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149 バルディア帝国皇帝 強精料理から逃れ侵攻計画を練る

 朝早く、タウリス宰相は皇后に宮殿に呼ばれた。

 皇后と侍女2人が待っていた。なぜか肌がツヤツヤ、元気はつらつの様子なのである。


 「陛下は?」

 「骨皮筋ーー、もとい、お疲れになったのでまだお休みになっています。それよりも、昨日のあれはまだあるの?」

 「あれとは?」

 「あれよ。見せてもらったわ。白狼印の青毒蛇の瓶」


 「アレは、一本だけ商人から入手したもので我が国では手に入りません」

 「どこで手に入れるのよ?」

 「エチゼンヤ商会と書いてあり、おそらく神聖教国の先の国の産かと。神聖教国上層部には密かに出回っているそうです」

 「手に入れてちょうだい。お金はいくらかかっても良いわ。私が出します」

 『折角殺したのに子供ができなければ』

 ごく小さなつぶやきであったが宰相には聞こえた。年の割に耳が良いのである。


 「神聖教国は今混乱しているようですから、教都を迂回して、神聖教国の先の国に行かなければ入手困難かと」

 「信頼できる者を派遣して入手してちょうだい。くれぐれも皇太子一派に知られぬように。わかったわね。当座の費用よ」


 ツヤツヤした侍女が皮袋を渡して来た。金貨がだいぶ入っている。おそらく庶民が数年暮らせる程度入っていると見た宰相。

 そうかアレはそれほど効くのか。皇后はもとより、この侍女2人もそうか。ひょっとすると何回か使うと懐妊するかもしれない。それはタリウスが母親のように慕っていた先の皇后のただ一人の子供の皇太子殿下を危うくすることでもあった。


 ふと視線を感じ顔を上げると、玉座の後ろの秘密通路を隠している垂れ幕から、顔がのぞいている。

 骨皮筋ーーー。いや皇帝陛下だ。木乃伊が口を「後で」と動かしている。油の切れたような音がしそうだ。何か皇后にも言えぬ用があるらしい。

 皇后と侍女が退出した。


 疲れ切った骨皮筋右衛門が幕の後ろから出て来て玉座に座る。

 「おい、あれは大変だ。もし入手しても一本しか入らなかったことにしろ。次の入手まで最低一ヶ月は空けろ」

 宰相は、玉座の萎んだ皇帝を見て、全くその通りだが一ヶ月で回復するのかと思うのであった。


 「今朝は大変だった。皇后と侍女が張り切りおって、精のつくものを食べさせられて、朝から肉に卵にニンニクだ。たまったものではない。なんで女はツヤツヤ元気になるんだ」

 「皆目見当がつきません」

 「今度入手できたらお前らに1本ずつやる。飲んでみろ」


 「今日からしばらくは海岸道などの視察ということにしてお前らの別荘に行く。一週間ずつ滞在だ。誰にもいうな。将軍を呼べ、連絡要員は二人で都合しろ。昼飯前に出るぞ。また精のつくもの尽くしを食べさせられたのでは叶わぬ」

 「わかりました。将軍を呼び、すぐ馬車を用意します」


 「陛下ーーー」

 「なんだ。いいにくい事があるのか」

 「それが」

 「良い。何でも言ってみろ」

 「空耳かもしれませんが、皇后様に青毒蛇ドリンクのことで話を伺っているときに、『折角殺したのに子供ができなければ』と聞こえたような気がしたのですが」

 「わかった。黙っていよ」

 宰相は先の皇后を母親のように慕っていたので、どうしても言わなければと思って、言ったのである。


 皇帝は宰相の別荘に着いた。

 獣になった皇后と侍女から逃れられてホッとしている。


 「さて、侵攻計画を練る。我が国の海岸は断崖で港を作ることは不可能だ。船での出兵はできない。東の山脈を越えることも事実上できない。残るは海岸道だ。海岸道は二人並んで歩けるのか。荷車を引いた馬は通れるのか」


 「大体は二人並んで歩ける程度ですが、数ヶ所一人でなければ歩けないところがあります。そこは裸馬がやっとです。荷物を積んだロバ、馬では通れません。商人は、隘路の手前で馬やロバの荷をおろし、裸馬を通過させ、人が荷物を運んで隘路を通過、再び馬やロバに荷を積むそうです」


 「神聖教国に使いを出せ。友好を深めたい、ついては海岸道の隘路になっているところを共同で改修したいと使いを出せ。神聖教国は今は孤立しているだろうから乗って来るだろう。費用を出し渋ったらこちらでやると言って良い。気取られるな。あくまでも友好のために往来を楽にしたいということで進めろ」

 「わかりました。よく言い含めて使いを出します」


 「二人並んで歩けるくらいだと馬に荷車を引かせるのは難しいな。海岸道全部を荷車が十分通れるくらいに拡張するのは不可能に近い。十分現在の海岸道が通れるくらいの幅の狭い荷車を作れ。その荷車が通れるくらいなら隘路も拡張することもできるだろう。荷車同士を繋げて1頭の馬で2台引けるようにしろ。それで普通の荷車かやや少ないくらいの量は運べるだろう。すぐ取り掛かれ」


 「わかりました。あれの購入はどうしましょうか」

 「お前、前金をたっぷりもらったみたいではないか。やらなければまずいだろう。気の利いた奴に神聖教国とその先の国に行き来している商人を付けて行かせろ」

 「わかりました。手配します」

 「あまり買って来るなよ。頼むぞ。入手困難でいいのだからな」

 「承知しました」


 「それからランベルトよ。武器の調達を急げ。それと兵糧だ。神聖教国自体では農業はほとんどやっていない。教都周辺の村で細々自分たちの食糧を生産しているだけだ。教都の食料は信者から搾り取っているだけだ。蓄えも少ない。だから神聖教国での兵糧の調達は少量にとどまる。神聖教国を蹂躙して次の国で食糧を奪うまでの兵糧が必要だ。次の国も小国なのでうっかりすると兵糧が入手できないかもしれない。国内から十分調達しろ」


 タウリス宰相が慌てて言う。

 「我が国は山地で穀物の収穫はわずかです。兵糧を十分調達する余裕はありません」

 「リュディア王国と、アングレア、スパーニア王国を占領したら食料は豊富に手に入るだろう。それまでは草や木の葉っぱでも食わせておけ」

 「兵にも家族がいます。それでは士気があがりません」

 「そこをなんとかするのがお前の役目だろう。根こそぎ徴発しろ」

 「ーーーわかりました。兵に知られないよう徴兵が終わって兵を集め終わったら徴発を始めます」

 「それでは遅い、海岸道から遠いところから徐々に徴兵し、兵が故郷を離れたらすかさず徴発を始めよ」


 「まずは海岸道の工事だ。徴兵、徴発が終わるまでに終了させよ。徴兵、徴発が終ったらすかさず進発。準備にかかれ」

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