

 皇太子殿下の後をふわふわと浮きながらドラゴンがついていく。倉庫の中に入ると脚を前に差し出した。米が噴出してくる。あっという間に屋根近くまで積み上がった。皇太子殿下の目に涙が湧いて来た。

 「助かった。これで多くの民の命が救える。ドラゴン殿ありがとう」

 ついて来た侍従も泣いている。警備の兵も泣いている。


 ドラゴンが前脚をぶらぶらさせる。

 「そうだ、種芋だね。隣の倉庫までお願いする」

 隣の倉庫でドラゴンが前脚を差し出す。種芋がどんどん出てくる。倉庫半分くらいになった。

 「ありがとう、ありがとう」

 皆一斉にお辞儀をする。ドラゴンが照れているようだ。なかなか表情豊かだ。


 「ドラゴン殿、礼状を書きたい。寝室まで戻ってもらえるか」

 キュ、キュと言っている。いいらしい。

 寝室に戻って礼状を書いた。今度は宛名、差出人入りである。


 神国

 樹乃神様

 今般は、貴重な米と救荒作物の種芋を譲っていただき誠に有難うございました。感謝の言葉もありません。この御恩は子々孫々伝えていく所存です。

 軍事作戦の方ですが、現在海岸道の隘路部分を取り除くべく工事中です。それが終わりましたら進発、神聖教国を滅ぼし、スパーニア王国、リュディア王国、アングレア王国に向かうと聞いています。

 今回動員した兵は職業軍人と予備役、傭兵合わせて5千人。そのほかに根こそぎ徴兵した兵が1万人くらい。合わせて1万五千人、ただ立てれば老人でも徴兵したので実際戦えるのは1万人もいないと思われます。

 国内の食糧は根こそぎ徴発しつつあります。我が国は山地で穀物は少なく、餓死者が出始めている状態です。救援物資は誠にありがたく、有効に使わせていただきます。

 なお、神聖教国は作物を生産しておらず、教国から食糧の徴発は難しく、おそらくスパーニア、リュディア、アングレア王国に近づく頃には兵糧が底をつくと思われます。

 ご健闘をお祈り申し上げます。

   ◯年◯月◯日

    バルディア帝国

      皇太子 デキウス


 書状に封印をしてドラゴンに差し出すと書状が消えた。

 キュ、キュと言いながら飛んでいった。

 

 「手紙には神国 樹乃神様とあったな。神様からの手紙か。あのドラゴンは神の使いなのだろうな」

 「はい、そう思います」

 「いただいた米と種芋は有効に使わなくてはな。皇帝の兵に気取られるな。夜陰に乗じて担げるだけの米と種芋を担いで餓死者が出ている遠くの地方から配り始めろ。その辺りにはすでに皇帝の兵はいない。遠回りでも目立たないルートで行け。すぐ手配せよ」

 「承知しました。ドラゴン救援物資とでも呼びましょうか」

 久しぶりに笑いが戻った。

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