152 隘路拡張工事に集められた石工たち 食糧根こそぎ徴発の事実を知る
石工たちが海岸道の全現場を確認したところ、隘路は教国側に行くに従って海岸道にでっぱっている岩が小さくなって、岩にも目が見られるようになってきた。足場が必要なのは最初の二箇所だけで済むことがわかった。
工事は簡単な教国側から行い、足場職人は到着次第、最初の二箇所に足場をかけてもらうことにして、軍人の手伝いは片付けと、その二箇所とした。まだ最初なので片付ける石もないので軍人は食事を運ぶ時だけやって来た。
急遽、かき集められた石工が工事現場に到着した。何故か表情が冴えない。数日一緒に働いても一向に改善されない。これでは事故が起こる。
親方が軍人がいない時を見計らって、その石工たちに聞いた。
「今のままだと事故が起こる。何かあるのか。話してくれ」
最初は顔を見合わせていたがやがておずおずと話し出した。
「言うなと軍人から言われているのだけど、俺たちの村は食糧が根こそぎ持っていかれた。ここに来るあいだの村々も、飢えていた。こちらに近づきまだ徴兵が行われていない村は食糧があり、俺たちの食事も村が出してくれた」
あまりなことにしばらく沈黙が支配した。
「徴兵が終わったら食糧を根こそぎ持っていくと言うことか。飢え死にしてしまうじゃないか。くそ、目に物見せてやる」
「どうするんですか」
石工たちが親方に聞く。
「今足場を組んでいる帝国側2箇所の隘路に細工をする。兵糧を乗せた荷車がギリギリ通れるように見せかけて、引っかかって通れない様にする」
「なるほど俺たちの腕の見せ所だな」
「幅の狭い特注の荷車の図面はもらっている。よく見て研究してくれ。帝国側の隘路工事をする頃には兵糧を積んだ荷車が集結しているだろう。それもよく観察してくれ。現場監督や軍人にばれない様にな。打ち合わせは軍人がいない今のうちにやろう」
「わかった。やってやろうじゃないか」
昼食を運んできた軍人が帰ったのを見届けて、詳細な打ち合わせを行った。
打ち合わせ後、
「そうと決まったらここはさっさと片付けるぞ。時間がたてばたつほど餓死者が出る」
石に目があり、簡単に割れた。
「片付けは軍人にやらせよう。次行くぞ」
次々に拡張工事を進め、足場がある隘路に到着した。足場はすでに出来ていた。
「今日から軍人が手伝いに来る。気をつけて進めよう。軍人が来る前に、誰か身軽な一人が足場の上から崖に移り、崖を登り、今度の戦に反対している皇太子殿下のところに行って、報告してくれ」
「俺が行く」
「気をつけて行ってくれ。工事が始まれば一人ぐらい減ってもわからないだろう」
「確認と称してみんなで上まで登るぞ」
石工たちが揃って上まで登って、確認している間に一人崖に移って、皇太子殿下に報告に行った。
軍人がやって来て、作業が始まる。とりあえず軍人には教国側の作業が終了したところを片付けてもらうことにして追い払った。
石工たちが足場に登り、上から楔穴の位置を二列横にマークし、石が四角く割れるようにその中を縦になん箇所かマークしていく。一段マークしたら軍人を呼んで、楔用の穴を掘らせる。軍人は印の箇所を石ノミで全力で穿つ。力が落ちるとすぐ次の軍人に交代する、常に全力で穴を穿つことになる。最後の微妙な角度などは石工と変わり作業を進める。掘った穴に楔を打ち込み、岩を割っていく。一段落としたら、下では落ちた石を片付け、上では次の列の楔穴を開ける作業をする。
地面から2段分は慎重に計画通り削りすぎないように作業をしていく。
夜、軍人が引いた後、親方が石工たちと相談する。
「俺たちは多分、食糧根こそぎ徴発の事実を知ったから仕事が終われば良くて牢獄、悪ければ殺されるだろう。あとは片付けすれば良いだけにして完成前日の夜間に逃げる。すでに兵や兵糧が集結し始めているのでそれらに紛れて逃げよう」
このようにして全隘路の工事は石工の逃亡により、軍が片付けを行い終了した。