144 託児所の王都見学 三馬鹿ハルトは横道に逸れる
今日は、託児所の王都見学である。
人数がいるので出来ることだと園長に言われた。褒められているのだろうが、少し違うような気がする。
園児と保母さんはエチゼンヤさんが用意した馬車である。30人は徒歩なのである。待遇が違うのである。ガタイの良い30人まで馬車では馬車の数が多くなってしまうのはわかる。
だが保母さんと園児が馬車に乗ったら一言もなく出発である。いや一言はあった。馬車が動き出したら園長が馬車の窓から顔を出し、周りの警備はちゃんとしてくださいとの一言はあった。
エチゼンヤの茶店の前を通ると、茶店の人が城門の門番に交渉に行った。馬車は特別に列に並ばず入れてくれるそうである。俺たち30人は蚊帳の外だ。門番をじっと睨む、睨む。いや見ていると門番が根負けしたようで馬車と一緒に入れてくれた。
中央広場近くまで進むと、脇道の路地の店頭で店主らしい人と悪人ヅラが揉めている。園長を見ると頷いている。話がわかる園長どのだ。もちろん最初は三馬鹿ハルトの出番だ。
路地に入っていって揉めている店員さんらしい人に聞く。
「どうなさいましたか」
「こちらの方から、無事に商売したければ上がりの3割寄越せと無理を言われているのです。我々が一生懸命働いて利益もほとんどないなかから3割取られたらやっていけません。そもそもこの方々に払ういわれはありません」
「だから言っているだろう。無事に商売するための保証金だ。払わないならわかっているだろうな」
「ははあ、これが噂に聞くみかじめ料ですか。初めて現場に立ち会いました」
「だれだ、てめえ達は」
「聞かない方がいいですよ。ところでお前さん達は何者でしょうか」
「俺たちのことを聞いたからにはお前達も無事でお天道様が拝めると思うなよ」
「そうですか。それは大変ですね。大変面白い。お前さん達は何者だい?」
「俺たちは闇の組織、ブラックパンサーだ」
「組織のトップは、動物だったんですか。それはそれは」
「ふざけんな、俺たちの力を見せてやる。店主、こうなりたくなかったら払うものを払え。野郎どもやってしまえ」
十数人が一斉にドスを抜く。
「おや、またドスですか。この間の三人組のお仲間でしょうか」
「俺たちの兄弟の手首を握りつぶしたのはてめえらか。ゆるさねえぞ」
「我々は聖職者ですから、襲われなければ手は出しませんよ」
「うるせえ。殺ってしまえ」
「襲われましたね」
「「襲われた」」
「では、参りましょう。今回は人数が多いから一人三、四人でしょうか」
「早い者勝ちだな。お、抜け駆けするな」
あっという間に十数人が路地をのたうち回る。今回も手首が握りつぶされた。
店主が青い顔をして言った。
「神父さん、こんなことをしてくれては、ブラックパンサーあげて襲って来ます。困ったことをしてくれました」
「なるほど、そうか。根こそぎやらなければまずいな。わかった。任せておけ」
「どいつがいいかな。先ほど偉そうな口をきいたコイツにしよう。おいお前、お前らのアジトはどこだ」
「バカにするな、言うものか」
「早く吐かないとツアコンさんが来るぞ」
「なんだそれは」
「あら、呼んだかしら。王都見学に行ったと言うから面白そうだから来てみたのね。やっぱり面白いわね」
のたうち回る十数人をみてツアコンさんが閃いた。
「ブランコの骨折治療の練習を魔物相手にやったのだけど、人間の骨がどのくらいかやってみなくてはわからないのよ。旦那は鈍いから。ちょうど練習相手にいいわね。一人借りていくわ」
ツアコンさんと悪人の一人が消えた。
「なんだ、どうしたんだ。てめえらは何者なんだ」
「知らなければ教えてやろう。昔、名を馳せた三馬鹿が表に出なくなって久しいが、世の中の悪事の種は尽きねえ。以前は、神聖教国で、ドラゴン悪魔派幹部、聖ドラゴン派幹部、中立派重鎮と恐れられた三人組。今はシン様教に改宗、この頃名高い三馬鹿ハルトとは、ゴットハルト、ラインハルト、ベルンハルトの俺たち三人組のことだ」
「長台詞のお前達か、モーリス侯爵邸前の落とし物金庫事件の犯人は。俺たちのダチの手首をやった犯人は」
「犯人とはとんだ言いがかりだ。俺たちはお前達のダチと一緒に金庫を拾っただけだ」
「嘘をつけ」
「はいはい、ブランコが鈍くてね。ダメだわ。返す。次行こう」
手足があらぬ方向に曲がった男を放り出して、ツアコンさんが次の犠牲者を連れて消えた。
「おい、これは曲がった形で骨が固まっているぞ。ブランコ様は不器用だな。しかしまだ十人以上いるからそのうち上手になるだろう」
「そうだな。しかしこれは酷いな。手はまるっきり後ろを向いている。肩の関節が前後左右逆だ。これではものを掴むのに大変だろう。足は踵が前に来ている。膝は前向きだ。どうするんだ。歩くのも大変だぞ」
「今連れて行った男はどうなるかな。上達しているといいが」
「この男の骨つぎの具合では見込みはないな」
「おい、なんだ。どうしたんだ。俺の仲間は手足が変に曲がっているぞ」
「いや、その、なんだ。今の方の旦那が不器用で、骨折を治す練習をしているのだが、魔物ではうまくいくようになったようだが、人間では試したことがなくてだ、ちょうどお前達悪党ならどこからも文句が来ないだろうと、骨折治療の練習をしているんだ」
「ダメね。まったく。次」
男を放り出して、つぎの犠牲者を連れてツアコンさんが消えた。
「おい、今度は首が後ろを向いているぞ。生きているのか?突いてみろ」
ツンツン。
「生きているみたいだ」
「これもまた大変だな。どうするんだ。1日後ろ向きで生活しなければならないぞ。手は手探りだろう」
「おい、もうやめてくれ。頼む」
「そう言われてもな。何しろ滅びの草原の魔物がツアコンさんの一と睨みでチビるのだ。とても俺たち三馬鹿ハルトがとやかく言えるものではない。言ったろう、早く吐かないとツアコンさんが来るって。アジトを吐かないお前らが悪い」
「まったくダメだわ。次」
「今度はなんだ。あああ、足がない」
「大腿骨の骨折治療の練習をしてつい力が入って踏み潰してしまったのだろう」
「これもかわいそうだな。俺たちは優しいな。手首だけだ」
「しかしだんだん減って来たな。足りるかな」
「なに、ブラックパンサーの構成員はたくさんいるだろう。そのうち上手くなるさ」
「はい、次」
「ああ、今度はなんだ」
「一応正常みたいだが」
「待て、右足が短くなっている」
「おお、骨折治療で踏み潰したところを除いてくっつけたのか。さっきより進歩したな」