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151 神聖教国から派遣された工事立会人、災難にあう

 昼頃、神聖教国の立会人が到着した。ざっと現場を見てもらって、宿舎に案内する。

 すぐ昼食となった。下級役人と見えて、並ぶ豪華な料理に目を輝かしている。

 「さ、どうぞ。お口に合わないかもしれませんが」

 「いえ、そんなことはありません。見たこともないくらい豪華で驚いています。ご馳走になります」

 役人はお腹が空いていたようだ。食べる食べる。


 頃合いをみてお酒を勧める。注ぐのは際どい衣装を着た女性だ。ごくりと喉を鳴らしている。飲んだ。

 「いやあ、このお酒も飲んだこともない上等なお酒ですね。大変美味しい」

 「そうですか、たくさんありますのでいくらでもどうぞ」

 女性が役人にピッタリ寄り添いお酌をする。

 女性の体温が役人に伝わり、あたりに脂粉の香りが漂う。役人の視線は、女性の胸と太ももを行ったり来たりしている。

 いつの間にかお酒は強いお酒に代わっている。役人は気が付かない。酔い潰れた。


 接待していた男が合図すると、二、三人男が現れて、役人を宿舎に運び込み裸にしてベッドに横たえ、毛布をぐちゃぐちゃにして掛ける。女性に頼んだぞと目で合図する。女性は服を破いて裸になると正体不明で眠り込む男の脇に潜り込んだ。


 数時間すると、キャーっと悲鳴が宿舎から聞こえた。

 ガタイの良いその筋のような男がドアを蹴飛ばして部屋に飛び込んだ。

 役人は幾分朦朧としている。

 「てめえ、俺の女房を手籠にしたな。生かしちゃおかねえ」

 「なんだ。何が起きたんだ」


 「何寝ぼけたことを言ってるんだ、俺の女房を無理矢理連れ込んで服を破いてことに及んだではないか。見ろ、おまえが破いた女房の服が散らかっている。おまえも女房も裸だ。生かしちゃおかねえ」

 その筋のような男が刃物をちらつかせる。

 「待ってくれ、何もしていない。本当だ」


 その時接待した男が部屋に入って来た。

 「困りますね。神聖教国の人がこんなことをしては」

 「ちがう、ちがう。何もしていない」

 「これは神聖教国に婦女暴行の現行犯を捕まえたと報告するようですね」

 「やめてくれ、やめてくれ。女房も子供もいるんだ」

 「旦那さんが怒っていますよ。このままだと職場も、奥さんも、お子さんも失いますよ。どうするんですか」

 「なんでもする。だから国には言わないでくれ」


 「旦那さん、どうなさいますか。示談にしますか」

 「許せねえ。示談などするものか。ぶち殺してやる」

 「困りましたな。そうだ。宰相が見回りに来ていたな。お呼びしてくれ」


 宰相が呼ばれて来た。一眼室内をみると眉を顰めた。

 「これは、神聖教国の役人様。我が国に来てこのような愚行を働くとは、せっかく神聖教国と我が国の友好関係が成立したのに、困った事態になりました。これは役人様を派遣した教皇様の顔に泥を塗る事態ですね。困りました」


 「助けてくれ。国に知れたら教皇様に一家もろとも粛清されてしまう」

 「何も罪科のない奥さん、子供まで、刑場の露と消えますか。可哀想に」

 「頼む。なんでもする」

 「そうですか、困りましたな。うーーん。旦那さん、ここはこの宰相の顔をたて、処理は任せてもらえますか」

 「国と国の大事になってしまったようだな。俺たち夫婦のことも十分考えてくれれば宰相に一任しよう」

 「ありがとうございます。そう言うことですから暴行役人様。一枚書類を書いてもらいましょう」


 宰相が紙を一枚取り出した。

 「言うとおり書いてください」


 覚書

 私は、神聖教国ホラチウス教皇より海岸道の隘路改良工事の立会人に任命され、派遣されました。

 ところが着いて早々、見目麗しい女子に懸想し、部屋に連れ込み、服を破き無理矢理暴行しました。

 神聖教国とバルディア帝国の友好関係が樹立したばかりに事件が表立っては両国の友情にひびが入りかねず、諸般の事情を勘案したバルディア帝国宰相様の温情により、この件はバルディア帝国としては表沙汰にしないことにしていただきました。

 今後、暴行した女性と夫に対しては、できる限りの償いを一生かけてすることを誓います

  日付

     署名


 「では、明日からこちらで工事が終わるまでゆっくりお過ごしください。工事の進捗具合は毎日報告に上がりますので、本国宛報告書はそれをもとにお作りください。なお食事は部屋にお届けします」


 宰相と名乗る男も、最初に接待した男も、女性も、その夫と言っていたその筋風の男もあっという間に消えた。ドアには鍵がかけられた。外に見張りの気配がする。窓は格子がガッチリとはまっている。窓の外には目隠しが付いている。何も見えない。


 役人はここに至って、嵌められたと覚った。飲まなければよかったと思ったが後の祭りである。国の女房、子どもの顔を思い出し、涙するのであった。


 神聖教国から派遣された役人殿が災難に遭っている間ももちろん工事は進んでいる。

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